これも、人徳があればこそ。「車輌本体価格0円」の愛車、マツダ・RX-7(FD3S型)との暮らしを楽しむオーナー
生産が終了してもなお、眩しい魅力を放つ名車たち。その中でも、ロータリーエンジンを心臓に持つピュア・スポーツ「マツダ・RX-7」は、もはや誰もが認める1台であろう。
マツダ・RX-7(FD3S型)の誕生は、マツダ・787Bが「ル・マン24時間耐久レース」で優勝を飾った1991年。ボディサイズは全長×全幅×全高:4280x1760x1230mm、シーケンシャルツインターボを搭載した2ローターの13B型エンジンは、「4型」のタイプRBで265馬力を(AT車は250馬力)、「6型」のRSで280馬力を発揮していた。
2代目(FC3S型)に冠していた「サバンナ」の名称は、マツダの販売チャンネルの1つであった「アンフィニ」と改められた時期もあった。RX-7は、1~6型へと進化を遂げながら2002年までの11年間販売された。
今回はRX-7(FD3S型、以下RX-7)を友人から譲り受けて所有しているオーナーをご紹介したい。オーナーの男性は31歳。愛車のRX-7は、1996年式の「4型」だという。グレードはマイナーチェンジ後に追加された「タイプRB」である。
RX-7の前は、1966年式のトヨペット・コロナ(RT40型)を所有していたというオーナー。RX-7とはまったく趣の異なるクルマで、これは意外だった。
「コロナのエンジンが故障してしまって、修理不可能だと聞かされました。困っていると、都内在住で、実家が青森という友人から『実家に乗っていないRX-7があるのでどう?』という声が掛かったんです。そこで、さっそく青森まで出向いてクルマを受け取り、仮ナンバーを取得して自走で帰ってきました。もしかして乗って帰れるのではないかと思い、試してみましたが、何とかなりましたね」。
と、オーナー。驚くべきはその行動力だが、衝撃を受けたのは、RX-7を無料で譲り受けたことだろう。「タダ」ということは、車体が問題を抱えているのが一般的だと思われるが、個体のコンディションには問題なかったのだろうか?
「1年か2年ほどまったく動かしていなかったらしいんですけど、走行には問題なかったです。途中でライトカバーが飛んでしまったくらいでしょうか」。
素直に「うらやましい」としか言葉が思い浮かばない。あのRX-7を“タダ”で手に入れられるチャンスは滅多にない。これほど幸運なオーナーに、これまでの愛車遍歴を伺ってみた。
「トヨペット・コロナの次は、このRX-7です。1台のクルマを長く乗るスタイルです」。
RX-7に乗りはじめて、変化したことはあるのだろうか?
「イギリスのBBCで放映されているテレビ番組『Top Gear』の司会だったジェレミーの名言を拝借すると『パワーがすべてを解決した』というところでしょうか。コロナと比べて、高速道路の合流と巡航が非常に楽になりましたね。ただ、親戚からはコテンパンに言われています。親族の葬儀に参列した際、このRX-7で駆けつけたんですけど、到着した途端に親戚全員が家から出てきて『何だかうるさいクルマが来た』と。一緒にいた叔父さんも、黄色いアメリカ製スポーツカーだったのに…。
そんなオーナーの「人生を変えたクルマ」は、存在するのだろうか?
「ロータス・ヨーロッパですね。31歳の私は、リアルタイムでスーパーカーブームを体験していませんが、近所にロータスの専門店があったので、身近なクルマでもありました。その影響で『サーキットの狼』を読んで衝撃を受け、中学生になった頃にはいつか手に入れようと決意していたのですが……。なぜかコロナに縁があったみたいです。それから、F1の存在は大きかったと思っています。しかもマクラーレン・ホンダの全盛期で、当時は5歳か6歳だった気がするのですが、同級生たちはTVのヒーローに夢中だった中、私にとってはアイルトン・セナがヒーローでした。そのため、幼い頃の夢はF1レーサーでした。1994年5月1日、あの事故以来、クラッシュしたマシンを画面で目にしてからF1を観なくなってしまいましたね。これを機に『走り屋系』の漫画に興味が移りました」。
幼少時代からTVヒーローよりもクルマを愛してきたオーナー。今、同世代のクルマ好きな友人はどのくらいいるのだろうか?
「私の周りでは、幸いなことに幼い頃からクルマ好きの友人がいます。今は日産 シルビア(S15型)を所有していて、クルマを弄っていると遊びにやってきたり、ミーティングにも一緒に出かけたりしますよ。あらためて周りを見ると、クルマ好きの仲間は多いですね。漫画の趣味つながりで、クルマ好きのミーティングを開催している影響も大きいのでしょう。思えば『スーパーカー世代』の方たちの少年時代って、さぞかし楽しかったのでしょうね。周りがほとんどクルマ好きばかりで、いつまでもクルマ談義をしても飽きないと思います。今は、クルマが好きと言うとオタク扱いをされやすい傾向にあるので、肩身の狭い思いをすることもときどきありますが…」。
オーナーの周囲は、かなり多くのクルマ好きに恵まれているようだ。次に、RX-7のモディファイについて詳しく伺った。
「私のRX-7は、ボディカラーが黒だったこともあり『頭文字D』に登場する岩瀬恭子の仕様を意識しています。部品はヤフオクやメルカリで調達していまして、DIYで仕上げています。例えば、バンパー・サイドステップは、BORDER Racingのものを購入して自家塗装をしています。まず、缶スプレーで厚めに塗り、紙ヤスリをかけ、仕上げにポリッシャーで磨きあげます。以前に自動車関連の会社で勤務していたことがあり、その経験が生きています」。
オーナーは謙遜しているが、実際にはかなり本格的な仕上げで、自家塗装だとは言われるまで気づかなかった。車体を眺めてみると、オーナーのこだわりが見えてくる。前期型のテールに交換している点にこだわりを感じるうえ、黒いボディーのアクセントとなっている、印象的なデザインのホイールにも目が行く。
「このホイールはRE雨宮製のAW7といって、すでに絶版モデルです。ボロボロだったんですけどね…こちらもヤフオクで見つけました。ネットオークションで見つけた部品は、他にも色々あります。TRUST製マフラー・BLITZ製ブローオフバルブ、エアクリーナーもBORDER Racing製ですね」。
車体のほかに、友人からプレゼントされた部品もあったりするのだろうか?「もしや」と思い、伺ってみた。
「私のクルマは、だいたいもらい物でできています(笑)。リアウイングは後期型の純正タイプなんですけど、これは友人からの誕生日プレゼントです。RECARO製のセミバケットシートももらい物なんですよ」。
車体から部品まで無料で譲ってくれるような仲間たちに恵まれているのは、オーナーの人柄にしか理由がないと思う。今後のモディファイの予定はあるのだろうか?
「インタークーラーを付けたいですね。前置きにすれば、エアロもカッコ良く決まると思います。URASのインナービレットグリルを使って、それっぽく見せるのもいいかもしれません」。
最後に、RX-7と今後どう接していきたいかを伺った。
「エンジンが寿命を迎えるまで乗ってあげたいですね。壊れてもまた載せ換えるんじゃないかな。クルマは原寸大のプラモデルですからね。地面が砂利でなければ、ジャッキアップして弄れるオモチャです。今後もこのRX-7を、ミニ四駆やプラモデルの感覚で手を入れていけたらと思います」。
青森まで足を伸ばし、そのまま自走してくる行動力や、肩の力を抜いてクルマと接し、それまで所有していた愛車とまったく趣の異なるクルマを長く愛する、オーナーのスタイルに魅力を感じる。
今やこのRX-7も、最終モデルですら16年も前のクルマとなった。今でも超がつくほどの極上車を所有し、屋根付きのガレージで保管し、雨の日は乗らない。そんなオーナーもいるだろう。
しかし、この個体のオーナーのように、自然体でRX-7と接する姿に対して、密かに憧れを抱いている人も少なくないのではないだろうか?そんな、大らかなキャラクターに惹かれ、困ったときには迷わず手を差しのべてくれる友人たちも自然と引き寄せられるのかもしれない。そんなオーナーのRX-7との暮らし方が心底うらやましいと感じた取材だった。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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