ロードスターにロータリーエンジン、そしてRE雨宮。そんな大好きが詰まったオートサロン出展車両を購入したら!?
日本最大規模を誇るロードスターの集い「軽井沢ミーティング」の会場で、一際異彩を放っていたこちらの車両。もちろんロードスターには違いないが、パッと見では車種の判別がつかない。
それもそのはず、このクルマはロータリーエンジンを搭載したRE雨宮の2015年オートサロン出展車両という超ド級の1台なのだ。ベース車は、NB8Cロードスターだが、外装で原形が残っているのはドアとピラーぐらいだ。
そんな極上チューンドカーを現在所有しているのが、東京都あきる野市在住の黒木栄豪さん(48歳)だ。黒木さんはなぜこの車両を購入し、そして現在も大事に乗りつづけているのか。そこには彼のロードスターとロータリー車、そしてRE雨宮に対する深い尊敬と愛情が存在した。
「僕はマツダ車が大好きなんです。幼いころ、父親が乗ってるファミリアがラリーで活躍しているのを知ってレースが好きになり、レースを見るうちにマツダが好きになって、さらにル・マンでの活躍を見てロータリーが好きになった、という経緯なんですけど」
「これまで乗ってきたクルマもマツダAZ-1を2台にNA8CとNA6Cのロードスター2台などマツダ車がメインで、今は2台目に買ったAZ-1とRX-8、それにこのNB8C改の3台を所有しています。ロードスターは3台乗り継いでいます」
生粋のマツダ&ロータリーファンの黒木さん。その中でもロードスターを3台も乗り継いでいる理由は運転の楽しさ。
「友人のロードスターにはじめて試乗させてもらったら、あまりにも運転が楽しくて。それまではAZ-1に乗っていたんですけど、すぐにNA8Cのロードスターを僕も買いました。これが10年くらい前に乗っていた1台目になります。その後、そのクルマを傷つけられたり、エンジン不調になったりして、気落ちして手放したときに2台目のNA6Cのロードスターに乗り換えたんです」
そんな彼がこの極上チューンドカーが売りに出されるのを知ったのは、雨さんのブログでたまたま見かけたからだったという。
「RE雨宮の出展車両は、いつも“売ります”コーナーに出るんです。けれど、このクルマは売りに出される前に、雨さんのブログを見ていたら社屋の中で値札がついて置いてあったんです。すぐに電話しましたね。自分が一番に見に行ったのですが、安い買い物じゃないので一度考えさせてもらって……」
「その1週間後にもう一度電話をしたら、今度は試乗させてもらえることになったんです。そのときは、まだセッティングが出ていなかったんですけど、もう1週間悩んで『買います!』と電話しました。まあ、その3回目も銀行のローンが通ったらという話になったのですが、ローンが通ってしまって(笑)」
黒木さんがこのクルマを購入できたのは、雨さんブログをチェックしていたことと、このロードスターを気にかけていたからこそ。だとすれば彼の手に渡ることは、もう必然だったのかもしれない。
「もともとショーカーとして製作されたデモカーなので、車検は取ってありましたが、車高がベタベタだったり、コンピューターセッティングもサーキット仕様になっていたりしたんですよね。自分は街乗りがメインですし、しっかりと合法仕様に仕上げるために、いろいろと再セットアップしてもらいました」
「ちなみにお店からはとくに制約があるわけではなく、“もう渡したらその人が自由にしてください”というイメージだったので、好きに乗りたいなと思っています。そのぶん苦労もありますけどね」
こうして3週間悩んだ末に世界でたったひとつしかない雨宮ロードスターを手に入れた黒木さん。とはいえ、気になるのはマツダ車好きとはいえ、どうして当時ローンを通してまでこのロードスターを買おうと思ったのか、というところだが、そこには明確な理由があった。
「最新のNDロードスターってシャープな形状ですけど、ロードスターの原形って丸みを帯びたクルマなんですよ。このクルマって、そこを雨さんがNDの出る前、NCの後に出る時期ロードスターがこんなクルマならいいな、そんな姿を体現したものなんです。その雨さんの想いに賛同したところが大きいですね」
「ロードスターという車体にRX-8のロータリーエンジンを載せているところも、オーバーフェンダーの丸みのある雰囲気や、全体的に曲面を意識したエアロデザインも気に入っています。それにFD3Sにボディラインが似ているところもあって」
「というのも僕は、FD3Sが好きすぎて、本当にいいものがあったらほしかったけど妥協できなくて買えなかったんです。その途中にこのクルマと出会ったので購入しましたけど、いつかはFD3Sがほしいなと思っていました」
「でもFD3Sでなく、このロードスターを買う最大の決め手は、誰かの手に渡ったらほぼ手放すことはないだろうし、このタイミングを逃したら手に入らないと思ったからです。それに雨さんの改造車も大好きなので、世界でひとつのエアロをまとったロードスターが手に入るなら夢みたいなものですよね。これ以上の価値はないです!」
つまり、このクルマは、FD3Sの雰囲気を持つロードスターにロータリーエンジンを載せたRE雨宮仕様、と黒木さんの好きな要素がギュギュッと詰め込まれた理想そのものだったというわけだ。
こうして理想のロードスターを手に入れた黒木さん。ただ、元ショーカーだけにその特有の苦労やメンテナンスなどがあるのではないかと思い、伺ってみた。
「まずオイル交換やプラグ点検などは自分でやっています。自分で手に負えない基本メンテナンスはロードスターとしてわかる部分をディーラーにお願いしていますね。あえて苦労している点といえば、それ以外の電装関係とエンジン系のチェックやトラブル、車検についてはRE雨宮さんのお店まで行かないといけないというところ。でも、それも所有欲のほうが勝っているので、苦労というほどじゃないですね」
RE雨宮にすべてをお願いするというわけではなく、ご自身とディーラーと状況に合わせて対応することで、しっかりと維持管理を図っているというわけだ。それ以上にこのロードスターをマツダのディーラーで見てもらえるというのがすごい。しっかりと車検に対応している証とも言える。
そんな雨宮ロードスターを黒木さんは、基本的には購入時の状態を維持しつつも、NBロードスターらしさを残した内装を中心に楽しく運転しやすいように手を入れている。
ちなみに外装では、「もともとエンケイPF07という黒いホイールを履いていたんですけど、ロードスターのライトウェイトホイールって同じエンケイでもRPF1という型が主流で、これを付けたいなーと変えました」と、唯一ホイールのみが黒木さんの好みで交換されているところがポイント。
また、アルファロメオ・ミトのアフターパーツが採用されたヘッドライトやフロントリップまわり、リヤの丸テールなど、丸みを帯びたデザインも黒木さんの好みだそうだ。
一方の内装は、このクルマ専用のフルバケットシートやRE雨宮ロゴ刺繍シフトカバーなどオリジナルはそのまま生かしつつも、黒木さんが使いやすいような仕様に変更されている。
「コンソールは、後ろまでつながった長めの純正のものがついていたんですけど、シフト操作のときに肘があたるので、NB用としてショップが出している短いものに交換しています。メーターまわりのカーボンシールも、そのままだと光って反射がまぶしかったので自分で貼りました」
「あとはステアリングですね。もともとマツダ純正のウッドハンドルが付いていたんですけど、このクルマは重ステなのでウッドハンドルだと滑ってまわすのが大変(汗)。そこで革素材かつブラウン系のものを装着したんですけど、探すのには苦労しました。あとロードスターはあんまり収納がないので、自分が使いやすいようにポケット関係は増やしています。このブリッドのサイドボックスも自分で追加して、光軸調整の工具を入れて重宝していますよ!」
こんな感じで内装は、実用性重視のカスタムがメインだが、それだけではない。ドリンクホルダーとエアコンのリング部分は、自分でプラモデル用の塗料を使い、ボディカラーに合わせて調色してペイントするなど、まったく違和感なくドレスアップされているところに黒木さんのセンスを感じる。
それにしても、クルマ好き云々関係なく、まわりの注目を浴びやすく、しかもこれだけ大事にしているからにはイベント時専用なのかと思うのが普通だろう。
しかし、黒木さんは「コンビニや買い物にも行くし、雨の日でも関係なく乗っていますよ。AZ-1とこのクルマで、乗る頻度に偏りがでないように最低限1カ月交換くらいで乗るようにしています。やっぱり乗っていないと傷んでしまうので」と、普段乗りとして積極的に動かしているという。
となると、やっぱりまわりから話しかけられることも多いのでは?と気になり尋ねたところ、「イベントでは話しかけられることも多いですけど、それ以外では遠巻きに見られていることが多いです(笑)。あとシャボン玉のステッカーがファンシーなので、小さい女の子が見ていきますよ」との回答に納得。
そんな黒木さんに、今後の予定や目標などについて伺ってみた。
「雨さんは、これまで『エアコンとパワステがないと今のクルマじゃない』と絶対にデモカーにはこの2つをつけているそうなんです。でもこのクルマは、エアコンは効きますが、エキマニの取り回しの関係でパワステ化が難しく、とても残念がっていたんです。ただ、今なら後付けの電動パワステが出ているので、今度はそれを付けようかという話になっているので楽しみですね」
「あとはやっぱり塗装がちょっと傷んできているので、オールペンで同じように戻したいです。水玉ステッカーもデータ作成した方に同じように作っていただけることになっていますし。あと、このクルマではないですが、もしマツダが次のロータリーを出すんだったら乗ってみたいですね」
と、長く乗るために必要なことをしっかり見据えて計画していることがよくわかる。
RE雨宮のような有名ショップのオートサロン出展車両をそのまま街乗り愛車として乗るという決断は、いくら気に入った車両とはいえ実生活を考えたときに覚悟のいる選択だろう。
しかし、それを乗り越え、彼が車両を手に入れた先に待っていたのは、「自分にとって雨さんは神様みたいな存在なので、そこで一緒に話ができたりするのはすごい。そういう点でもオンリーワンのクルマで、そこに勝るものはありません」とプライスレスの特典だ。
それはきっと黒木さんがこの雨宮ロードスターが大好きで大切に乗りたいという気持ち、そしてこのクルマを大事に乗ってくれるお客様のことを第一に考えたRE雨宮の方針がマッチしているからにほかならない。黒木さんはこれからもRE雨宮と手を携えながら、この愛車を大事に乗っていくことだろう。
(文:西本尚恵/撮影:三木宏章)
[ガズー編集部]
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