約27年・48万キロをともにしたワンオーナーの愛車。1991年式三菱・GTO ツインターボ(Z16A型)
唐突だが、地球を一周したときの距離をご存知だろうか?
赤道の長さは約4万キロといわれている。ということは、これがひとつの目安になりそうだ。では、地球から月までの距離はというと、約39万キロなのだという。
今回は、地球であれば約12周、月までの片道以上の距離を1台のクルマで走破しているオーナーを紹介したい。
「このクルマは、1991年式三菱・GTO ツインターボ(Z16A型)です。新車で手に入れて、現在は27年と4ヶ月になりました。現在の走行距離は、通算で約48万キロです。もしかしたら、日本でもっとも多くの距離を走っているGTOかもしれません」。
三菱・GTO(以下、GTO)は、まず1989年に開催された第28回東京モーターショーにおいて「三菱・HSX」として参考出品され、大きな反響を呼んだ。そして、約1年後の1990年に「GTO」という名を冠して発売されたスポーツクーペである。
GTOのボディサイズは全長×全幅×全高:4555x1840x1285mm。オーナーの個体には、「6G72型」と呼ばれる排気量2972cc、V型6気筒DOHCツインターボエンジンが搭載され、最高出力は280馬力を誇る。GTOにはNAエンジン仕様も設定され、こちらはATも選ぶことができた(ツインターボはMTのみ)。なお、全グレードの駆動方式は4WDとなる。
スタリオンの後継車という位置付けのGTOだが、4度にわたるビックマイナーチェンジを行い、2001年まで11年にわたって生産が続けられた。オーナーが所有するリトラクタブルヘッドライトを持つモデルは、1993年まで造られた初期型のみであり、11年間というモデルライフにおいて半分にも満たない期間しか生産・販売されていない。余談だが、GTOは日本車として50タイヤや6速MTが初採用されたクルマでもあるのだ。
そんなGTOとの「馴れ初め」をオーナーに伺ってみた。
「高校時代の友人が、1989年に開催された東京モーターショーのチケットが余っているから一緒に行ってみないかと誘ってくれたんです。三菱のブースに出品されていた『三菱・HSX』を見た瞬間に一目惚れしましたね。『このクルマが発売されたら絶対に買う!』と決意しました。それくらいの衝撃でした。当時、モーターショー会場で撮影した写真を今でも部屋に飾ってあるんですよ(笑)」。
その後、「三菱・HSX」は「GTO」として正式に発売されることになった。
「モーターショーに連れて行ってくれた高校時代の友人の友人が勤務する三菱ディーラーに赴き、予約注文という形でオーダーしました。ボディカラーは、イメージカラーであるパッションレッドに決めていました。ディーラーにはフィジーブルーメタリックのGTOが展示されていたんですが、派手な印象を持ったこともあり、当初の予定通りカタログカラーでもあるこの色を選びました。私は現在、54歳になりますが、購入当時は27歳でした。GTOは決して安いクルマではないので、一目惚れで好きになったとはいえ、購入するときは一大決心でした」。
こうして念願のGTOオーナーとなったわけだが、自身のなかで変化はあったのだろうか?
「それまで、5年ほど日産・スカイライン GT-EX(R30型)に乗っていたんです。GTOが2台目のクルマとなるので、二十歳で運転免許を取得してから、これまでの私の愛車遍歴は2台のみとなるわけですね。GTOを手に入れてからは、オーナーズクラブにも所属して、同じクルマを持つ仲間たちとの交流を深めています。現在も所属している『東京GTO倶楽部』では、20数年来メンバーの一員として活動しています。驚くことに、私の他に3人がワンオーナー車としてGTOを所有しているんです」。
ところで、GTOに詳しい人なら、この個体の雰囲気が微妙に異なることに気がついているかもしれない。
「現在の仕様ですが、大まかにいうと、外装はヨーロッパ仕様に、内装は北米仕様にモディファイしています。オドメーター上の距離では42万キロ台ですが、過去に2度交換しているんです。1度目はイギリス仕様にしてみたのですが、マイル表示だと油脂類の交換サイクルが分かりにくくなるので、左ハンドルの輸出仕様のメーターに交換して現在に至ります。そのため、トータルで約48万キロになります。それと、純正シートが傷んできたので、左右ともにレカロシートに交換しました。その他、マフラーはフジツボ製のワンオフ、ホイールはWedsSport製のRN-55Mをチョイスしています」。
27年4ヶ月、そして約48万キロという時間と距離を重ねてきているだけに、トラブルもそれなりにあったのかもしれない。
「GTO乗りの友人宅に遊びに行ったときに、コンピューターが燃えてしまい、走行不能になったことがありました。27年4ヶ月のあいだで大きなトラブルといえばこれくらいですね。あと、これはトラブルというわけではありませんが、それ相応の距離を走っているので、載せ換えたものも色々あります。具体的には、現在のエンジンは2基目です。このエンジンに載せ換えてからそろそろ10万キロに到達するので、タイミングベルトを交換してあげようと思っているところです。ちなみに、ミッションは4基目、マフラーおよびクラッチは4セット目、アルミホイールは6セット目になりました。これらのメンテナンスは三菱のディーラーにお任せしています。
ミッションはまだ寿命ではなかったんですが、偶然、新品が見つかりまして。しかし、トランスファーも新品に交換しなければ取り付けられないんですね。幸運なことに、友人から新品のトランスファーを譲ってもらえることになり、両方とも思い切って交換しました。
このGTOは毎日の通勤の足として使っていますし、週末はドライブにも出掛けます。平均すると、年間で2万〜2万4千キロくらいは走ります。クルマは走ってナンボという考え方ではありますが、その分、メンテナンスの重要性は理解しているつもりです」。
GTOの生産が終了してから、早いもので20年近くになる。やはり、気になるのは純正部品の確保だ。
「純正部品もかなり欠品が増えてきましたよ。私もそれなりにストックを持っていましたが、これまでのメンテナンス時に使ってしまった部品も多いですね。これまでは何とかなっていますが、今後、センサー類が故障したとき、代用品が見つからないのでは…と、ちょっと心配ではあります」。
最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。
「私にとって、もはや体の一部のような存在です。ディーラーにクルマを預けていると何だか寂しいですし、代車で通勤すると『もしや、ついに買い替えたの!?』と心配されます(笑)。27年間、毎日乗っていても飽きないですし、他に乗りたいクルマも思いつきません。これからもずっと乗り続けたいですね」。
生涯のうちに何10台もの愛車遍歴を重ねたとしても、自分にとってベストマッチな1台にめぐり逢えない人もいるなかで、1台のクルマとこれほど長い時間、蜜月の関係でいられる。クルマ好きとしてこれほど幸福なことはないだろう。
もうひとつ、オーナーにちょっと意地悪な質問をしてみた。「本当に一度も他のクルマに浮気したいと思ったことはありませんか…?」と。
「これまで1度もありません!」
即答だった。よく見ると、美しく磨き上げられた真紅のボディのフロントバンパー、そしてサイドエアインテーク(ここはダミーのようだが)の部分で塗装の地肌が見えている。飛び石が当たったことによる傷、いわゆる「走り屋の勲章」だ。
大切に乗りつつ、クルマ本来のポテンシャルもきっちりと引き出すためにコンディションを保ち続けている…。そのために、決して安くはない出費だったこともあるはずだ。
もし、GTOの開発メンバーがこの記事を読んでくれているとしたら…。30年近くも前に世に出たクルマが、今もこうして現役のマシンとしてほぼ毎日、元気に日本の路上を走っていることをお伝えしたい。そして、それほど溺愛できるクルマを世に送り出したことを、自身の誇りにしていただけたら…。オーナーも自分のことのように喜んでくれるはずだ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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