24歳のオーナーが「普段使い」する1991年式スバル・レックス フェリア(KH3型)の魅力と、彼のカーライフに起こった変化とは?
今回登場する24歳のオーナーは、以前紹介した1960年式オースチン・ヒーレー・スプライトMarkⅠ(通称カニ目)と同一人物だ。
以前、オースチン・ヒーレーを取材した際に、もう1台の愛車があると聞き、今回、再度インタビューを行ったというわけだ。
オーナーは24歳と若い。整備士の腕を生かし、自らの手でレストアしたオースチン・ヒーレーのほかに、このスバル・レックス フェリア(KH3型)を「普段使い用」として所有している。
スバル・レックスは、1972年から20年間にわたって生産されていた軽自動車である。1992年に生産を終了し、後継モデルのヴィヴィオへとバトンタッチされた。そんなレックスとの「馴れ初め」とは?
「レックスと2台体制になってから、もうすぐ1年を迎えます。オースチン・ヒーレーと同様に、パワーウィンドウなし。しかも、インジェクターではなく、キャブレターのクルマです(笑)。走行距離は5万8900キロですが、実走行なのかメーターが1周しているのかどうかは、不明ですね。私が手に入れてからは約8000キロ走りました」
インジェクションの世代ながら、あえてキャブレターの道を選ぶ若きオーナー(しかも、2台の愛車いずれも…なのだ!)。もともと彼の家庭はクルマ好きだったわけではないという。きっかけは、偶然実家にあった「自動車図鑑」を眺めながら育ったから、とのことだ。
「好きなクルマ」を尋ねてみると、初代日産・セフィーロ(A31型)や、プレジデント (ロングボディ・フェンダーミラー限定・G50型)、マツダ・AZ-1、マセラティ・シャマル、クアトロポルテ(先代モデル、先々代モデル)、ランボルギーニ・ミウラなどが挙がってきた。ちなみに「アガリの1台」は、予算を抜きにした場合、パガーニ・ウアイラに乗ってみたいという、若者らしい夢のある答えだった。特に、インパネのデザインの美しさに、心を掴まれたという。
そんな彼が所有するスバル・レックス フェリア(KH3型、以下レックス)は確かに古いクルマだが、オーナーの個体は普段からしっかりとメンテナンスされているとわかる。プリアントグレー・メタリックという名のボディカラーは、磨かれていて艶やかだ。オーナー曰く、友人が磨き上げてくれたお陰だという。
レックスのボディサイズは全長×全幅×全高:3295×1395×1420mm。「クローバー4(EN07A型)」と呼ばれる排気量658cc、水冷直列4気筒SOHCエンジンが搭載され、最高出力は42馬力を発生する。ちなみに、4気筒エンジンの軽自動車を最初に世に送り出したのはマツダで、1962年に発売された初代キャロルが「4気筒軽自動車第1号」である。
オーナーの個体は1991年式で、シリーズ3代目の最終型にあたる。グレード名の「フェリア」は、イタリア語で「休日」や「祭日」の意味を持つ。軽自動車の規格変更に伴い、ボディをサイズアップ。同時に、質感やスタイル・居住性の良さにこだわることで、ワンランク上の「ゆとりのミニセダン」として打ち出された。見た目からは想像がつかないかもしれないが、車内は男性4人が乗り込めるほどの、ゆったりとしたスペースが確保されている。
ところで、オーナーにとってレックスの魅力とは?
「他人と被らないクルマであること、でしょうか?ときどき年上の方から『懐かしい』と声をかけられますね。そういえばパーキングエリアに駐車していたとき、2台のヴィヴィオに『サンドイッチ状態』で駐車されたことがあります。照れました(笑)」
走っている姿を見かける機会が減りつつ両車だけに、偶然の出会いともなれば親近感を抱くオーナーが案外多いのかもしれない。
そんなレックスを、オーナーはどのような経緯で手に入れたのだろうか?
「もともとは、学生時代の友人が乗っていたクルマだったんです。友人も愛車のロードスターとは別に、普段使い用として購入していたのですが、乗る機会が減ってしまったという理由で売却を決めたそうです。そこで一度、査定に出したのですが『査定は0円』だったため、それなら仲間内に格安で譲ろうと決めたらしく、声がかかったというわけなんです。費用のほとんどが車検や重量税で、車両本体はほとんどタダのようなものでした」
購入を決めた理由は?
「以前から、気兼ねなく乗れるクルマが1台欲しいと思っていたので、チャンスだと思ったんです。それまでは、オースチン・ヒーレーで出かけたり、雨天のときは友だちのクルマに乗せてもらっていました。雨天の際にオースチン・ヒーレーで出かけると雨漏りや錆が発生してしまうため、レックスの話は願ったり叶ったり、でした」
レックスを手に入れてから、カーライフで変化したことは?
「用事がなくても、何気なく乗る機会が増えましたね。ふらっと高速に乗って、パーキングエリアまで走ってコーヒーを飲んで帰ってくるようなドライブが増えました。音楽を流しながら、あてもなくドライブするのも楽しいです。何より、雨でも出かけられるようになりました!とても使い勝手がいいクルマですね」
と、かなり満足している様子だ。余談だが、あてのない長距離ドライブは、若いうちにできるだけ楽しんでおいたほうがいいと思っている。年齢を重ねるたびに自然と頻度は減っていく。体力的な衰えや、家庭環境の変化で、夜に出かけるのがどうしても面倒になってしまうのだ。これは決して無駄な時間ではない。クルマ好きとして過ごしておくべき貴重な時間だと考えている。
普段のメンテナンスはどのように行われているのだろうか?
「メンテナンスはきっちりやっていますね。エンジンオイルは3000キロ弱で交換を心がけています。高価なオイルを使うより、安価でもこまめに交換したほうが良いコンディションを保てると思っています。さらにプラグ交換をしたら、燃費もグッと良くなりました。交換前は、リッター12km/Lだったのに、現在はリッター20km/L弱と優秀です」
クルマが古くても、整備の方法次第でコンディションの向上は可能なのだと、あらためて実感させられた。続いて、部品の供給状況も伺ってみた。
「部品は、なかなか出てこないですね。ハブベアリングやブレーキディスクなど、いちばん交換したい部品が見つからないんです。なかにはヴィヴィオから移植するオーナーもいるそうですが、ポン付けは無理(何らかの加工が必要)だと聞きました。自分の場合だったら、そこまで手間と費用をかける選択はしないと思います」
レックスには、モディファイは施してあるのだろうか?
「ほぼノーマルです。ホイールキャップは外して、あえてスチールホイールを見せています。それから、DIYでオーディオとサブウーファーを付けました。最初に入っていたスピーカーが、右側しか音が出ていなかったので、オースチン・ヒーレー用にと思っていたオーディオをこちらに付けたんです。今後のモディファイとしては、程よいローダウンと、ホイールを交換してみたいですね」
最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺った。
「正直、もっと年式の新しいアシ車が欲しいと思うときもありますが、レックスには、乗れるところまで乗っていきたいと思っています。もちろん、この先も元気で走ってくれるように、メンテナンスはきちんとしてあげたいですね。世に残るクルマ……例えば、同年代で有名なR32GT-Rやユーノス・ロードスターは、オーナーやメーカーに守られて後世に残っていくクルマなのかもしれませんが、レックスをはじめとしたクルマたちは、そのうち消えてしまうかもしれません。だからこそ、大切にしたいという想いはありますね」
一見、雑然と乗っているように見えるかもしれないが、エンジンオイルやプラグなどの消耗品の交換をこまめにし、大切に乗られていることがわかるだろう。「アシ車」といえども、オーナーのカーライフを支える、大切な存在なのである。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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