SVXを3台乗り継ぎ、現在の愛車とは20年!1996年式スバル アルシオーネSVX S4(CXW型)
いまでこそ、YouTubeやSNSなどで愛車に関するさまざまな情報を簡単に入手できるようになった。また、オーナー同士がつながることで数多くのコミュニティも形成されている。インターネットの普及によって、カーライフは多様性を有する「文化」となった。
今回の主人公は、愛車スバル アルシオーネSVXの情報を、日本におけるインターネットの黎明期(パソコン通信の時代)から発信していたオーナーだ。現在のようにリソースが無きに等しかった時代、自らソースコードを手打ちして作りあげたホームページを公開し、愛車の魅力や修理記録などの情報を伝えてきた。まさにクルマ系インフルエンサーのパイオニア的存在といえるだろう。
これまでカーマガジンやTipo、ベストカーなどの数多くのカーメディアで取材を受けていることもあり、洗車をはじめとする事前の準備など、取材班のことを気に掛けてくださる心優しい方であった(この場を借りて改めてお礼申し上げます!)。
まずはオーナーに、愛車のプロフィールを伺った。
「このクルマは、1996年式スバル アルシオーネSVX S4(CXW型/以下、SVX)です。2004年から乗っているので、所有して20年になります。現在の走行距離は約15万4000キロです。取材のときはいつも愛車遍歴を聞かれますが1台の所有が長いため、台数は乗っていません。ライターやジャーナリストの方たちから『アルシオーネに3台乗っているだけでヘンタイですよ!(※あくまでも褒め言葉だ)』といわれますが(笑)」
初代アルシオーネが生産終了した1991年に、シリーズ2代目として登場したアルシオーネSVX。キャッチコピー「500miles a day」とともに、新世代のグランドツアラーをアピールした。
独創的で流麗なフォルムが目を惹く。イタルデザインのジョルジェット・ジウジアーロが手掛けたデザインはSVXの大きな特徴となっている。航空機メーカーをルーツに持つスバルの歴史を「グラスキャノピー」という形で表現。サイドガラスの下半分のみが開閉する「ミッドフレームウィンドウ」は、日本初の採用だった。
SVXのボディサイズは全長×全幅×全高:4625×1770×1300mm。駆動方式は4WD。搭載されているのはこのクルマのために開発された、排気量3318ccの水平対向6気筒エンジン「EG33型」で、最高出力は240馬力を誇る。トランスミッションは4速ATが搭載された。
オーナーの愛車は「S4」と呼ばれる最終型で、BBS製のアルミ鍛造ホイールをはじめとする専用エクステリアおよびインテリアが装備されていた。
今の愛車を含めて3台のSVXを乗り継いできた現在56歳の男性オーナーは、中高生の頃はF1エンジンの設計開発に憧れていたという。そんなオーナーに、SVXに辿り着くまでの軌跡をお聞きした。
「私は中学生の頃からバイクが大好きで、高校はバイク通学が許されていた高専の機械工学科に進学しました。5台のバイクに乗り継ぎ、登録や保険の手続きも自分でしていました。将来はホンダでF1エンジンの開発を夢見て、卒業研究で熱力学・高効率エンジンの開発と解析を発表しました。結局、自動車とは別分野の仕事に就いたのですが、熱力学や燃焼にはいまでも興味があります」
意外だったのは、オーナーがホンダ好きであったことだ。
「ホンダNSXは縁があればいまでも所有したいクルマですね。就職した会社が、福利厚生の一環としてNSX(AT)を所有していたんですよ。それを借りて旅行へ行ったんですが、NSXのV6エンジンはやはり最高傑作だと思います。バランス取りされたチタンコンロッドのおかげでしょう。精密機械が滑らかにシュンシュンまわる感じ。“エンジンが気持ちいい”とはこういうことかと感動しました」
そんなオーナーがSVXに出会うきっかけとなったのが、1993年冬の出来事だったという。
「初めての愛車はホンダと決めていましたね。当時はソアラやレパードと並ぶ人気だったプレリュード(BA5型)を、社会人1年目だった1988年に頑張って購入しました。約5年間、色んな場所へ出かけました。1993年の冬に秋田県へ出かけたんです。ところが現地は大雪で、チェーンを装着していたもののスピンしてしまい、あわや対向車に衝突…という恐ろしい体験をしました。
この体験をきっかけにプレリュードを降り、1台目のSVXを購入することになります。全天候型のグランドツーリングカーで、4人乗れて荷物も積めるクルマ。しかもデザインがジウジアーロということで惹かれました。1年半落ちで4万キロ以上の過走行車でしたが、コンディションは良好でした。でも、当時は数年で乗り替えるつもりだったんです」
オーナーはSVXに乗り替えたことをきっかけに、パソコン通信でSVXとのカーライフを発信しはじめた。なんと1995年には、当時普及しはじめていたインターネット上に個人のホームページを開設したという。
「SVXの話はクルマ好きに好評で、ホームページを通じて全国のクルマ好きと交流できるようになりました。SVXに不具合が生じるたびに修理して、『ここが弱いよ、ここが壊れるよ』という記録を、ホームページにアップしていたんです。するといつの間にか、検索結果の上位に表示されるようになっていたようです。いまでもオーナーさんに会うたび『見てましたよ』『情報を見て買う決心がつきました』と声を掛けていただくことがあります」
オーナーのカーライフの礎を築いたともいえる1台目のSVX。ところが、旅先で遭遇した不慮の事故でこのクルマを失ってしまった。
「このクルマのおかげで仲間に恵まれたこともあり、もう一度SVXに乗りたいと思いました。しかし、突然の廃車だったので経済的に厳しく、やっとのことで程度の悪い個体を購入できたんです。この個体は雨漏り、ミッションの故障など不具合が多く、自分でメンテナンスすることが増えました。そのうち、壊れる部分や不調原因がわかるようになり、予防と対策ができるようになったんです。その点はかえって良かったのかなと思います」
ところが、2台目も10トントラックに追突されるという悲劇に見舞われる。
「2004年のことでした。渋滞中に追突されて、全損で廃車になりました。子どももいたのでレガシィなども考えましたが、なんか面白くないなと(笑)。自分の車両保険を使い、SVXの専門店である「K-STAFF」で販売されていたこの個体を購入しました。最終型は壊れにくく、設計変更されているといわれています。これが人生最後のSVXだと覚悟して手に入れました。先代のSVXに取り付けたパーツも移植し、相変わらずメンテに手も掛かりますが、状態は良好です。ただ、燃費が悪いのが困りものですね。街乗りで5km/L、高速で9~11km/Lくらいですから」
こうして20年の歳月が経過して現在に至るわけだが、写真でもわかるように、オーナーのSVXは時間が感じられないほど良好なコンディションを維持している。
「このクルマはフル亜鉛メッキ鋼板を使っていて、錆びにくいんです。塗装も純正のままです。28年前のクルマですが、綺麗だと思います」
どのような点にこだわりながら状態を維持しているのかを詳しく伺った。
「自分流にマイナーチェンジを施すつもりで、何かしら手を加えています。まだまだ手を加えたい箇所がありますし、おそらく完成することはないんじゃないかと思っています(笑)。例えばシートをRECARO製の電動シートに交換して長距離運転を快適にしたり、テールランプを総LED化するなどですね。室内の照明は、真っ白よりも暖かみのある電球色のLEDに統一しています。生産されてから時間が経ったクルマに見えないように、快適性が少しでも向上するようにこだわっていますね。
オーディオもグレードアップしてありますし、車内各所にデッドニングも行っています。Aピラーのツイーター加工やアルカンターラ仕上げ、トランクに埋め込みのサブウーハーなどDIYで制作しています。
また、デルタスピード製サイドスカートや21th記念バンパー(※SVX誕生21年を記念し、有志を募って限定で企画・生産された逸品)を装着しています。一見純正に見えて、よく見ると違いに気づくようなモディファイがこだわりです」
そうなのだ。オーナーはショップ任せではなく、自ら手を尽くし3台目となるSVXをここまで仕上げてきた。そして、その進化に終わりはない。あくまでも「現在進行形」だ。まさに手塩に掛けたSVX、維持していくにはそれなりの覚悟が必要なのかもしれない。
「SVXは、専門店でしか整備できないクルマになりつつあります。また、専門店も部品がないので苦労していますし、中古車市場では程度の良い個体は価格が高騰しています。量販店ではSVXに適合するオイルグレードや、適合するタイヤの銘柄も少なくなってきました。また、ATのミッションが不調になりやすく、壊れることもあります。このSVXも、定期的にATFを交換してコンディションを保つように心掛けています。
そうした状況のなかで、豊富な知識を持ったオーナーたちや、DIYができるオーナーとのつながりがあり、専門店とも仲良くできていてありがたい限りです。年齢的にもこのSVXが最後なのかなと感じています。もし事故に遭えば、2度とここまでクルマを仕上げることはできないでしょうね」
実は、オーナーにとって、そして全国のSVXオーナーにとっても重要なイベントが控えているのだという。
「2年後に開催する予定の「SVX生誕35周年ミーティング」の幹事をやろうと思っています。2006年の15周年ミーティング以来、2回目の幹事です。今回は集大成の気持ちで取り組もうと思っています」
2年後のイベントが成功することを願うばかりだ。最後に、せっかくの機会でもあるので、奥さまへ感謝のメッセージがあるという。
「同じクルマを3台も乗り継いでしまい、すみません。許していただいて大変感謝しております」
オーナーのカーライフを語るうえで、SVXの存在は欠かせない。SVXに対する想いが人一倍であることは、自他ともに認めるところだろう。しかし、どこか愛車に対して客観視しているようにも感じる。盲目的ではない。かといって、冷たいわけでは断じてない。いつか訪れるであろう別れの日のために、常に自分の意識が文字どおり「フラット」でいられるよう、努めているようにも感じられた。
そして、30年近く前に生産終了したクルマに対して、独自の解釈で仕様変更を繰り返し、常にアップデートを行っている。それは決してオーナーの自己満足のためというよりも、SVXをより魅力的かつ素晴らしいクルマに仕立てるための行為に思えてならない。
愛車との距離感は人それぞれだ。取材を通じてさまざまなオーナーの方と接する機会があるが、今回は愛車との付き合い方において「ひとつの理想形」を垣間見たように思う。
オーナーのSVXへの愛と情熱が続く限り、このクルマを心から愛する全国の、いや世界中のオーナーのために乗りつづけて欲しい…。これもまた事実。同じクルマ好きとしてはそれが偽らざる本音だ。
(取材・文:松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影:古宮こうき)
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