決め手は10連スロットル!23歳の若者が人生初の愛車に選んだのは、2006年式BMW・M5(E60型)
いつの時代にも「いましか乗れないクルマ」が存在する。
ホンの一瞬でもタイミングを逃せば、新車では買えなくなったり、中古車であっても急に価格が上昇して手の届かない存在となってしまうこともありうる。そして、ようやく購入の意思を固めたときには手遅れであることも少なくない。しかし、困ったことに「買うかどうか迷っている…」。そんな悩みを抱かせるクルマは、得てして何かしら「躊躇させる要素」を持ちあわせているものだ。実用性、価格、維持費、程度良好な個体数…。しかし、考えているだけでは何もはじまらない。「清水の舞台から飛び降りて」こそ、初めて見える世界があるように思う。
今回のオーナーは、今年の春に社会人となったばかりの23歳の若者だ。悩みに悩んだ末、BMW・M5(E60型)を手に入れたという。この春に上京して1人暮らしをしており、当然ながら親の援助は一切ない。それでも敢えて、BMW・M5というハイパフォーマンスカーを手に入れた理由とは?
「このクルマは、2006年式BMW・M5(E60型/以下、BMW・M5)です。現在、オドメーターは約2万9千キロあたりを刻んでいます。私が手に入れてからまだ1ヶ月ほどですが、既に2000キロ以上走りました」
BMW “M”シリーズといえば、通常のモデルとは一線を画すスペシャルなクルマであることは、いまさら説明する必要がないだろう。2004年にデビューを果たしたE60型のBMW・M5。歴代から数えて4代目にあたるこのクルマの特筆すべき点は、一見すると通常のBMW 5シリーズとは見分けがつかないほどさりげない外観の下に「V10エンジンを搭載していること」だろう。現行のBMW・M5(F90型)は6代目にあたるが、歴代モデルで唯一、V10エンジンが搭載されたのはこのE60型だけだ。そしておそらく、未来のBMW・M5に再びV10エンジンが搭載される可能性は極めて低いのではないかと予想される。そういう意味においても、このオーナーは「いましか乗れないクルマ」を手に入れたといえそうだ。
BMW・M5のボディサイズは、全長×全幅×全高:4870×1845×1470mm。外観上の大まかな識別点は、左右のフロントフェンダーに開けられたエアダクト、ドアミラー、左右4本出しのマフラー、エンブレムなどが挙げられるが、このクルマをすぐにBMW・M5と識別できるのは、かなりのマニアでないと難しいかもしれない。BMW・M5には「S85型」と呼ばれる、排気量4999cc、V型10気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は507馬力を誇る(通常は400馬力に抑えられており、モードを切り替えることで507馬力をたたき出せるようになる)。総生産台数は約2万台、そのうち1400台弱が日本へと上陸を果たしているようだ。
これほどのハイパフォーマンスカーを最初の愛車に選ぶには、それなりの過程やきっかけがあったに違いない。その点をオーナーに伺ってみることにした。
「最初の愛車を選ぶ際の条件として『人と被らないこと』『もう2度と発売されないクルマであること』『いまの自分が購入できるめいっぱいのクルマであること』の3点でした。その条件に合致するクルマを探し、結論として導き出されたのがBMW・M5だったというわけです。V10エンジンを搭載したクルマは他にもありますが、このBMW・M5が『10連スロットルであること』も購入の決め手になりましたね」
確かに、V10エンジンにばかり目がいきがちだが、10連スロットルであることもこのクルマの見逃せないポイントだ。スロットルバルブを各気筒ごとに独立させることで(多くのエンジンはシングルスロットルを採用している)、エンジンのレスポンスアップや、さらなるピークパワーが期待できる。日本のチューニングシーンにおいても古くから定番といえるメニューであり、このクルマには工場出荷時からチューニングエンジンが搭載されていることを意味する。さらに、オールアルミ製のV10エンジンの最高回転数は8250回転というから驚きだ。
それにしても、この若きオーナーのこだわりは半端ではないように思う。人生初の愛車としてこのBMW・M5をどのようにして手に入れたのだろうか?
「16歳のときから三重県鈴鹿市にある『Daytona』という、スーパーカーや高級車を扱っているショップでアルバイトをしていたご縁で、このBMW・M5を手に入れることができました。当時からスーパーカーが大好きでしたし、少しでも身近に触れていたいという思いから、学生時代はずっとここでお世話になっていたんです。今回、上京して1人暮らしの生活をしながらこのクルマを購入して維持できるか…。何度も何度もシミュレーションしました。そして『何とかなりそうだ!』という結論が出てから、社長さんに予算と条件をお伝えしてBMW・M5を探してもらったです。仕事中に社長さんから『好条件のBMW・M5があるよ』とご連絡をいただき、ほとんど即決でしたね。社長さんのサポートがなければ、BMW・M5を買うことはできなかったかもしれませんし、とても感謝しています」
10代の頃からさまざまなスーパーカーやハイパフォーマンスカーに触れてきたからこそ、BMW・M5ならではの世界観に魅力を感じ、オーナーになるという一大決心ができたのかもしれない。ところで、この取材を続けていると、20代の若い世代の父親もクルマが好きだというケースが少なくないのだか、彼の場合はどうなのだろうか。
「父親もクルマ好きですよ。いまでもスカイラインGT-R(R32型)も所有していますし。でも、私の場合は『グランツーリスモ』というゲームの影響が大きいかもしれないですね。このゲームで遊んでいるうちに、ベイサイドブルーのスカイラインGT-R(R34型)に惚れ込んでしまいました。いつか必ず手に入れたいクルマの1つです」
20代のクルマ好きの多くが、いつか手に入れたいクルマにスカイラインGT-R(R34型)を挙げることが本当に多いように思う。最近はかなり相場が高騰しているようだが、どんな無理をしてでも手に入れようとは思わなかったのだろうか?
「正直、手の届くような金額ではありませんし、仮に買える境遇にあったとしても手に入れようとは思わないですね。なぜなら、いきなりスカイラインGT-R(R34型)を手に入れてしまったら『アガリの1台』をずっと所有していくことになるからです。その前に、さまざまなクルマを乗り継ぎ、経験を積んでから、満を持して手に入れたいと…。そう思っています。その最初の1台目が、(ぜいたくではありますが)このBMW・M5というわけです」
自分自身が23歳だったときのことを振り返ってみてほしい。ここまで明確なポリシーを持ち、自分が本気で求める1台を見極められるほどの審美眼を持ちあわせていただろうか…。おそらくは、もっとお気楽に、もっと安易に考えていた人が大多数ではないかと思う(もちろん、筆者も含めてだ)。では、改めてこのBMW・M5の気に入っている点を伺ってみた。
「冒頭の3つの条件を満たしている点はもちろん、エンジンを高回転まで回したときの音やフィーリングですね。このクルマのエンジンが10連スロットルであることが効いているように思います。エンジンのレスポンスが良すぎて針の動きが追いつかないほどです。意外に思われるかもしれませんが、高回転までエンジンを回すことはあっても無闇に飛ばしたりはしません。何かアクシデントが起こったとしても、自分で対処できるほどのスキルがあるとは思えないからです。あと、他に気に入っている点を挙げるとすれば、ヘッドライトの周りと、このクルマが醸し出す『このさりげなさ感』ですね。知らない人が見ればノーマルのBMW 5シリーズに見えますし。M5だと気づいてくれる人は皆さんクルマ好きですよね(笑)」
若い世代だけに、自分好みにこのBMW・M5をモディファイしていきたいという思いはあるのだろうか?
「購入時はほぼノーマル(後期モデルに装着されていたAUX端子が取り付けられていた程度)でした。まず、タイヤをポテンザS001(中古)に交換しました。最近『ハイパールーブ165』という、有機モリブデン系のエンジンオイル添加剤を入れてみたんです。その効果なのか、エンジンのレスポンスがさらに良くなり、オイルの消費量も激減したようです。今後は、カーボン製のフロントリップスポイラーを取り付けたり、通称『イカリング』と呼ばれているライトを白色に交換したり、マフラーやエアクリーナーも交換してみたいですね」
最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。
「レクサスLF-Aや、アウディRSシリーズなど、スカイラインGT-R(R34型)以外にも乗ってみたいクルマはたくさんあります。かなり思い切ってこのBMW・M5を手に入れましたし、いまのところ故障はありませんが、果たしてどこまで維持できるか…。正直、やってみなければ分からないところもあります。でも、私が所有しているうちは、油脂類や消耗品の交換に気を配り、可能な限りコンディションを維持していきたいと思っています。もう2度と、こんなクルマは造られないでしょうから…」
ここまで読み進めてくれた方であれば、この若きオーナーが安易な気持ちで、ましてや親のスネをかじったり、見栄を張るためにBMW・M5を手に入れたわけではないことを理解してくれたのではないかと思う。いまから10年後、オーナーが33歳になったときにE60型 BMW・M5を手に入れようとしても、妻子がいたらそう簡単に決断できるものではないだろうし(現在、オーナーは独身だ)、現在のように程度良好な個体が見つからないかもしれない。オーナーの年齢と、現在のBMW・M5の相場、オーナーがこれまでに築いてきた人間関係…。さまざまな条件とタイミングが重なったからこそ手に入れることができたのだ。
いつの時代も「いましか乗れないクルマ」が存在する。許される範囲の状況で、可能性が少しでもあるとしたら…、この若きオーナーのように思い切った決断を下してみた方が、結果として充実したカーライフが送れるに違いない。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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