Z33型にこだわり、乗り継いで3台目。2008年式日産・フェアレディZバージョンNISMO(Z33型)と暮らす29歳オーナーのカーライフ

この取材を続けていると、しばしば感じることがある。我々はもっと深く知るべきだ。自動車史を牽引してきた「名車」の血統を受け継ぐクルマたちが、今も多くの熱いファンによって支えられていることを。

今回の主人公、日産・フェアレディZ(Z33型)を所有する29歳の男性オーナーも、自身の愛車に情熱と誇りを胸に抱いているひとりだ。彼の愛車は、Z33型のコンプリートカー「バージョンNISMO」。乗りはじめてから5年目を迎えた。しかも、この個体が3台目のZ33型だというから驚きだ。ボディカラーはダイヤモンド・ブラックパール。まずは、オーナーにとっての「フェアレディZ」という存在について尋ねてみた。

「華があり、作り手の気持ちが見る人に伝わる存在ではないでしょうか。個人的には、アパレル関係という仕事柄、タイトなドレスをまとった女性のイメージです。スポーツカーでありながらスペシャリティ。『貴婦人』という名にふさわしく、Zの歴史から醸される風格・品格、エンジンノイズも含め、人を魅了するクルマだと思っています。実際にドライブ中、クルマに興味がなさそうな買い物中のマダムから『すてきなクルマね』と声を掛けられたりしますよ」

オーナーの愛車、日産・フェアレディZバージョンNISMO(Z33型、以下Z)は、数々のレース活動で日産が培ってきたノウハウが注がれたプレミアムなモデルだ。NISMOとオーテックジャパンの共同開発。エクステリアはまず、専用のエアロパーツが目を惹く。ノーズをスラントさせているのは、ダウンフォースを稼ぐ機能美だろう。RAYS製の、フロント18インチ・リア19インチ前後異形サイズを採用、新車時の装着タイヤにはPOTENZA RE-01Rが選ばれた。足回りには専用サスペンション、ヤマハ製パフォーマンスダンパーを採用している。続いて、オーナーにZ33バージョンNISMOの気に入っているポイントを伺ってみた。

「真横から見たときのフロントノーズの傾斜角がレーシーですよね。2000年代のF1マシンのスラントノーズを思わせる形状をしているところがたまりませんね。『バージョンNISMO』という存在も純粋にカッコいいですよね。Zのバッジは『レースに勝たなければならないという宿命』を背負っています。なおかつNISMOであることは、レーシングDNAを意味します。そこに日産の『意地』を感じますし、バージョンNISMOは、真の『ロードゴーイングカー』として存在しているのだと感じずにはいられません」

ボディサイズは、全長×全幅×全高:4420×1840×1305mm。エンジンは当時新開発の3.5リッターV型6気筒「VQ35HR」エンジンを搭載、最高出力は313馬力を誇る。オーナーの個体は、手に入れてから約10万キロを走ったという。

「このZでサーキットも走りますし、買い物にも行きます。非日常も含めて、オールマイティに楽しめるクルマだと思っています」

彼はこれまでに、バージョンNISMOを含む3台のZ33型を乗り継いできた。まずはZ33型との出会いのきっかけと、魅了された理由を伺ってみた。

「学生の頃に通っていたバーの常連客が大の“日産”党で、Z33前期型のオーナーでもありました。会うたびに、フェアレディZがいかにすばらしいかを滔々と聞かされるんです(笑)。しかし当時はそこまでZに興味がなかったので『この先クルマを購入するならZがいいかも……』と、興味をそそられる程度でした」

実際に購入に至った経緯は?

「就職の内定を無事に得たタイミングで、クルマの購入を決めました。そこで手始めに、以前から興味のあったZを見てみようと、中古車販売店へ足を運んでみました。最初は買う気がなかったものの、実車を目の前にしてしまうと、たちまち『コレだろう!』と魅了されてしまって……その場で契約をしてしまいました。購入したのは2004年式のバージョンSでした。MTモデルで、純正でブレンボ製のブレーキが装着されていた仕様です」

20代前半の若者がその場でスポーツカーを購入したため、販売店のスタッフはさぞかし驚いたことだろう。

「スタッフさんは、すごく喜んでくれましたね。当時はまだ86も世に出ていなかった頃で、国産スポーツカーはZ34とGT-Rくらいでしたから。『昔はスープラやZ32を若い人たちがよく買っていたけれど、今はすっかりいなくなってしまったので、本当にうれしい』と喜んでいたのが印象的でした」

納車当日は雨だったそうだが、ここで一生忘れられないミラクルが起こったそうだ。

「納車式の頃にはすっかり雨もやみ、空に虹が掛かったんです!虹を背景にした納車式の写真はフォトフレームに入れて今も飾っていますし、一生忘れることのない大切な思い出です」

と、声を弾ませるオーナー。まるで「クルマの神様」に祝福されたような出来事のあと、初めてZでドライブしたときはどんな心境だったのだろうか?

「自転車の補助輪を外し、自分で初めて操ったときの感覚と似ていました。交差点を曲がったとき、初めての愛車のオーナーになった喜びを噛み締めました。且つ、日産が誇る名車・フェアレディZに乗っている実感がこみあげてきて、これからはじまるカーライフはもちろん、人生そのものが楽しくなるような予感さえしましたね」

これからのカーライフに思いを馳せているオーナーの、高まる「ワクワク感」がその場にいなくとも想像できそうだ。初めての愛車となったZとは、それからどのような時間を過ごしたのだろうか。

「理由もなく洗車しましたし、写真もたくさん撮りました。いろいろと手を入れましたね。マフラーも換えましたし、チューニングベースとしてもおもしろいクルマでした。仕事が終わって駅から歩いて自宅まで帰宅する前に、Zを駐車しているパーキングを経由し、そこで一服しながら眺めて帰るんです。当時は金融業界にいまして、ノルマが厳しく辛いことも多かったのですが、Zが仕事のモチベーションの源となっていました。我が子のように慈しみ、養っている感覚は今も変わらないです。こうして大切に乗っていたのですが、納車から8ヶ月経った頃、もらい事故で廃車になってしまいました……」

その後、オーナーはZ33の中期型「35th Anniversary」を迎えるが、まもなく手放してしまった。その理由とは?

「35th Anniversaryは、誕生35周年を記念して2005年に販売された限定モデルです。本革シートやBOSEのサラウンドシステムなどの豪華装備が多く快適でしたが、バージョンSのフィーリングが忘れられず、どこか違和感をおぼえていました。例えるなら『自分のモノではない感覚』というんでしょうか。コーナリングでもしっくりこなかったので、わりとすぐに手放してしまいました」

オーナーはここから半年間「クルマ浪人」をしたと話す。「卒業」ではなくあえて「浪人」だったのは、もう一度必ず、カーライフを満喫するのだと心に決めていたからだった。

「友人から『やっぱりZが好きなんでしょ?』と背中を押されたことで、もう一度乗ろうと決心しました。こうして今のバージョンNISMOを手に入れたわけです」

2度もZを手放すと、多くの場合、次は違うクルマに乗ってみようか…と考えてしまうかもしれない。それでも、オーナーが三度Zを選んだ理由とは何だったのだろうか。

「街でZを見かけるたび、知らないうちに目で追ってしまっている自分に気づいたからです。未練があったのだと思います。ただ、自分が当時20代でなく、30代であったなら躊躇するでしょう。年齢を重ねるとどこかで『守り』が生まれるからです。若さゆえの『勢い』や『本能』があったからこそ、バージョンNISMOを手に入れる決心ができたのだと思っています。今思えば、買っておいて良かったですね」

Z34に惹かれることはなかったのだろうか?

「Z34も見てみましたが、どうしてもZ33バージョンNISMOのスタイルが好きで、そこは譲れなかったですね。現行モデルにあたるZ34のデザインは、私の好みとは少し違うんです。バージョンNISMO特有のスラントノーズだけでなく、Z33特有のCピラーにかけてのルーフラインも好きです。実は、このラインは、ポルシェ911に似ています。かつてZ30が『プアマンズポルシェ』と呼ばれましたが、Z33はファストバック型ながらエンジンを前に配置してプロポーションを変えているので、ポルシェに似ながらも、Z33独自のプロポーションが生まれるんです。以前、TV番組に、当時日産のデザイン部長だった中村史郎さんが出演していて、Z33のクレイモデルを前にアメリカ人のデザイナーとCピラーのラインを討論するシーンを見たことがありました。デザインにも主張があるのが好きなのがアメリカのユーザーですけど『まず日本で復活すること』を考えて、日本好みのプロポーションにしてくれたのかと思います。『すてきなシルエットにしてくれてありがとう!』という気持ちですね」

再びZのオーナーとなった当時の心境を伺ってみた。

「三度Zに乗ると決めたのは、2013年の秋でした。この個体は、兵庫から取り寄せてもらいました。乗ってすぐに、しっくりきましたね。5m、10m動かしただけで『おかえり』と言ってもらっている気がしました。交差点を曲がる操作ひとつにしても、いちいちうれしかったです。例えるなら、好きな女の子とまた一緒にいられるような喜びを感じましたね。5年間で10万キロ走っていることになりますが、いろんな場所へ行きました。良い景色を見て美味しいものを味わう幸せは、Zと一緒でないとありえなかったです。購入当時はまだ金融業界にいたのですが、このZで営業もしていました。お客様に50~60代の方が多かったので、このシルエットを見ただけでZだとわかってくれるんですよね。それがきっかけで契約をいただけましたし、営業ツールにもなったんです。Zと出会ってから人生観が変わりましたし、すべてがプラスに動いている気がしています」

サーキット走行も行う個体だが、モディファイは施されているのだろうか?

「前のオーナーもサーキット走行をしていたそうで、ライトチューン志向だったかもしれません。シートはRECARO製のセミバケットシート『SR-7』に交換してあり、オイルクーラーとデフが入っていて、TRUST製のスポーツマフラーも装着してありました。必要最低限のモディファイをしている印象です。そのため、手に入れてからの3年間は、このままの仕様で楽しみました。オイルやタイヤなどの消耗品にしっかりとコストをかけることができました」

新たに自分で手を加えた部分は?

「サスペンションはENDLESS製のZEALをベースにしたショップオリジナルに。サーキット走行の水温対策としてラジエーター、ブレーキローターはショップの勧めで、PFC製の純正ローター径に、シートはセミバケだとアイポイントが高くなるので、BRIDEのZETAⅢをスーパーローポジションで、そして4点式のレーシングハーネスはHPI製を選びました。普段乗りもするので、お客様の目にふれるため、派手なカラーは避けて自然なグレーを選んでいます」

このZは誕生から10年が経つが、今まで大きな故障を経験したことはあるのだろうか?また、部品供給の状況を伺ってみた。

「富士スピードウェイを走っていたときに、クラッチが戻ってこなくなったくらいでしょうか。クラッチレリーズシリンダーとクラッチ本体も交換することになったので、10数万円の修理費が掛かりました。それ以外は、今までトラブルらしいトラブルはないです。部品の欠品は今のところはないですが、価格は確実に上がっています。さらに、オーダーから納期待ちが長い部品もあるとショップから聞いています。なんだか外車チックですよね(笑)」

これからモディファイ予定の部分は?

「気分転換でホイールは換えるかもしれないです。経年劣化で起こるヘッドライトのくすみや車体にできる小キズの修繕、消耗品を交換しつつも、バージョンNISMOのスタイルは守り続けていきたいです」

最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「ある意味腐れ縁というか、もはや分身・相棒的存在になっているので、できるだけ所有したいです!そのためにも『日産さん、パーツを作りつづけてください』とお願いしたいですね。あと数年もすれば、Z33も旧車の域に入るでしょう。日産に限らず、メーカーが過去に気持ちを入れて作ったクルマを愛するユーザーは、最高の広告塔だと思うんです。その反面、古いクルマを切り捨てていく様子を目にしたときは『広告塔がいなくなることをして、メーカーさんはそれでいいの?』と訊きたくなります。そして『あなたたちの作った名車ですよ!』と念を押したいですね。古いクルマたちは、現代のクルマとは異なる『ヴィンテージの味わいがあるジーンズ』のような魅力があると思うので、保安部品のリリースをこれからも続けてほしいです」

クルマ愛にあふれ、愛車との“シンクロ率”が非常に高いオーナー。Zへの想いにとどまらず、生産を終えたクルマを所有しているオーナーの誰もが抱く想いを代弁してくれたようだった。そして「人に愛されているクルマは、想いを乗せて走っている」ことを、感じずにはいられない。愛車を迎えたあの日を思い出し、新鮮な気持ちで明日から向かい合ってみようと、襟を正したくなる取材だった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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