廃車の運命にあったかもしれないクルマを自身の愛車に。2004年式スバル・R1 R

「8.37年」

これは、軽自動車検査協会が発表している自家用軽自動車における2017年度の平均車齢だ。これを人間に例えるなら「平均寿命」ということになる。ちなみに、2012年度は7.68年、2007年度は6.44年とのことだ。年々、車齢が延びていることが分かる。と同時に、多くの軽自動車が10年以内に街中から姿を消していることが推測できる。

今回のオーナーが所有するクルマは、軽自動車規格として生産されつつも、平均車齢の倍近くにあたる14年経った今でも現役として元気に走り回っているようなのだ。

「このクルマは、2004年式スバル・R1 R(以下、R1)、手に入れてからもうすぐ1年です。現在のオドメーターの走行距離は約12万キロ、私が所有してからの走行距離は1万5千キロくらいです」

R1は、2003年の第37回東京モーターショーに出品されたコンセプトカー「R1e」の市販モデルといえるクルマだ。3ドアの2+2シーターモデルがR1、5ドアの4シーターモデルがR2という位置付けになる。2004年12月24日、クリスマスイブの日に発表され、若い女性とシニア層をターゲットに見据えて誕生した。

R1のボディサイズは全長×全幅×全高:3290×1480×1510mm。偶然にも、全長と全高の比率が、同社の名車であるスバル360とほぼ同じなのだという。また、アルファロメオ・デザインセンターに在籍していたアンドレアス・ザバディナス氏がデザインに関わったことでも話題となった。オーナーの個体には、「EN07型」と呼ばれる排気量658cc、直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は54馬力を誇る。

現行モデルとしても通用しそうなほど洗練されたデザインのR1だが、手に入れた経緯を伺ってみた。

「R1を所有する以前は、通勤用としてスバル・ヴィヴィオ RX-Rというクルマに乗っていたんです。ヴィヴィオではもっともスポーティなグレードで、スーパーチャージャーまで装備されているようなクルマでした。5速MTなので、通勤の行き帰りもついつい飛ばしたくなってしまいましたね(笑)。しかし、純正部品の供給が止まりかけていて、仕方なく手放すことにしました。その後、スバル・R2に乗っていた時期もあったんですが、仲良しのクルマ好きの方と『やっぱりR1がいいよね』と話していたんです。あるとき、その方から『R1が見つかったよ!』と連絡をいただき、手に入れたのが現在の愛車です」

欲しいクルマがあるときは、胸の内に秘めたりせず、とにかく周りの仲間にアピールをしておいた方がよさそうだ。どこかで誰かが覚えていてくれて、今回のように耳よりな話を持ち掛けてくれるからだ。こうして、念願だったR1を手に入れてみてどうだったのだろうか?

「実はエンジンが壊れていて、前オーナーさんがこのまま廃車にするつもりで手放したそうです。せっかくのワンオーナー車だし、何しろ私にとっては念願のR1です。ボディの細かい傷をきれいにしたり、インターネットオークションでエンジンを手に入れ、載せ換えて走行可能な状態にしました。そういえば、かつてスバル・レックスを所有していたときも、捨てられるはずだったクルマを救出して乗っていました。そういえば、ヴィヴィオも廃車寸前の個体を救出したんですよ」

通勤用として過去にヴィヴィオを所有していて、やむを得ない事情で手放し、現在はR1を所有しているということなのだろうか?

「そうです。他にはバーキン7と、ナンバーを切って保管中のフィアット・X1/9を所有しています。このフィアット・X1/9は人生初の愛車なんです。私は今、43歳になりますが、大学生の頃に初心者マークをつけて走っていたクルマなので、いつか復活させようと決めて大切に保管しています」

人生初の愛車がフィアット・X1/9(以下、X1/9)とはマニアックな印象を受けるが、何かきっかけがあったのだろうか?

「大学で知り合った友人が、フィアット・1/9かMG・ミジェットが欲しいと言っていたんです。そこで、大学の近くに置いてあったX1/9を見に行ったんです。ボロボロのクルマでしたが、欲しいと思ってしまいまして…。その後、実家の近くのクルマ屋で程度良好なX1/9を発見、飛び付いて購入してしまいました。ちなみに、その友人はMG・ミジェットを購入しました」

そんな根っからのクルマ好きのオーナーが手に入れたR1、自身が手を加えたところはあるのだろうか?

「私が手に入れた時点で、アルミホイールはエンケイ製のスパルコ・ブランドに交換されていましたが、オリジナルの状態を保っていました。私のところに来てからは、先ほどお伝えしたエンジンの載せ換えと傷の除去の他に、革が痛んでいたステアリングをスバル・ステラ用のものに交換しました」

改めてじっくりと眺めてみると、14年前に誕生したクルマとは思えないほど古さが感じられないR1の気に入っているポイント・気になっているポイントを伺ってみた。

「シンプルな造りでしょうか。乗り心地がいいですし、快適な通勤車として気に入っています。遠回りしてでも山道を選んで帰宅することもありますね。燃費も良好で、リッター19km/Lくらい走ります。もう少しエンジンなどを調整すれば、リッター21km/Lに届きそうです。気になるといえば、デザインを優先した影響なのか、後方の視界がよくないことです。このサイズなのにバックモニターを取り付けていますからね(笑)。それと、カップホルダーが壊れやすくて困ります。ほとんどのR1/R2は壊れているんじゃないかと思うほどです」

R1の生産期間は、2005年から2010年の5年間だ。10年近く前に生産が終了したモデルということになるが、部品の供給状況はどうなのだろうか?

「今のところ、部品の供給状況は問題ありませんね。ただ、これがあと5年・10年後となるとどうなるのか…。少し心配です」

クルマに対して深い愛情を注ぐオーナーという印象を受けたが、最後に、このクルマと今後どう接していきたいか伺ってみた。

「R1ならではのシンプルさを活かしつつ、部品の供給が続く限り、できるだけ長く乗り続けたいですね」

どんなクルマでも、嫁ぎ先でその後の運命が大きく変わる。このR1も、もし現オーナーと出会えなかったら…、すでにスクラップとなっているか、廃車にされ、バラバラになっていたかもしれない。冒頭で触れた、最新の軽自動車の平均車齢が8.37年という数字を鑑みると、生産された多くのR1がすでに存在していない可能性もありえる。1台のクルマとできるだけ長く、大切に付き合う。オーナーから惜しみない愛情が注がれたR1を眺めていると、そこから得られるものや、初めて気がつくことがあるように思えてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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