“The Strong.”は色褪せない!19年間、15万6千キロをともにした、2000年式トヨタ・チェイサー ツアラーV(JZX100型)
この取材を続けていると、いくつかの質問を受けることがある。
そのなかでもっとも多いのは「どうやって取材対象となる方を決めているのですか?」という問いだ。
最近の傾向として、もっとも多いのは「紹介」だろうか。
取材させていただいたオーナーのご厚意で「こんな面白い人がいるから紹介するよ」とその場で連絡を取り、話をまとめてくださる方も少なくない。魅力あふれるオーナーとその愛車を探し出すのは、取材班の情報網だけでは限界がある。
ご協力いただいた方々には、この場を借りて改めて心よりお礼を申しあげたい。
その他、複数台所有している方にご協力いただくこともしばしばだ。2回目以降ともなれば、わざわざガレージやご自宅にお招きいただき、そこでインタビューが実現したこともある。
ちなみに、今回はいずれにもあてはまらない。筆者が直感的に「この方だ!」だと確信し、無礼を承知でお声掛けさせていただいた。幸い、快く取材に応じてくださり、さらに愛車広場のこともご存知だったので、今回の突然の取材オファーも喜んでいただけて嬉しい限りだ。そして今回、「この方だ!」と思った直感は見事に的中することとなった。19年もの長きにわたり、現在の愛車を大切にしているオーナーだったからだ。
「このクルマは、2000年式トヨタ・チェイサー ツアラーV(JZX100型、以下、チェイサー ツアラーV)です。手に入れてから19年間、ずっと所有しています。現在のオドメーターの走行距離は約15万6千キロ、ほぼフルノーマルの状態を維持して現在に至ります」
マークII・チェイサー・クレスタを総称するとき、いまだに「マークII 3兄弟」などと呼ぶクルマ好きも多いだろう。そのなかでも、スポーツ系のグレードといえば「GT」だった。それが「ツアラー」に置き換えられたのは1992年に登場したJZX90型からである。ターボ系をツアラーV、NA系をツアラーSと呼称した(JZX100系のチェイサーにのみ2リッターNAの「ツアラー」が存在する)。
チェイサー ツアラーVのボディサイズは全長×全幅×全高4715x1755x1400mm。「1JZ-GTE」と呼ばれる、排気量2491cc、直列6気筒DOHCターボエンジンが搭載され、最大出力は280馬力を誇る。「マークII 3兄弟」といえば長男のマークIIが一番人気かもしれないが、ツアラー系では1996年にデビューしたJZX100系のチェイサーが断トツだったように思う。現に、根強いファンが存在し、20代の若者にも人気があるのもこのモデルだ。
そして、今回取材させていただいたオーナーも、デビュー当時のJZX100系チェイサーに魅せられた一人だ。
「JZX100系のチェイサー ツアラーVといえば、当時のCMが印象的でしたね。特にマイナーチェンジ後の霧のなかからチェイサーと鮫が現れたときの『強い高級車に乗ろう』のナレーションにはノックアウトされました(笑)。ある日、私が地元のトヨタネッツ店に来ていたとき、フルエアロをまとったパールホワイトのチェイサー ツアラーVが入庫してきたんです。このとき、“このクルマを買おう”と決意しましたね。しかし、当時私は20代前半。新車のチェイサー ツアラーVなんて夢のまた夢です。毎晩のようにカタログを眺めながらハンドルを握っている姿を妄想する日々でした。あるとき、職場の先輩が『とにかく1年で100万円貯めてみろ。何かの起爆剤になるから』とアドバイスしてくれたんです。そこで一念発起、実際に1年間で100万を貯めることができたんです。その後もコツコツと貯金を続け、25歳になる頃には450万円になっていました」
コツコツと450万円も貯金できたのも、憧れの存在と良き先輩のおかげということだろうか。これだけの予算があれば、新車のチェイサー ツアラーVも夢ではない。
「確かに450万円あれば新車のチェイサー ツアラーVが購入できます。しかし、そうなるとほとんどの貯金を使うことになってしまいます。それはさすがにやめておこうと考え、程度の良い中古車を手に入れようと気持ちを切り替えました。それからは、近県の自動車販売店に電話を掛けまくりましたね」
仕事に邁進し、コツコツと貯金を続けてきたオーナーに、ある日、思わぬ朗報が舞い込んできた。
「近県のネッツ店から『新古車のチェイサー ツアラーVが入庫した』と連絡が入ったんです。現地に赴き実車を確認すると、オドメーターの走行距離はわずか21キロ。ATなのに、メーカーオプションのトルセンLSDが装着されており、しかも未登録車です。事情があって新古車扱いとのことでしたが、新車と比較しても破格の条件だったので、これはまたとないチャンスだと思い、現金一括で購入しました」
まっさらな新車ではないものの、限りなくそれに近い状態。しかもファーストオーナーだ。まさに一点モノ。何年も恋い焦がれた想いが報われた瞬間だったことだろう。
「それまでの愛車遍歴はトヨタ・カリーナ マイロード(AT150型)とカリーナED(ST182型)だったので、エンジンが縦置きのクルマに乗ったことがなく、ボディーの大きさにも驚きました。納車当日にエンジンを掛けたとき、音の静かさに感動しましたね。自宅までの帰り道は、慣らし運転とドライブを兼ねて下道で帰りました。ふと、信号待ちのときに、国道沿いのショーウィンドウ越しに自分が運転するチェイサー ツアラーVが映り込むんです。何度も“夢じゃないか”と思いましたね」
こうして、ついに念願だったチェイサー ツアラーVのオーナーとなることができ、同じツアラー乗りの仲間との交流を深めたようだ。
「あの頃は毎週のように集まっていましたね。10年くらいは続いたんじゃないかと思います。でも、当時の仲間で現在も所有しているのは私だけになってしまいました。結婚して子どもが産まれるなどの事情からミニバンに買い替えてしまったと聞いています。当時の仲間たちは、チェイサーとの別れのときは泣いたそうです。“チェイサー乗り”という言葉があるくらいですから、皆さん相当に思い入れが強かったんでしょうね。手放したことをいまでも悔やんでいるそうです。そういえば、最寄りのネッツ店でもチェイサー ツアラーVは私だけになってしまったんです」
チェイサー ツアラーVというと、当時はもちろん、現在でもチューニングカーとして人気がある。当然、オーナーもモディファイしたかと思いきや…。
「ステアリングとシフトノブをTRD製に、あとはナンバーのボルトやインストルメントパネルの照明をLEDに交換したくらいです。BLITZ製のターボタイマーは購入直後すぐに装着しました。当時の仲間たちはマフラーやタービンなどを交換するなどのチューニングをしていましたね。しかし、私はノーマルで充分だと思っていました。わずか2,400回転で38.5kg・mのトルクを発生させる“強い高級車”にふさわしいエンジンは、開発から生産に至るまでヤマハ発動機が関わっているそうです。フルカウンタークランク、セミ鍛造ピストン、メタルヘッドガスケットなど、いまのクルマには絶対に搭載できないであろう高度なパーツが搭載されています。そのおかげでエンジン音がとても静かですし、いざアクセルを踏み込むと強烈な加速とともに道路に張り付くように滑らかな走りが楽しめます。また、斜め前から見たフロントマスクなど、私はノーマルでも充分に速いし、カッコイイと感じています。これは、19年経ったいまでも変わらないですね。こうして、私のように日本には1台のクルマを大切に所有している方がたくさんいらっしゃいます。どうか、古いクルマを所有するオーナーさんに対する税制面の優遇処置をお願いしたいです」
19年間も乗っていれば、いくつかのトラブルに見舞われても不思議でない。しかし、それでも手放すことなく維持している。オーナーも語っているように、古いクルマを所有していたり、1台のクルマを長く所有している人に対して、国から何らかの優遇処置があっても良いのではないかと思えてならないのだが…。
「エンジンストールやオイル漏れ、コンピューター内部にある電解コンデンサの液漏れなどのトラブルに見舞われたこともありました。ECU、TCUなどは自分で修理して使い続けています。クラウンのようにエアコンのルーバーが動くのですが、ある日、急に動かなくなってしまったので、海外からほぼ同じサイズのモーターを入手して自分で修理しました。あとは、カムシャフトタイミングオイルコントロールバルブの故障が原因で、ATなのにエンストしたときは正直驚きました。それと、カムシャフトやVVTタイミングギヤのパッキンが劣化してエンジンオイルが漏れたり、ラジエーターにクラックが入って水が漏れたりもしましたが、これからも直しながら乗り続けたいです。車検をはじめとするメンテナンス全般は、購入当時から近所のネッツ店にお世話になっています。最近は、ラジエーターやドアミラーを交換してもらいましたし、ディーラーに注文すると部品が届くので在庫はあるようですが、長年、愛車を診ていただいている主治医からは『外装部品はもう在庫がないからぶつけないで』といわれています」
取材や雑談などを通じて、オーナーが、この個体との縁をつないでくれた近県のネッツ店、そして長年の主治医である地元のネッツ店のスタッフに対して、オーナーが感謝の気持ちを伝えているのが印象的だった。
「この記事が公開されたら、当時のスタッフさんにお礼かたがた会いに行こうと思っています。そして、じっくりと大切な愛車をメンテナンスしてくれる主治医にも感謝の気持ちを伝えたいです。何しろ、はじめて入庫してから19年間、同じメカニックさんに診ていただいていますから。配属先が変わったら追い掛けていますし(笑)」
最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。
「これからも長く乗り続けて行くために、必要な部品を交換してあげたいんです。私はいま44歳です。25歳で手に入れて19年。妻よりも長い付き合いになるわけですが『そろそろ乗り替えないの?』といわれたことがないんです。私が、このチェイサー ツアラーVを溺愛していることを理解してくれているんだと思います。今回、取材させていただいたことで『これで手放す理由がなくなったね』といってくれたことにも感謝の気持ちでいっぱいです。あとは、GAZOOの出張撮影会にも興味がありますし、チェイサー ツアラーVのオーナーズクラブがあれば久しぶりに参加してみたいですね」
恋い焦がれてようやく手に入れた憧れの存在。納車直後は誰でも気持ちが舞いあがるものだし、一生乗り続けたいと思う人は多い。しかし、時が経つに連れてその想いが冷めていくのはごく自然なことだ。
オーナーが「一生モノ」と呼べる愛車と巡り逢えたこと、維持していけることの幸せ。これこそがクルマ好きにとっての理想形であり、極上のカーライフであることは間違いない。
※これは余談だが、当時の見積もりやカタログ、修理明細、プラモデル(またはミニカー)、関連書籍はもちろんのこと、撮影時には取り外していただいた“純正フロアマットを保護するための、市販品のマット”など保管されているものもご持参いただいた。新車から大切に乗っている方には、クルマをめぐる様々なモノも大切にすることなど、いくつかの共通点があるようだ。今回のオーナーも、見事にその条件に合致しているのが印象的だった(飛行機も好きなオーナーはレアなアイテムを保有しており、取材中は古宮こうきカメラマンを含めてこの話題でも盛りあがった。航空マニアが見たら垂涎のアイテムだろう)。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
【愛車紹介】トヨタ チェイサー
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