007シリーズとジェームズ・ボンドに憧れ、手に入れた愛車。アストンマーティン・DB11 V12

人は誰もが「演者」だ。自分自身という役を演じている。

もちろん、監督・脚本・主演は自分自身だ。自ら選んで進む道には「決断・決意」などの言葉があてはまるだろうか。一方で、自分自身の意思とは関係なく、さまざまな外的要因で歩む道が大きく変わることもある。それは「運命・想定外」などと表現されるのかもしれない。とはいえ、多少の紆余曲折はあったとしても、ハッピーエンドを迎えたいと脚本を考えるのが自然だろう。

そして、自分自身という役を演じるうえで、スクリーンの向こう側の人物が目標や憧れの対象であったとしても何ら不思議ではない。

今回は、映画の007シリーズ、そしてジェームズ・ボンドに強く惹かれ、ついには愛車までもこの人物とは切っても切り離せないクルマを手に入れてしまったオーナーを紹介したい。

「このクルマは、2017年式アストンマーティン・DB11 V12です。私は1962年生まれで、現在55歳です。偶然にも、007シリーズがスタートし、ビートルズがデビューした年に生まれました。それだけに、イギリスにまつわるものが好きですね。いつしか、007シリーズ、そしてジェームズ・ボンドに憧れるようになりまして…。いつかボンドカーとして劇中に登場するアストンマーティンを手に入れたいと思い続け、昨年、ようやくその思いを実現することができました」。

アストンマーティン・DB11(以下、DB11)は、2016年に開催された第86回ジュネーブモーターショー2016の会場でデビューを果たした。DB11は、実質的な先代モデルにあたるDB9から、実に13年振りのフルモデルチェンジとなる。

DB11のボディサイズは全長×全幅×全高:4739x1940x1279mm。エンジンは、当初はV12のみだったが、後にV8モデルも追加された。オーナーが選んだのは、排気量5202cc、V型12気筒DOHCツインターボエンジンが搭載されたモデルだ。最高出力は608馬力という凄まじいパワーを誇る。このDB11は、「007 スペクター」の劇用車として登場したボンドカー、「アストンマーティン・DB10」の雰囲気も漂わせているようにも映る。

オーナーは、007シリーズに相当な思い入れがあるようだ。まずは、DB11よりもこの映画との出会いについて伺ってみた。

「007に強く惹かれるようになったのは、確か40歳くらいのときだったと思います。以来、ジェームズ・ボンドの生き様に魅せられましたね。イギリス秘密情報部(MI6)の工作員、つまりスパイなのですが、身一つで颯爽と仕事をこなし、女性に対してもスマート、そして何よりお洒落。そんなジェームズ・ボンドが007シリーズで身につけていたものを集めていくようになりました」。

オーナーが身につけている腕時計やサングラスは「さりげなく」007に関連するものばかりのようだ。よく見ると、腕時計はOMEGA シーマスター アクアテラ 007エディションだし、サングラスは、ボンドが劇中で身につけていたトムフォード製だ。しかし、こちらが指摘しない限り、見せびらかすような素振りは一切見せない。実にさりげなく、そしてスマートだ。

「ジェームズ・ボンドが身につけていたアイテムを手に入れ、コレクションしてきましたが、ずっと何かが欠けている気がしていたんです。私にとって、それは『ボンドカー = アストンマーティン』でした。しかし、おいそれと買えるクルマではありません。実を言うと、まさか自分が買えるとは…と思っていたのが本音です。それに、今、アストンマーティンを手に入れてしまうと次の目標を見失ってしまう。それならば10年後、65歳になったとき、人生最後の1台として買ってもいいのかなと思ったこともありました。でも、現役としてバリバリ仕事をしている今だからこそ、思い切って手に入れてみよう!と決意したんです」。

アストンマーティンというと、ボディカラーや内装など、オーナーの趣向に合わせてさまざまな注文が可能だ。その膨大な組み合わせの中から、世界で1台だけ、まさにオーダーメイドで自分だけのアストンマーティンを創ることができる。オーナーはどのようなオーダーをしたのだろうか?

「ボンドカーと自分好みの仕様をミックスしたようなクルマにしました。ボディカラーはマグネティックシルバーというんですが、これもボンドカーに限りなく近い色を選んでいます。内装のレザーはブルーブラックに近いものを選びました。あとは、オレンジ色のステッチですね。サハラタンというのですが、これをブルーブラックの革内装のアクセントにしています。ドアパネルの一部も実はカーボンなんです。あとは、ホイールもボンドカーと同じデザインを選びました。カーコンフィギュレーターを使ってあれこれとシミュレーションしてみましたが、実際の色とは異なりますし、この仕様に決めるまでずいぶん悩みましたね…」。

最近は、一部の自動車メーカーのWebサイトでカーコンフィギュレーターを導入している。あくまでも画面上ではあるが、自分好みのクルマを創り上げることができる。たとえ、手が届かないクルマであったとしても、自分好みの1台を創り上げる作業は実に楽しいので、機会があればぜひ試して欲しい。さて、オーナーから「まさか自分が買えるとは…」というコメントをもらうとは意外だったが、これまで、どのようなクルマに憧れ、夢を実現してきたのか伺ってみた。

「かつて『いつかはクラウン』というキャッチコピーがありましたよね。私が社会人になったとき、世の中はちょうどバブルの時代でした。あるとき、自動車雑誌で見たジャガーに魅せられたんです。そのとき『よし、俺なら“いつかはジャガーだ”』と決意しました。しかし、会社員では得られる収入に限界があるし、仮に買えるほど稼げるようになったとしても、上司よりも高級なクルマに乗るわけにはいきません。そこで、35歳のときに独立を決意しました。決してジャガーを買うために独立したわけではないのですが、社会人になってから20年後、念願だったジャガーを買うことができたんです。結局、XFとXJ、2台乗り継ぎました。若いときに憧れたジャガーを手に入れたときは気分が高揚しましたね。でも、DB11を手に入れたときは『本当に俺のクルマになったのか…?』という感覚でした。ようやく手に入れることができたぞ…。何だかほっとしたというか、安心したような、不思議な気持ちになりましたね」。

オーナーにとってはボンドカーであるこのDB11、もっとも気に入っている点や、こだわっている点を伺ってみた。

「気に入っているのは何といってもDB11のスタイリングです。例えば、バックミラーを見たときのリアのフェンダーのふくらみ。本当にセクシーだと思いますね。あとは、こだわりというわけではないのですが、DB11に相応しい服装や立ち振る舞いにも気を配っています。スマートに格好良く乗っていたいなと思います」。

これほど魅力的な愛車と、今後、どう接していきたいと思っているのだろうか?

「DB11に相応しい、このクルマが似合う男になりたいですね。私は仕事のことを『任務』と呼んでいるのですが、DB11で任務先に向かうこともあります。それだけに、乗るときも適度な緊張感を持ってクルマと接していきたいです。あとは、助手席にボンドガールがいれば最高なんですが(笑)」。

靴やスーツをオーダーメイドで仕立てるとき、しばしば「Bespoke(ビスポーク)」という言葉が用いられる。依頼主の体型はもちろん、好みに合わせて仕立ててくれることを意味する。このアストンマーティンも、ボディカラー、レザーやステッチ(縫い糸)の色をはじめとする豊富なオプションリストの中から自分好みの仕様を選び抜いて仕立てられている。まさに「Bespoke(ビスポーク)」することで、世界に1台しか存在しないDB11が誕生したのだ!

今やオーナーにとって、自分自身という役を演じるうえで、このDB11は欠かせない存在となっているようだ。しかし、気負っているわけでもなければ、ミスマッチな印象も皆無だ。ごくごく自然にこのクルマと接しているように映る。とてもアストンマーティンのオーナー歴が1年とは思えないほど、さらりと「着こなして」いるのだ。

人それぞれ、さまざまな事情や考え方があるだろう。「自分には手が届かない…」と、あらゆる言い訳をして諦めることは簡単だ。しかし、もし1%でも可能性があるとしたら、そのストーリーに沿って演じてみるのも一興ではないだろうか。もしオーナーが「欲しいクルマがあるけれど、俺には無理だから諦める」というストーリーを演じていたら…。007シリーズ、そしてジェームズ・ボンドに憧れていなければ、DB11を手に入れることもなかったかもしれない。

繰り返すが、監督・脚本・主演は自分自身だ。それならば、いつか自分自身に「主演男優(女優)賞という名のご褒美=ずっと欲しかったクルマ」をプレゼントするような脚本を創り、自ら演じてみてもいいではないか!そう思えてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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