2010年式ロータス・エリーゼR(1117型)に想いを乗せて。女性オーナーと愛車の「自然体な」カーライフ

「クルマ好きな女性」といえば、まだまだ少数派の印象が強い。ストイックなスポーツカーから女性オーナーが颯爽と降りてくる姿にハッとしてしまうのは、「男社会」の中にいるギャップよりも、オーナーの気概やクルマへの愛情などが透けて見えているからではないだろうか。特に「スポーツカー女子」には、「このクルマに乗ってどう見られたいか」よりも「このクルマのオーナーとしてどうありたいか」を感じさせるオーナーが多いような気がしてならない。

今回の主人公は、ロータス・エリーゼR(1117型/以下、エリーゼ)と暮らす女性オーナー。新車のような輝きを放つこの個体は、2010年式だという。シリーズとしては2代目(フェイズII)にあたる。2012年に納車したときにはオドメーターは約5千キロだったが、手に入れてからは約1万5千キロを走行している。この「ピュア・スポーツ」に、オーナーはどんな想いを乗せて走っているのだろうか。まずは、愛車へのこだわりを尋ねてみた。

「私にとってのクルマは趣味であり、日常の移動手段でもあるので、可愛がりつつも、周りから潔癖に見られるほどの溺愛はしていないつもりです。そういう意味で、『こだわり』はないかもしれないですね」

目が覚めるようなブルーのボディには、周囲の枯れ枝が映り込んでいる。それがまるで、血管がみなぎり、獣が鼓動しているかのように見えた。

エリーゼRのボディサイズは全長×全幅×全高:3800×1720×1130mm。搭載される1795ccエンジンは、トヨタ製の直列4気筒DOHC「2ZZ-GE型」で、最高出力は192馬力を誇る。駆動方式はMR。FRP製ボディとアルミフレームで、車輌重量900kgといった軽量化を実現しているほか、タルガトップを設けているので、オープンドライブも楽しめる。「ベースグレード」は1.6Lエンジン、「エリーゼR」は1.8Lエンジン、1.8Lエンジンにスーパーチャージャーを装着した「エリーゼSC」の3モデルでシリーズは構成されている。

オーナーはこのエリーゼRのほかに、2009年式のダイハツ・コペンも所有。免許取得後初の愛車でもあり、いまも大切に乗っている。さらに、彼女の夫もクルマ好きで、2.2Lモデルのホンダ・S2000を所有。夫婦でカーライフを満喫しているオーナーにまずは、クルマ好きになったきっかけを伺ってみた。

「私は、ダイハツ・コペンに乗るまで、クルマは『見た目』しか興味がありませんでした。なんとなくかわいくて、輸入車だとなおいい、という感覚です。それが、コペンと暮らしていく日々で走りの楽しさを知り、いつしか『顔がかわいい、軽い、スポーティーなクルマが好き』という価値観が確立されていました。フォルムも、流線型で成り立っているタイプが好きです。最近の国産車には流線型の美しいクルマが少なく、ゴテゴテしたデザインが多いように感じています」

コペンがきっかけとなり、ライトウエイト・スポーツカーに目覚めたオーナー。エリーゼとの出逢いは、自然な流れだったのかもしれない。

「はっきりした出逢いは覚えていないのですが、ネットでたまたま見かけてインパクトが強かったんだと思います。流線型のフォルムとタイトな室内を持ち、車重1トンを切り、なおかつミッドシップのスポーツカーというキャラクターに惹かれました。当時綴っていた日記を読み返すと、エリーゼのことばかり書かれていましたね(笑)。その頃はブログも運営していたのですが、そこでご縁のあった有名ショップのお客さんから、ある日、エキシージへの試乗のお誘いをいただいたんです」

ロータス・エキシージは、エリーゼのレース用マシンを市販化したモデルで、クローズドボディが外観の特徴だ。試乗してみて感じたことは?

「とにかく車体の軽さに驚きました。その日は、隣に別の国産スポーツカーも置いてあったので乗り比べをしたんですが、日本を代表するピュア・スポーツカーが霞むほどのインパクトでした」

俄然、エリーゼ購入へのモチベーションが上がったオーナー。しかし、手に入れるためには、家族の同意を得なければならなかった。

「夫は、内装が簡素なのに価格は割高というマイナスイメージを持っていたので、説得するのが大変でした(笑)」

そこでオーナーは、ロータスのディーラーでカタログを手に入れ、日々、夫の「洗脳」に勤しんだという。そしてようやく許可が下り、大喜びでディーラーへ足を運んだ。

「最初は、現行型(フェイズIII)のベースグレード、132馬力のモデルでした。しかし、2.2LのS2000に乗っている夫からすれば『お得感』があまりなかったようで、反応がイマイチだったんです。その後に見つけたのが、フェイズIIのエリーゼRでした。同型の個体はあらゆる箇所がチューニングされていたり、小傷の入ったものが多かったのですが、奇跡的に程度の良い個体があったんです。チャンスだと思い、即決しました」

ようやく手に入れたエリーゼR。もっとも気に入っている点は?

「すべてです(笑)。軽量であること、顔がかわいいこと、プリミティブな構造も好きですね。エンジンレスポンスの良さも、ダイレクトなハンドリングも気に入っています」

エリーゼRにはパワーステアリングが付いていない、いわゆる「重ステ」なのだが、オーナーはさらりと乗りこなしている。重ステに抵抗はないのだろうか?

「重ステを取り回した経験はこのエリーゼRだけなので、パワステがどの程度便利なものなのかは、正直わかりません。コペンにはパワステが付いていますが、エリーゼRの後で運転しても『このクルマはこんなもの』だと思って、いつも気にならないです。しかし、女性の私が重ステのクルマに乗っているとかなり驚かれることが多いんです。このエリーゼは、最近のクルマのなかではかなり車重が軽いですし、タイヤサイズ…特にフロントは175/55ZR16と、現代では細い部類だと思います。さらに、ミッドシップレイアウトの恩恵なのか、フロントエンジンのクルマよりも操作感が軽くなるのかもしれません。それに、アクセルを踏み込んで走り出してしまえば、重ステであることは気にならないんですよ。せっかくの機会なので、重ステならではのダイレクトさが味わえるこのエリーゼの魅力を、もっと皆さんにも知っていただきたいです!!」

重ステがマイナス要因ではないという流れから、エリーゼRの不満な点はあるのか尋ねてみた。

「不満なところもありますが、気にならないですね(笑)。主人が乗ると『クラッチが重たくて尻が痛くなる』と不評なのですが、私はまったく感じません」

考え方が、基本的にポジティブである。人によっては「粗探し」をしてしまいがちだが、オーナーの「長所や魅力を見つけていく姿勢」に感じ入った。

ここで少し意地悪な質問を投げかけてみたい。愚問かもしれないが、エリーゼとコペンのどちらかを手放すことを、一瞬でも考えたことはあったのだろうか?

「ないですね。エリーゼを手に入れたからコペンは要らないというわけではなく、どちらも好きです。もし何らかの事情で売却するならば、2台とも手放しますね。クルマ好きの大半は、排気量が上がると『ステップアップ』と思うのかもしれませんが、そういう価値観はありません。交互に乗っても等しく楽しいですし、新鮮ですよ。クルマが変われば、乗り味も違うものだと思っています」

ではこの先、「乗り換えたいクルマ」は存在するのかどうかを尋ねてみた。

「TVRのスポーツモデルを運転してみたいけれど、欲しいというわけではありませんし、仮に宝くじに当たっても1000万円を超えるようなクルマは買わないと思います。乗るとすれば、操る楽しさを敢えて封印して、楽に移動できるクルマですね」

この個体に、モディファイは施しているのだろうか?

「給油口にカーボンシートを貼って、アクセントにしています。それから、『サクラム』という、コペンと同じメーカーのマフラーを装着しました。2台のお揃い感が欲しかったんです。控えめでありながら澄んだ音色が気に入っています。ホイールはゴールドが好きですが、欲しいホイールに手が届かなかったので、缶スプレーで塗装しました。同じゴールドでも、銘柄で色が微妙に違うんですよね。いろいろ試して、結局イメージに合った色は、とあるホームセンターのものでした」

ホイールは、オーナー自身が自宅の庭で塗装したそうだが、まるでプロの仕上がりだ。「塗料の付きを良くして塗っているだけなので、結構禿げてきてしまって」と謙遜するのだが、言われなければ気づかないほどの美しさだった。

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「今後も、買い物やレジャーにも乗っていきます。何より『自然体』で一緒に過ごしていけたらいいですね。足腰が丈夫で、維持費に困らない限りは乗っていきたいです。万一、この個体に乗れなくなったとしても、似たようなクルマを探して、エリーゼに乗り続けるのではないでしょうか。細かいモディファイの希望はありますが、適度に手入れをしながらキレイな状態をキープしていたいですね」

オーナーにインタビューを行っている間、常にエリーゼRへの溺愛ぶりが伝わってくるが、接する姿勢はあくまでも自然体だ。「どちらかを手放すなら、2台とも手放す」という覚悟は、下手な男性よりも「男前」なのかもしれない。そんなオーナーの気概が、エリーゼに乗る姿をより輝かせているように感じたのだった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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