ハチロクを所有する26歳のオーナーの琴線に触れたトヨタ カローラツーリング 2000リミテッド(MZEA12W型)

去る2022年3月31日、トヨタのスポーツカーブランド「GR」シリーズにカローラが加わると発表された。そして6月1日には、モリゾウ(豊田章男社長)氏が自ら試作車に乗って作り込んだという『GRカローラ モリゾウエディション』の全貌が明かされ、自動車ファンを湧かせている。

カローラは1966年のデビュー以来、トヨタの主力車種としてメーカーを支えてきた。また、実用車として成熟していくいっぽうで、WRCなどのモータースポーツでも活躍してきた歴史を持つ。

2019年のフルモデルチェンジでスポーツイメージが強調されたのも、カローラに強い思い入れのあるモリゾウ氏が表明した「Corolla is BACK」の実践によるものだろう。

さて、2016年からスタートしたこの企画も、早いもので丸6年が経過した。その間に多くの魅力的なオーナーさんと出会う機会に恵まれた。大変ありがたいことに、取材後も連絡を取り合う方も少なくない。この場を借りて改めてお礼を申し上げたい。

そして、今回のオーナーもその1人だ。

新たに増車したのが、カローラツーリングの限定車である「2000リミテッド」と伺い、再びご登場いただいた次第だ。

1回目の取材から丸5年、20代半ばとなったオーナーは初めてお会いしたときよりもさらに精悍さが増していた。早速、このクルマとの出会いから手に入れるまでの経緯を伺ってみた。

「愛車はカローラツーリング 2000リミテッド(MZEA12W型/以下、カローラツーリング)です。このボディカラーも限定色で選んだ理由のひとつです。

2020年に新車で迎えて約1年半が経ち、現在の走行距離は2.4万キロになりました。このカローラの他に、以前取材していただいたスプリンタートレノ(AE86型)を父親と共同で所有しています」

2019年にフルモデルチェンジを果たした、シリーズ12代目のステーションワゴンがベースとなっているカローラツーリング。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4495mm×1745mm×1460mm。駆動方式はFF。

2000リミテッドのみに搭載される1986ccの直列4気筒M20A-FKS型エンジンは170馬力を発揮する。500台の限定車は、抽選ではなく先着順。そのため、告知されてわずか10日ほどで完売となったようだ。

「存在を知ったのはSNSです。Twitterのトヨタ公式アカウントで告知されていました。2リッターのエンジンを搭載しているところに、かつての限定車『カローラTRD2000』を重ねました。父が100系のカローラGTに乗っていたこともあって、二人で盛り上がりましたね。

カローラツーリングはスポーティーな外観なのに居住性が良く、誰でも運転しやすいATです。普段用として俄然乗りたくなり、翌々日には申し込みを終えていましたね。それまで普段用として乗っていたシエンタを下取りに出し、カローラツーリングと入れ替えました」

レアなモデルを運良く手にできたオーナーだが、試乗する時間もなく決断できた理由とは?

「長年乗ってきた経験上、“カローラだし大丈夫だろう”という安心感がありましたね。当時はトヨタのチャネル統合の直後だったこともあり、標準モデルの試乗車にすら乗ることなくオーダーしました。

実家にあったどのトヨタ車もこれまでほとんど故障しなかったので、今回も大丈夫だろうと。さらに部品供給も良好ですし。トレノも旧車のなかでは部品が出るほうですしね。しかも復刻部品まで出してくれるのでメーカーとして信頼を置いています」

実際に所有して感じたことを尋ねてみた。

「クルーズコントロールによる長距離ドライブがこんなにも楽なのかと感動しました。なにしろトレノには装備されていませんから(笑)。それにボディ剛性がしっかりしていると、高速域での安定感も驚くほど良く、スポーツカー顔負けなのでは……と思うほど切れ味の鋭いコーナリングです。

それでいて乗り心地も快適。リアがダブルウィッシュボーン式を採用していることで、快適性を少し犠牲にしたかなという気もしますが、走らせることが好きな自分にとっては合っているクルマだと思っています」

トヨタ車を乗り継いできたオーナーの父親も、このカローラツーリングを大変気に入っているようだ。

「最近は父が『ちょっとクルマ貸してよ』と言ってくることがあるんです。一緒にドライブするたびに『すごいね!』を連発しています(笑)。高速道路は楽だと喜んでいますし、ハンドリングも良いとベタ褒めです」

オーナーがもっとも気に入っているポイントが、このブルーメタリックのボディカラーだ。

「このあと限定車の第二弾が発売されましたが、ブルーメタリックはこのときだけだったので、こだわって良かったと思います。

当時は標準グレードのホワイトパールとブラックマイカに、限定色のレッドマイカメタリックとブルーメタリックの4色がラインナップされていました。買うなら限定色が良いと思ったのと、お世話になっているNetz店のイメージカラーが青だったことからブルーメタリックにしました。

納車までは4〜5ヵ月かかりました。限定車なので製造ラインも限られてくるでしょうし、これは仕方がなかったかもしれません。納車までが本当に楽しみで、出荷されるまで何度も“まだですか?”と営業の方に聞いてしまいました(笑)」

知る人ぞ知るレアな個体だが、同じ車種のオーナーとすれ違うことは?

「たまに違う色の2000リミテッドとすれ違うことがあるんですが、ついオーナーと目を合わせてしまいますね。私の他に地元にもう1台いるんです。白のモデリスタのフルエアロとホイールの特徴からすぐにわかりました。向こうも気づいてくれていれば嬉しいなといつも思っています」

限定車は「通常のモデルとは異なる点」が最大の魅力だが、見ず知らずのオーナーと所有する喜びを分かち合える点も見逃せないポイントだ。

オーナーにとって、モディファイする楽しみもカーライフを充実させる大事な要素となっているようだ。オーナーの個体は、トヨタのオフィシャルチューニングブランド「TOM’S」のパーツを中心にまとめられている。

「TOM’S製のフルエアロを装着しています。このボディカラーでTOM’Sのエアロを装着した個体はほとんど見かけないので“オンリーワン感”が味わえていると思います。

基本的にウインカーやフォグランプなどのライト類以外は、トヨタの公式なパーツで仕上げていますね。前後のバンパーサイドには86用のエアロタービュレーターを着けました。このパーツは汎用性が高く、ワンポイントにもなると思っています。

ボディ補強と剛性アップのため、TOM’Sのボディブレースも装着しました。これはカローラスポーツ用を流用しています。決して安い買い物ではありませんが、効果は絶大ですね」

リアゲートに装着された"2.0 Limited"エンブレムも、標準装着かと思いきや、実はこのクルマにマッチするようオーナー自ら厳選してチョイスしたのだという。

「さりげなく主張するものが欲しいと思い、インターネットで探し出しました。"COROLLA Touring"の文字が斜体なので、その雰囲気にマッチするエンブレムにはこだわりたかったんですね。

ようやく見つけた"2.0 Limited"はトヨタ純正品なのですが、どのモデルというわけではなく、汎用品のようです。自分だけかと思いきや、すでにモディファイしている方がいらっしゃいました(笑)。思うところは皆さん同じなんですね」

その他、随所にオーナーのこだわりが見える。

「ピラー部分のカーボンシールもTOM’S製で、スカッフプレートはモデリスタ製です。それから、シートバックベゼルもカローラスポーツのものを流用しています。これで素地(黒)が、シルバーになるんですね。

純正だと味気ないので、カローラオーナーではここを変えている人が多いですね。シートバックベゼルやエンブレムなど、さりげなく主張するポイントが欲しくなります」

そして、もっともこだわっているのがシフトノブ部分の加工だ。

「カローラツーリングはDirect Shift-CVT(10速のギア機構付き自動無段変速機)なのですが、シフトノブを操作する際に、手前側がシフトダウンなんです。幼い頃からテレビなどでGTマシンやレースカーのシフトチェンジを見てきたので、手前がシフトアップというイメージが強いんですね。そこで、自分で配線を加工して、シフトノブの前後の操作を逆(手前側がシフトアップに変更)にしています(注:きちんと“+”の記号が手前になっている!)」

カローラツーリングを、あくまでもさりげなく、少しずつ自分色に染め上げているオーナー。トレノとこのカローラツーリングという、理想的な2台体勢を確立しているオーナーだが、他に欲しい車種はあるのかどうかも尋ねてみた。どんなクルマが好みなのだろうか?

「カローラが大好きなんですが、乗りたいクルマはたくさんあります。今度MTモデルが出るスープラもそうですし、GRヤリス、GRカローラなどのスポーツモデルには乗っておきたいですよね。それから、カムリやクラウン、ヴェルファイアなど、質感と静粛性の味わえるセダンやミニバンもめちゃくちゃ興味ありますね」

トヨタ車好きなのは父親譲りだろうか。クルマのキャラクターやモディファイの方向性からスポーツ嗜好だとばかり思っていたが、オーナーの意外な一面を覗けた。

最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「カローラツーリングとトレノという個性の強いクルマに出会ってしまったので、替えが利きません。2台とも維持し続けたいですが、おそらくどちらかを手放さなければならないタイミングは来ると思うんです。

もし、この先結婚してもカローラツーリングなら、家族が増えたらファミリーカーとして活躍してくれるでしょう。しかし理想を言えば、クルマ好きを理解してくれる方と縁があればいいなとは思います(笑)」

カローラツーリングでモディファイを楽しみながら、スプリンタートレノはオリジナルに近い姿を追求するという、クルマ好きとして理想的な2台体制のカーライフを送っているオーナー。今後の愛車の進化も楽しみなところだ。

「カローラは、誰かのストーリーになるクルマでもあります。コモディティな存在にしたくない。お客様を虜にするカローラを取り戻したい」

GRカローラ モリゾウエディションの発表時に、モリゾウ(豊田章男社長)氏はそう語っていた。実用車として世界中で活躍するカローラ。味付けを変えるだけでスポーティなモデルへと変身する。それもベース車両の素地の良さならではといえる。

カローラよりも高性能かつ高級なクルマはいくらでもある。そのいっぽうで、使う場面を選ぶことも少なくない。故障すれば修理代も馬鹿にならない。

その点カローラは、機械として信頼できる絶大な安心感と、どこへでも乗っていける気楽さ、そして質感の高さ、維持費の安さ・・・。よくよく考えてみると全方位で隙がないのだ。こんなクルマ、世界でも稀に見る存在ではないだろうか?

クルマとして、機械として極めて高い完成度と実用性を誇り、さらに走りの楽しさが加わればもはや無敵だ。ライフスタイルの変化を気にすることなく、長く付き合える1台としてこれほど理想的なクルマはそうそうないのでは・・・?

そう改めて気づかされた取材となった。

(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)