母の形見のカバンを載せたくて手に入れたロードスター。祖父が旅したヨーロッパの空気を感じるブリティッシュグリーンとともに

「母親の形見のカバンをトランクに載せて運転したい」

オーナーである市川陽一さん(67才・東京都在住)が、その姿がもっとも似合うクルマとして選んだ1台が、こちらのマツダロードスター(NCEC)だ。

市川さんがロードスターを購入したのは57歳のころだが、人生最初の愛車は26才に結婚したあとに乗りはじめたホンダ・ライフステップバンだった。

1972年に登場した軽規格のトールワゴンとして、現代につながる要素を多く持ちながらも時代を先取りしすぎたパッケージングから販売台数は芳しくなく、一代限りで終わった車種であった。
そんなライフステップバンを市川さんは、5年間所有した間にインテリアを中心にカスタムし、自分好みのスタイルにメイクしたそうだ。

そこから乗り換えたのはトヨタ・スプリンターシエロ。こちらもステップバンとは系統が異なるが、どこか日本車離れしたスタイリングが共通していて、本人の好みが車歴に表れている。

次のホンダ・ステップワゴンは、かつて所有していたステップバンに名前の源流を持つ車種。そのように3台にわたり、家族とともに不自由なく過ごすクルマを選んできた市川さんだが、4台目に選んだのは現愛車である2シーターオープンカーのNCロードスターだった。

オープンカーに対する憧れのもとには、今から30年ほど前に公道で見かけたオーナー夫婦の光景が強く影響しているという。

「走っていたのはNAロードスターでした。運転席にはハンチングをかぶったお爺さん、助手席にはスカーフを巻いたお婆さんが座っていて、その姿を見て家内と『カッコいいね』と憧れましたね。将来、できれば私たちもオープンカーに乗って似たような関係でいたいな、と。それを思い出して、NCに乗りはじめたのが10年前でした」

そして、数あるオープンカーのなかでもロードスターを選んだのは、母の形見であるカバンをトランクに載せた姿がもっとも似合うクルマだったからだ。

「母親は、NCロードスターを買う10年ほど前に亡くなりました。これは、母の旧姓のサカザワと刻印が入っているトランクケースで、母の父、つまり私の祖父が使っていたものだそうです。戦前に祖父がヨーロッパに行くときに使っていたようで、ドイツやスイス、チェコスロバキアなどで貼られた当時のシールも残っています」

ただし、トランクケースの積載にあたってキャリアの装着が必須。
「NA、NBには純正オプションのトランクキャリアがあったけど、NCには用意されなかったようなんですね。そこでネットで解決法を探したところ、汎用トランクキャリアを加工して付けている人をブログで見つけたんです。この方法なら装着できることがわかり、納車のタイミングで手配しました」

最初に付けていたキャリアは、トランクのマウント部にサビが目立つ鉄製だったため、のちにワンオフでステンレス製のマウントを製作してリフレッシュしている。その甲斐もあってトランクには、美しい輝きを放つキャリアが彩を添えている。

市川さんにとっては、NCロードスターのエクステリアを構成する一部ともいえる本革製のトランクケース。本革ということで普段から栄養補給といったメンテナンスを怠らず、雨天時は濡れてしまわないように車内へカバンを避難させることもある。
荷物はカバン内に収納しているので、キャリアだけに比べて積載性は下がってしまうが、それでも大事な形見の品と一緒に走ることに意義があるわけだ。
また、唯一経年によるノビのダメージが大きかったベルト部分は、新しい本革素材で作り直すことでオーバーホールされていた。

車体のほうでは、細かいところだがルーフに貼られたウェザーストリップがポイント。ウインドウに沿ってリブが設けられているNCロードスターのルーフは、雨水が溜まりやすく、ドアの開閉時に溜まった雨水が体にかかりやすいそうだ。
そのことに乗っていくうちに気づき、ベストな長さのウェザーストリップを貼り付けることで乗り降りの際の不便を解消。

そのほか、純正採用されているBBSホイールなど、インテリアも含めてノーマル状態が残っている部分は購入時からそのままを維持している。

また、車体の購入にあたって特にこだわりがあったのがボディカラー。NCのなかにはヨーロピアンな雰囲気を感じさせるブリティッシュグリーンカラーを採用しているプレステージエディションというグレードが存在し、中古車として残っている個体を探して購入した。

「NAも候補に上がったけど、なかなかいい程度の車体が残っていなくて。NCは走行2万キロのものを購入して、現在は19万キロまで走りました」と市川さん。

仕事の関係で名古屋に住んでいたころ、ロードスターのオーナーズミーティングである『中部ミーティング』へ参加したことを皮切りに、現在では軽井沢ミーティングも毎年の楽しみとして参加している市川さん。
さまざまなミーティングへ参加を続けているうちに、直接の知り合いでなくとも、それぞれの仲間同士がどこかでつながっていて、それが新たな出会いにつながるといった偶然もあった。

また、今回は自身のもうひとつの趣味である自転車について、これまでロードスターのトランクに積むことは無理だと諦めていた20インチの自転車を積み、持ち込んでいる参加者を発見。
市川さんが自転車側を18インチへサイズダウンしていたのに対して、その参加者は輪行のようにパーツを分解することで20インチの持ち運びを実現していたというノウハウを教えてもらった。
このような発見ができるのも同じ車種のオーナー同士が集まるミーティングならではと言える。

自身の最後の愛車のつもりで、これからもずっとNCとともに走り続けたいという気概も話してくれた市川さん。その姿を、トランクにこもった母と祖父の思いがずっと見守ってくれているはずだ。

(⽂: 長谷川実路 / 撮影: 市 健治)

[ガズー編集部]

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