いちど海外へ渡り日本に戻ってきた帰国子女。生涯寄り添うと決めたアルペンブルーメタリックのホンダ・S600(エスロク)
『1985年以前の鉄バンパーを装着した国産車及び空冷VW』という枠組みで開催された『ジャストマイテイストミーティング』。
会場となる岐阜県の朝倉運動公園には、往年の名車や自分好みにカスタマイズされた昭和車など150台以上の旧車が並べられ、訪れた参加者やファンたちを楽しませてくれた。そんな中でひと際目を引いたのが、永澤さんが所有する1966年登録のホンダ・S600だ。
ホンダ・S600はホンダが初めて手がけた市販ライトウエイトスポーツ『S500』の後継モデル。好敵手と呼ばれたトヨタ・スポーツ800より早い1964年にデビューし、海外へも輸出されていたことから、世界各国にファンが存在するSシリーズの傑作だ。
生産台数は1万台近くといわれ、当時正規に輸出された車両以外にも、中古車として海外のコレクターへ送られた車両も多かったらしい。永澤さんのS600も一時期は中古車としてヨーロッパへと輸出され、平成6年に再び日本に里帰りした経歴を持つ1台だという。
ちなみにS600というと、真っ赤な『スカーレット』というボデイカラーのイメージが強烈に刷り込まれている人も多いかもしれないが、永澤さんの愛車は純正色の『アルペンブルーメタリック』で彩られているのが特徴だ。
この淡いグリーンメタリックのカラーリングがどこか輸入車のオシャレ感をイメージさせ、カスタムカーのような雰囲気を演出しているのがポイントといえる。
そんなS600オーナーの永澤さんがクルマに興味を持ったのは中学生の頃。その後免許を取得してミツビシ・ギャランΣや日産・スカイラインGT EXターボ、トヨタ・ランドクルーザーなど、スポーツカーから4WD車まで様々な車種を乗り継いできている。
そんな愛車歴を経て、一生の宝物として手に入れたのが往年のライトウエイトスポーツであるS600だったというわけ。美しいスタイリングを見て楽しみ、さらに乗れば過不足なく手足のように動いてくれるという。
その俊敏な走りは、クルマに憧れていたあの頃の情熱を思い出させてくれるそうだ。
搭載するエンジンは当時としてはハイスペックで固められたDOHC 4気筒。排気量606㏄、57psという最高出力ながらも当時のリッタークラスに引けを取らないパフォーマンスを発揮している。レッドゾーンは9500rpmと超高回転型の設計で、最高速度も145km/hを記録する実力を持っているのだ。
しかも、このエンジンは5年ほど前にオーバーホールされ、見た目も性能も新車コンディションに引き戻されている。またウォーターポンプやダイナモも交換され、不安なく軽快な走りが楽しめるようにメンテナンスも徹底。赤いヘッドカバーはイベント用とのことで、普段は地味なシルバーのカバーを装着しているのだとか。
「S600を探しはじめたのは10年くらい前ですかね。1960年代のクルマなのにツインカムヘッドの4気筒で、4キャブというホンダのエンジンは1度乗ってみたいと思っていたので。探しはじめて見つかったのがこのS600なんですが、定番の赤や白じゃなくこの淡いメタリックカラーが純正色だということに驚き、それも気に入って購入を決意しました」
入手してから9年が経過したというが、お気に入りのボディカラーはヤレやクスミもなく美しい状態をキープ。メッキパーツやゴム類なども手入れが行き届いているため、時間の経過を感じさせない。
手に入れてからエクステリアパーツで唯一変更したのがホイール。もともとは純正のスチールを履いていたが、オプション品として用意されていた13インチのアルミを見つけて交換したのだという。
純正スチールにハブキャップという組み合わせも悪くはないが、アルミホイールでスポーティさを強調する今のスタイルは、S600の完成形といえるだろう。
タイヤは軽自動車に使用するコンフォートタイヤをセットしているが、当時のタイヤと比べればこのグリップでも十分すぎる。走りの安定感がさらに増し、安心してドライブを楽しめるメリットにもつながっているのだ。
複数オーナーの元に渡った経歴のある旧車ではエンブレムやモールなどが取り外されているケースも多くある。しかし永澤さんのS600に関してはすべてのパーツが残されるオリジナルコンディションが維持されている。今のホンダ車にはない筆記体のエンブレムはむしろ新鮮に思えるだろう。
こういった細部の状態からも、歴代オーナーに愛されてきたクルマであることは想像できる。
購入してからは常にガレージ保管ということもあり、ビニールスクリーンの状態もクリアをキープ。幌も購入時から張り替えは行なっていないというが、縮みや破れといったダメージがまったく見当たらないのは、永澤さんがこのS600を大切にしている証拠だろう。
「本当なら9500rpmまで回るエンジンなんですが、普段は6000~6500rpmあたりをキープしながら走らせています。パワーやスピードを求めて乗っているわけではないので、この回転域でも十分にスポーツカーの雰囲気は楽しめます」
コンディションキープを兼ねて、今も週に1度はハンドルを握っているという永澤さん。もちろん超高回転型エンジンとはいっても無理はさせないジェントルドライブを心がけているという。
インテリアの変更点はステアリングをMOMO製に変更している程度。センターのオーナメントは純正ステアリングから移植しているが、このオーナメントはホーンボタンではなく単なる飾りで、ホーンスイッチはノーマルでインパネのトグルスイッチに割り当てられている。
メーター類などもクラシックなレイアウトながら、ドライバーにスポーティさを訴えかけるレイアウト。こうした部分も所有欲を満たしてくれるポイントといえるだろう。
基本的にはオリジナルに準じた状態をキープしているが、運転席に関しては純正シートをリメイクしたバケットシートを装着。
「シートのリメイクはお世話になっているホンダ・エスの専門店にお願いしました。純正シートよりもホールド性が大幅にアップしたため、ワインディングを流していても体がずれることもなく、S600の気持ち良さが倍増しましたよ。基本的にはノーマルを通していますが、シートとステアリングは自分に合わせたものを選べば愛車がもっと楽しくなるんじゃないですかね」
現在だと軽自動車よりも少ない排気量だが、その走りは純粋なスポーツカー。その洗練されたスタイリングとチェーン駆動という独特な乗り味は「ホンダ・エス以外では味わうことができない」と永澤さん。
そんなS600だけに愛情は尽きることがない。週1回のドライブを楽しむのはもちろん、一番の喜びはガレージでお酒を飲みながらS600を眺め、エンジンルームを磨くことだという。
家族の一員といえるほどかけがえのない大切な存在となった愛車に、これからも愛情を注ぎ続けていくに違いない。
取材協力:ジャストマイテイストミーティング
(文:渡辺大輔 / 撮影:土屋勇人)
[GAZOO編集部]
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