自動車内装職人と仲間による絆の結晶!バラバラ状態から8年かけて蘇ったフェアレディ(SP310)

“クルマが好き”という定義は人それぞれだと思う。愛車でドライブするのが好きな人、自分なりのドレスアップやチューニングをするのが好きな人、飾って眺めるのが好きな人、同じ車種を好きな人と会話するのが好きな人…どれもクルマ好きと呼べるだろう。

しかし、今回取材させていただいたオーナーさんに「まずクルマを好きになったきっかけは?」と尋ねたところ「ボクはクルマがそんなに大好きではないんですよ」と意外な返答をいただいた。

今回取材させていただいたのは、ダットサン・フェアレディ1500(SP310)という貴重な昭和の名車。しかも8年もの時間をかけてレストアを施し、新車のように美しい状態へと仕上げられた1台だ。

それにも関わらず『クルマ好きではない』というのは一体どういうことだろうか? 少し困惑しながらもオーナーである須藤譲二さん(68才)にお話を伺っていくうちに「あぁ、そういうことか」と納得した。

自動車内装業は親父が始めた仕事だけど、僕が1才半の時に死んでしまってからは職人さんがつないでくれて、僕もこの仕事をやるのが当然のこととして18才で家業をつぎました。それから今まで50年この仕事一本でやってきたから、当然、僕の周りは業者仲間もお客さんもクルマが大好きでマニアな人たちばかりなんですよ」と須藤さん。

「仲間とワイワイやってるのは好きだし、一緒にツーリングに行ったりサーキットで走ったりしたこともあります。自動車ショーを見に行ったりするのも楽しいですよ。でも、僕自身はクルマが嫌いかって言われたら嫌いじゃないけど、大好きかって言われたらそうでもないかな」と続ける。

須藤さんが所有する1964年式のダットサン・フェアレディ1500(SP310)は、後部座席が左向きに備わる3人乗り仕様。

「先に設計された輸出モデル(SPL310)だと助手席の後ろに後部座席がくるけど、そのまま右ハンドル仕様にしちゃったもんだから、運転席が下がらなくて窮屈なんだよね。マイナーチェンジ後は2人乗りだから、この3人乗りっていうのは珍しいと思うよ」と須藤さん。

「もともと知り合いがクルマをバラした状態で何年もほったらかしにしていたんですよ。かなりボロボロの状態だったんですけど『じゃあ僕が仕上げるから売ってくれ』と引き取ったんです。“2度とバラさなくていいくらい完璧に”をコンセプトに58才で作り始めて、2年後には仕上げるのを目指したんですけど、全然進まなくて8年もかかってしまいました。というのも、ボディはグザグザで個体数も少ないし、他モデルから流用できる部品も少なくて。自分のネットワークをフル活用してパーツをかき集めて、それでも手に入らないパーツは削り出しで一から作り直したりもしてもらったんです。そんなふうに鈑金屋で3年、エンジン屋で2年…とプロの仲間がそれぞれ試行錯誤して『大変だよ、どうすんだよ』なんて言いながら力を合わせて復活させました。このSP310は本当にたくさんの方に助けられて、支えられて復活した大切な1台なんです。もしこのクルマを手放す時は、みんなにも許可を取らないといけないですね(笑)」

サビもあってボロボロだったボディは、しっかりと修復したうえで純正の水色よりも明るく爽やかなオリジナルカラーに全塗装。フレームまでピカピカだ。
レストア時の写真はアルバムにまとめて入れてあり「仲間から『塗り上がったよ〜』って連絡をもらったときは嬉しくて飛んでいっちゃったよね」と懐かしそうにページをめくる須藤さん。

内装と幌の張り替えは、もちろん本職である須藤さんの担当。

「ボディカラーに似合う生地を選んで、オリジナルとおなじように張り替えました。スペアタイヤカバーはちょっとやりすぎましたけど(笑)。シートのクッションは乗り心地も考慮してスポンジの量や種類を調整しています。SP310のシート張り替えは今まで仕事でたくさんやってきて型紙もあるので、作業自体は2週間くらいで終わりましたよ」と、本職ならではの本領を発揮している。

ちなみに幌は折りじわなどがつかないように、絶対に畳まないのが信条だ。

またエンジンは本来搭載されている1500cc のG型エンジンから、1600ccのR型に載せ換え。パーツ類は性能面も重視し必ずしもオリジナルにこだわらず、ホース類やハーネス類などイチからワンオフで作り直している部品も多いそうだ。その効果もあって始動は一発でアイドリングも安定していて「車内で普通に会話できるくらい雑音がなくて静かなのがいい」と、快調さを維持している。

そうして仕上がったこの愛車を眺めながら仕事をするのが、とても心地いいという須藤さん。「去年、8ヶ月くらい博物館に貸し出していた時期があったんですけど、ここになかった時は寂しかったですよ。早く帰って来ないかなって(笑)」

また「実際に自分で手間もお金もかけてレストアしたから、お客さんの苦労や妥協のないこだわりの心情もよく理解できるし、説明にも説得力が出て満足いただける仕事ができる。お客さんが楽しく旧車に乗る手助けができて、喜んでもらえることが僕の誇りなので、そういう面でも十分貢献してくれています。このSP310をお店に置いておくと、お客さんが『ここだったら安心して仕事を任せられる』と依頼してくれることも多いんですよ」と、仕事の面でも他には代え難い大事な存在となっている。

ちなみに須藤さんが一番最初にダットサン・フェアレディを所有したのは33才の頃。仕事で知り合った人の紹介でフェアレディ1600(SP311)に乗り、その後はフェアレディ2000(SR311)の後期と前期と乗り継いだ。

「はじめて手に入れたフェアレディも、自分で内装を張り替えたんですよ。当時の写真が冊子になって残っているんですが、今見ると恥ずかしいくらいシワだらけ。もちろん今はこんな失敗はしないけど『まだもっとできることはあるんじゃないか』と模索し続けています。ちなみに今のSP310のシートは、ルーフが低いので頭上のクリアランスが少しでも広くなるようにと考えて、シートクッションを薄くしてあるんです。もちろん座り心地は損なわないように工夫してね」と、熱のこもった口調で語ってくれた。

また1500、1600、2000とすべてのモデルを所有してきた須藤さんが、特に気に入っているのがこのSP310だそうで「旧車って強そうな顔のデザインが人気で、SR311なんかも迫力のある顔をしているけど、この前期型のSP310は丸っこくて、前から見るとにっこり笑っているように見えるでしょ?それがとにかく可愛いんですよね」と、嬉しそうに眺めている姿も印象的だった。

完成が予定より6年も遅れたことで、3年経った今は目も悪くなってしまったことから、実際に乗る機会も少ないそうだけれど「このクルマを手放す時は、もっとたくさん走らせて、愛情を注いで大事に乗ってくれるオーナーさんに引き取って欲しいと思ってます。やっぱりクルマってのは走らせてあげないとね」とSP310の行く末もしっかり考えている。

ここまで読んでいただいた方には伝わったのではないかと思う。
須藤さんはまわりのマニアックな仲間たちと自分を比べて「自分は彼らほどじゃない」と仰っているだけで、世間一般レベルの物差しで測れば間違いなく“クルマ好き”だということ。
そして、苦労して仕上げたこの唯一無二の愛車が大好きなのだ、ということが。

エンジン音を動画でチェック!

(文: 西本尚恵 / 撮影: 土屋勇人)

[ガズー編集部]

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