ギタリストとベリーダンサーの世界を広げた湘南の町とトヨタ ハイエースでの「週末バンライフ」
トヨタ スープラやフォード マスタングなどの「背が低いスポーツカー」を好む、都内在住の超インドア派ギタープレイヤーだったランディさんが、キャンパー仕様のハイエース バンに乗り替えたきっかけは、今から約4年前、神奈川県逗子市の海辺にあるカフェレストランで行ったライブ演奏だった。
「ロケーションの素晴らしさに打ちのめされたんです。そして『こんなところに住めたら最高だろうなぁ……』と思って、長い目で“逗子への移住”を考え始めました」
ギタリストとしての活動と並行して就いている仕事のほうも、コロナ禍の関係でリモートワークが中心となり、東京都内にこだわって住む必要はなくなった。そしてもともとは田舎育ちゆえ、インドア派のミュージシャンではあるものの、自然は大好きだった。
「それで、僕としては『ゆくゆくは逗子へ移住したいなぁ』的に考えていたのですが、妻の考えはちょっと違っていたようで(笑)」
ベリーダンサーでもある妻・なつこさんは、夫の海沿いライブを観に行ったその日から「絶対ここに住む!」と決めていた。そしてランディさんが「ところで、実は逗子に移住しようかなぁなんて、ちょっと考えてるんだけど……」と話を切り出したときにはすでに、「不動産業者と一緒に物件予定地を見に行く段取り」まで組んでいた。
そうこうして都内から神奈川県逗子市へ転居したランディさん・なつこさん夫妻は、当初のイメージどおり休日、自宅すぐ近くの海岸や切通しなどをのんびり散歩した。そして逗子の自然に触れるうちに、自然と“アウトドア”への興味が湧いてきた。
「逗子の街も海も最高なんですが、人間の欲求は尽きないと言いますか、『逗子の海や山がここまで綺麗なら、ほかはどうなんだろう?』と思い始めたんですね。それまでは、スタジオなどにこもって音楽を作ることこそが、僕の人生の中心でした。でも逗子に住み始めてから、それとは180°違う世界にも強い興味を抱くようになったんです」
そして“忙しさ”という問題もあった。
「月曜から金曜の日中はがっつり仕事をして、夜にはバンドのリハ(リハーサル)があったりします。そして妻も、仕事が終わった後の時間でベリーダンサーとしても活動しているため、平日はふたりでゆっくりできる時間がほとんどありません。であるならば、もういっそのことキャンピングカーを買って、土日だけはふたりで自然のある場所へ行き、車内で寝て、そして時間をまったく気にせず自由に過ごせたら最高なんじゃないか――と思うに至ったんです」
そこで今から2年前、夫妻はトヨタ ハイエース バンの新車をベースに作るキャンピングカーをオーダーし、それから1年が経過した昨年11月、無事納車と相成った。
アウトドアの魅力に目覚めたとはいえ、もともとは「背が低いスポーツカー」を愛好していたランディさんにとって当初、ハイエース バンの乗り味やその他は、決して満足のいくものではなかったという。だが助手席下に防音断熱シートを敷き、ショックアブソーバーをKYBの「プレステージ」に交換し、さらにタイヤを215/60R17サイズのものに替えるなどしたことで、「おおむね問題なし」と感じられるレベルには持ってくることができた。
そして、ランディさん・なつこさん夫妻の「週末バンライフ」が始まった。
金曜日の夜、仕事が終わるとまずは自宅で風呂を済ませ、そしてハイエース バンに乗って家を出る。目的地近くのSAなどで車中泊し、朝が来ると――例えば先日は、土日の2日間をかけてのんびりと伊豆半島を一周した。
「そういった使い方ができるのも、このクルマならではですよね。僕は身長が184cmあるので、普通のSUVではなかなか身体を伸ばして寝ることができません。でもキャンパー仕様のハイエースであれば、僕でも身体をまっすぐにして快適に寝ることができます。で、自宅を金曜の深夜に出発すれば渋滞ともほぼ無縁ですし、とりあえず目的地の近くまで行って車中泊しちゃえば、翌朝からの時間を有効に使うことができる。ほんと、最高なんですよ」
しかしランディさんは「でも、だからといって何か特別なことをしに行くわけではない」とも言う。
山道や海沿いの道をのんびり走る。そしてキャンプ場に着くと、タープを張るなどの準備を行なう。それが一段落するとふたりでビールを飲み、気持ちよくなってきた頃合いで焚き火を始める。そしてそのかたわらでごはんを作り、焚き火と星空を眺めつつささやかな宴を行い、そしてハイエース バンの車内で眠りにつく。気が向けば、ギターも弾く。旅先でやることと言えば、せいぜいそれぐらいだ。
「それだけのことなんですが、でもそれが最高なんです。端的に言ってしまえば『仕事やその他のことで疲れた心と身体をリフレッシュできる』ということになりますし、とにかくこの車は“疲れない車”なんですよね。そこが、実は大いに気に入っているポイントなんです」
トヨタ70系スープラやフォード マスタング、あるいは日産 スカイラインGTS-t等々の運動性能に優れる車に慣れ親しんできたランディさんからすれば、あくまでも商用車であるハイエース バンのハンドリング性能やその他性能は、逆にドライバーとしてのランディさんを疲れさせるのではないかとも思うのだが?
「それが実はそうでもないんです。スポーツカーやスポーティカーは――もちろん公道でレースまがいの走りをするわけでは決してないのですが――どうしても攻めたくなるというか、“戦う車”として僕は認識してしまいます。だからすごく楽しい半面、すごく疲れる存在でもあるんですね。でもハイエースは“攻める”とか“戦う”といった概念の真逆に位置している車です。だから常にピースフルな気持ちでラクに運転できますし、ピースフルだからこそ、長時間運転していてもまったく疲れないんです」
コーナリング性能や加速性能およびブレーキング性能、空力性能などに優れる車のほうが――つまりスポーティな車のほうが、机上の計算に基づけば、運転中の疲労度は圧倒的に低くなるはずだ。だが机上の計算どおりにはいかない部分も実に多いのが、車というか“カーライフ”の面白いところなのだろう。
「のんびり走ることのプレジャー」に目覚めた元スポーツカー乗りとその妻は、これからもほぼ毎週末、キャンパー仕様のハイエース バンに乗ってどこかへ行く。そして焚き火の炎と星空を眺めながら、ふたりだけのささやかな宴に興じる。
それはもちろん普通のSUVでも(車中泊する人の身長が180cm以下ぐらいなら)できることであり、何ならレンタカーや、公共交通機関を使って行なうことも不可能ではない。
だが「自前のキャンパー」があることで、それは格段にラクになる。ラクになるから、楽しくなる。楽しくなるから、何度でもやりたくなる。あちこちへ行きたくなる。何度もあちこちへ行くから、自分たちの“世界”が広がる。
車というのは――特にキャンパー仕様の車とは、モノや人を載せて移動し、ときに車内で人を睡眠させるためのツールであるのはもちろんだが、それ以上に「世界を広げるためのツール」でもあるのかもしれない。
ランディさんとなつこさんの笑顔を見ながら、筆者はそんなことばかり考えていた。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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