オンラインからリアルへ。日産 テラノが運んでくれた仲間たちとの濃いつながり
1970年代の旧車から2000年代くらいまでの少し古めのクルマまで、4WD好きが集まってオフロード走行を楽しみながらキャンプをする。そんな話を聞きつけて、お邪魔させてもらうことにした。
「おじ四駆MTG」の主催者である「おかにい」さんの愛車は1992年式の初代日産 テラノ R3Mディーゼルターボ。おかにいさんと同い年のモデルになる。8年前に走行距離3万8000kmの中古車を手に入れ、現在の走行距離は17万8000kmに達した。
これだけ走っているのだから、それこそ日本全国をドライブしているのかと思ったら、一番の遠出は静岡県の自宅から埼玉県までのドライブだという。
この話を聞いて、おかにいさんは旧車を趣味車としてではなく日常使いしていることが伝わってくる。
「僕はセカンドカーを持てない性格だと感じています。もし2台クルマを所有しても片方は趣味用でもう一方は普段用と割り切って使うことができないだろうなと。どちらも本気で好きなクルマを選んで、両方にお金をかけちゃうと思うので、家計が火のクルマになってしまいます(笑)」
四駆のイベントを主催するくらいだから、おかにいさんはこれまでにいろいろなSUVを乗り継いできたのかと思ったら、意外にもこのテラノが初めての四駆だという。
「僕は元々K11型日産 マーチが好きで、これまでに4台乗り継いでいろんなクルマ遊びをしてきました。どんな遊びかって? まあ、それは置いといて、4台目のマーチを手放した後に繋ぎのつもりで軽自動車に乗っていたのですが、その時期にクルマの嗜好が変わってきました。それは快適でどこにでも行ける四駆に乗りたいと思うようになったんです」
おかにいさんがクルマ好きになったのは幼稚園時代。三菱 ジープを見て「カッコいい!」と思ったことだった。そして四駆に乗ろうと思った時、思い出したのが幼少時代に家族で過ごした記憶だった。
「子どもの頃の家のクルマがトヨタ タウンエースの30系でした。父親はガチな四駆乗りではなかったし、せいぜい河川敷にピクニックに連れて行ってもらったくらいですが、すごく楽しかったのを思い出して。なんとなく僕の子どもたちにも同じような経験をさせてあげたいなと思ったんです。
そしてせっかく四駆に乗るなら、30系タウンエースと同世代の、RVが全盛期だった頃のものを選ぼうと考えました」
マーチを4台乗り継いだおかにいさんは、いわゆる「日産党」。日産で90年代前後のRV車というと、テラノかサファリになる。どちらにするか悩み、シャープなイメージのテラノに的を絞って探すことにした。
「もし四駆に乗ろうと思った時に子どもがいなかったら、R33 GT-Rを選んでいたかもしれません。GT-Rも四駆ですから(笑)。ジープを見てクルマが好きになった頃、グランツーリスモが発売されて、おじさんと一緒に遊んでいました。その影響でGT-Rも好きになったんです。僕が四駆に乗ろうと思った時は、程度の良し悪しにこだわらなければギリギリ200万円前後で買えたんですよね。今の中古車相場ならとてもじゃないけれど乗ろうとは考えられないですが」
おかにいさんがテラノの中古車を探し始めた頃はすでに流通台数が激減していて、なかなか条件に合うものは見つからない。ようやく見つけたのが現在乗っている、シャンパンゴールドのテラノだった。
シャンパンゴールドは当時アメリカで人気のあった色。日本ではそこまで人気があったわけではないので流通台数はかなり少ない。購入後にテラノのミーティングに参加した時、他のテラノオーナーから「オフ会でこの色を見るのは初めて」と言われるほどの希少色だ。
念願のテラノを手に入れたが、最初はあまりにも遅くてびっくりしたそうだ。
「僕が運転免許を取った頃、父親が2代目日産 セレナのディーゼルターボに乗っていました。それを何度か運転させてもらいましたが、結構速かったんですよね。その印象があるから日産のディーゼルは速いと思い込んでいて。しかもテラノで実家に帰ったら父親から『なんでそんな古いクルマを買うんだ?』と不思議がられるし……」
父親との思い出からテラノを選んだおかにいさんとしては「なんてことを言うんだ!」と思っただろう。でも旧車に興味がない人だと、わざわざ古いクルマを選ぶ気持ちがわからないのも無理はない。
「乗り始めてからだいぶ時間が経ちましたが、今でもテラノのスタイルはカッコよくて飽きません。僕は特にテラノのテールの雰囲気が好きですね。あとはブリスターフェンダー。ラインがとてもきれいだと感じます。条件に合う中古車が見つからなくて妥協を強いられましたが、ブリスターフェンダーがきれいなナローボディというところは妥協しませんでした。諦めずに探して良かったと思っています」
テラノを購入した後、おかにいさんは四駆仲間を増やしていく。そして今ではリアルイベントを開催するまでになった。どのようにしてイベントを行うまでになったのだろう。
「最初は少し古い四駆に乗っている人が雑談するLINEグループだったんです。それを続けているうちにだんだんと参加者が増えて、SNS上で「おじ四駆」というワードの知名度も上がってきました。そうしたら参加者の一人が『そろそろなにかイベントをやってみなよ』とそそのかしたんです。でも実際に開催することになったら誰も手伝ってくれなくて(笑)」
初めてのイベント開催。何をしたらいいかわからず、最初は手探りだったという。SNSでイベント開催の告知をしたものの、まだ開催場所すら決まっていない。そして当日までに何を準備したらいいかもわからず、グダグダのイベントだったそうだ。それでも参加者には楽しんでもらい、また集まろうと言ってくれた。そして参加者がおかにいさんをサポートしてくれるようになり、今では定期的にイベントを開催。参加するクルマも30台以上になった。
冒頭でも触れたが、特定車種のミーティングではないので参加車両が多岐にわたるのが面白い。ミリタリー仕様のジープや70年代のものをピカピカに仕上げているジープもいる。そして旧車ビギナーでも手を出しやすい95系トヨタ ランドクルーザープラドや三菱 デリカ スペースギアもいる。もちろん四駆イベントの定番であるスズキ ジムニーもさまざまな世代が遊びに来ていた。
参加するクルマもオーナーの世代もバラバラ。でもみんなクルマが好きで、オフロードを走るのが好きという理由で集まっている。
「スポーツカーやセダンだと車種縛りのものからさまざまな車種が集まるものまで、定期的に開催されているイベントが結構あります。でも古い四駆のミーティングは意外と少ないということを参加者の方から教えてもらいました。みんなが自由に楽しめる場所を作れたのは良かったと思っています」
四駆に乗っていても、林道などを走る機会はそうそうあるものではない。おかにいさんも「おじ四駆MTG」を開催するまで、ほぼオンロードしか走ったことがなかった。イベントを機にオフロードを走ってみたら、これまでテラノに抱いていたイメージとはまったく違う走りを味わえて、楽しくて仕方がないという。
テラノに乗り始めて8年。走行距離もかなり伸びたし、普通ならそろそろ次のクルマのことを考えたりする時期だ。でもおかにいさんはこれまで大切に乗ってきたテラノを降りる気はまだないそうだ。
「古いクルマって僕がオーナーになるまで、エコカー補助金などの誘惑があったのに今までのオーナーが大切に乗ってきたからこそ残っているわけじゃないですか。その人たちの思いを受け継いで大切にしないと申し訳ないですよ。だからこれまで可能な限りノーマルに近い状態で乗ってきました。でも8年経ったし、そろそろ手を加えてもバチは当たらないかな。まずはオートフリーホイールハブをマニュアルのハブに換えたいなと思っています」
歴代オーナーのことを考えながら、四駆の旧車があるライフスタイルを仲間と楽しむ。人とのつながりがオンラインからリアルに移ったことで関係は一層濃くなり、カーライフも豊かになっているのを感じた。
【X】
おかにいさん
取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/篠原晃一 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部
撮影協力/スタックランドファームオフロードコース
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