初代のフェアレディZを2台所有するオーナーがこだわりを詰め込んだサンマル
1969年にデビューを果たした日産・フェアレディZは、スポーツカーの定番となるロングノーズショートデッキスタイルを採用した美しいデザインでいまだに多くのクルマ好きを魅了し続けている、日本を代表する名車である。
長いボンネットフードの下には、当時の日産がデビューさせたばかりだった直列6気筒SOHCのL型エンジンを搭載。日本国内では5ナンバー枠に収まる2LのL20型が主流となるが、フェアレディZのメインマーケットとなる北米では2.4ℓのL24型が基本骨子となった。
日本国内でもL24を搭載する240Zや、フロントエンドをよりスラントさせたボディ形状にする“Gノーズ”やオーバーフェンダーが標準装備された240ZGが登場するが、当時は5ナンバーと3ナンバーの税額差が大きく、日本国内で販売された車両の多くはL20搭載のモデルであった。
そんなL20エンジンが搭載された1973年式フェアレディZ-L(S30)のオーナーさんに、この愛車を手に入れた経緯を伺ってみると「20年前に、このZを所有していた友人が体を悪くしてしまい手放すというので、自分が引き取ることになったんです」とのこと。
ちなみに、その当時には既にもう1台のZを所有していたそうで、現在も2台の初代Zを所有し続けているというZ大好きオーナーさんである。
ちなみに、元々お持ちだったZは型式で言うと、1973年に後期型へとマイナーチェンジを受けたS31型。そして友人から譲り受けたZもおなじ1973年式ではあったものの、こちらはマイナーチェンジ直前の車体だったためS30型となっている。
S30とS31の違いはというと、大きなところでは排気ガス規制の適合や、ラジエーターサポートの拡大、バックパネルやテールランプの変更、ダッシュボードのデザイン変更などがあるが、一目でS30かS31かを見分けられるのはマニアの領域であり、一般的にはS30もS31も区別なく『エスサンマル』と呼ばれていることが多い。
そんな2台の初代Zを長きにわたり所有し続けるオーナーにとって、その魅力はどんな所なのかも伺ってみた。
「シンプルなところですね。私がシンプルだと思う部分はエンジンルームなんです。余計なものが一切ついていないところが良いですね。なぜシンプルが良いかというと、自分で何でもできるから。同世代の他の日産車にも触れたことはありますが、初代Zは飛び抜けてシンプルだから、本当に手が入れやすいんですよ」
2台の愛車はどちらもご自身でメンテナンスはもちろん、チューニングまで行なっているというだけに、シンプルなエンジンルームはとても魅力的であったのであろう。
多くの人が魅力として上げるスタイリングの魅力についても伺ってみると「シンプルなエンジンルームは初代Zに乗り始めたキッカケであり、今でも大きな魅力ですが、乗っていくうちに、見た目も魅力的だと思うようになりました」と顔を綻ばせる。
ちなみに元々所有していたS31の方は、現在では富士スピードウェイのスポーツ走行を楽しむための専用車両となっているそうだ。
「エンジンは3.1ℓのいわゆるフルチューンで、300馬力以上出ているはずです。足まわりやブレーキなどもサーキット走行を楽しめるようにチューニングしています。富士スピードウェイでのラップタイムは2分9秒が自己ベストです」とのこと。半世紀以上も前の車両として考えると、かなりの性能を持ったマシンに仕上げられているといっても過言ではないだろう。
そんなS31に対して、今回取材させていただいたS30はというと『かなりオリジナルに近い状態の車両』だというが、その内容を拝見していくと……!?
まず外観の特徴としては、北米日産の社長で『Zの父』と言われていた片山 豊さんが乗ってらっしゃったZとおなじくワイヤースポークのホイールが際立っているが、それに影響を受けたのでは? と質問すると「それも少しありますが、昔からワイヤースポークを合わせてみたかったので、このS30に装着してみたんですよ」とのこと。確かにS30のスタイリングにとても良く似合っている。
続いてエンジンに話題を移すと「こちらはノーマルのままですよ。ひとつ部品を変えてしまうと、それを生かすために他もいじる必要が出てきてしまうので、ノーマルの良い状態を保つようにしています」ということだが、そんなS30のエンジンルームを拝見すると、キャブレターがウェーバーの高性能なものに変更されていた。
「吹け上がりの良さがいいですからねっ(笑)。ノーマルもSUのキャブレターですから、同じキャブっていうことで、自分の中ではウェーバーも許容範囲なんです(笑)」
L型エンジンに組み合わせられるキャブレターは、L型エンジンの三種の神器と言われる『ソレ・タコ・デュアル』の、“ソレ”に当たるソレックス製のキャブレターが有名だ。しかしサーキット走行などを楽しむようなマニアに言わせると話は違ってくるそうで、実際に、市販車でソレックスを採用している車両でもレース仕様はウェーバーを装着しているケースが多かったりするのである。
「やっぱりウェーバーが着いているとスポーツカーって感じがしますから」というオーナーさんの一言には、共に長い時間を過ごしてきた分だけの重みを感じさせられた。
そんなDIYでの初代Zいじりを、自身で立ち上げたホームページでも紹介しているというオーナーさん。
完全な趣味としてエンジンルーム関連以外にも様々なこだわりを持ったオリジナルパーツなどを製作してきたそうで、そういった部品を「欲しい」という人も出てきたという。
「もともとモノ作りは好きだし、自動車メーカーの生産技術という職に就いていたので、自動車の部品作り方に関するノウハウをさらに勉強したり、仕事から体得していたりもしていたんです。ですから、自分が作りたいものを作って、それを欲しいという人がいらっしゃればお分けしたいという気持ちも高まってきますよね。そうして今から10数年前に独立して、そういった事ができる仕事を始めたんです」
初代Z用だけでなく、日産旧車の駆動系部品はなかなか秀逸な部品のようで、その界隈では重宝されているのだとか。
現在ではそんな仕事を生業にしているというが、初代Zいじりはあくまでも趣味の要素が強く、それだけに他の人とはまったく違うこだわりパーツを作り出し、自身のS30に装着していた。それらは、よくあるアフターパーツのような派手な見た目ではなく、オリジナルのS30に溶け込みながらも質感や使い勝手を向上させているものばかり。
「例えばシートは、表皮をリプロ品に張り替えているだけではなくて、中のウレタンの硬さや形を変えて、乗り心地とホールド性を良くしているんです。東京にいる“シートの神様”のところに行って、いろいろ教えてもらってから手を入れていきました」
見た目は、完全にS30のオリジナルシートだが、座ると全く異なる高性能なシートになっているというわけだ。
「メーター照明などは、電球をLEDに替えるところまでは多くの方がやられているようですが、それだとあまり明るくならないんです。ですから、最も明るい拡散配光タイプのLEDを入れています。けれども、あまり明るすぎても目が疲れるので、照度調整機能を追加しているんですよ。ボタンを押すことで10段階に調整できるようにしているので、暗くもなく、眩しくもない明るさにセットできるようにしています」
この他にも、ボルトオンで着脱可能なステーを作ってカーナビを装着したり、スネークウッドという高級木材から削り出したというシフトノブに変更したりと、こだわりを盛り込みながらZいじりを楽しんでいるということが、あちこちから伝わってくる。
「オーディオはマッキントッシュ製で助手席下に設置した大きなアンプを介してボーズのスピーカーで音を出しています」
吸気音の大きなウェーバーのキャブレターを装着しているので、それに負けないオーディオサウンドをという話になるのかと思いきや「さすがに走っている時は、オーディオの音がエンジン音にかき消されちゃいますね。オーディオの良い音は、止まっている時に楽しむためのものです(笑)」
パッと見はノーマルを保っているが、その改良点や変更点をお聞きすると、特にインテリアは次から次へとオーナーのこだわりが登場する、こだわり満載の愛車。そんなS30とのカーライフは、これからも続いていくことであろう。
(⽂:坪内英樹 / 撮影:堤 晋一)
取材協力:ADVAN オールフェアレディZミーティング2024
[GAZOO編集部]
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