「昭和レトロ」の美学が息づく名車“縦グロ” 日産3代目グロリアの魅力
“縦グロ”の愛称で知られる3代目のグロリア。歴代グロリアの中でも、ヘッドライトが上下2分割で配置されるのはこのA30系だけの特徴だ。車検証上は『プリンス』だったが、正確には『ニッサン・グロリア』の名称になってからのモデルである。
そんな3代目モデルの登場から約20年後となる昭和の最後期。若者の間に“縦グロブーム”が訪れたことがあった。リーゼントに革ジャン、歩行者天国でツイストダンスを踊る…そんなワードがピッタリはまる、ロックンローラーの御用達車として人気を博したからだ。
また、縦グロのデザインは、皇室の御料車であった『プリンスロイヤル』に似ていることから“プリンスルック”とも表された。その雰囲気は日本車離れしており、直線的なサイドビューやロングノーズ、随所に散りばめられたメッキパーツとも相まって、60年代のアメ車を彷彿とさせる。現代のクルマには見られないシンプルな造型が美しい。
そんな“縦グロ”を愛し、もう20年来の付き合いだというオーナーが高橋良和さん。さすがに普段乗りのクルマは別に所有しているそうで、グロリアはイベント用の相棒。以前のマイカーも三菱・初代デボネアの4ドアだったそうだが、ぼちぼち飽きてきたこともあって「何かいいクルマはないかな?」と探していたところ“縦グロ”が目にとまったという。アメ車っぽくてイイ! と食指が動いたのだ。
同じ旧車でも、箱スカ等は異常に値上がりしているが、この型のグロリアはさほど高騰していなかったというのも選んだポイント。しかし、もっとも影響を及ぼしたのがお兄さんの存在で、なんと先に“縦グロ”を所有していたのだという。ちなみに「最近は兄がバイクのほうにご執心で、一緒にはイベントに行けてないのですが、以前は2台で出かけていましたよ」とのこと。ただ、今でもお兄さんは“縦グロ”を所有しているので何かと相談できるのが心強いという。
この相棒は、ネットオークションで一般オーナーが売りに出しているのを見かけて岡山県まで現車を見に行ってから購入したスーパーDX(PA30)で、1969年式というから車齢は50歳をゆうに超えている。
トランク下のガーニッシュが取り払われているなど、前オーナーによる変更ポイントもあったのだが、基本的にはノーマルの状態を保つのがテーマということで、ドアミラーに変更されていたサイドミラーをあえて当時の純正フェンダーミラーに戻すなど、オリジナルをリスペクトしながらカーライフを楽しんでいる。
サイズ的には5ナンバー枠だが、圧倒的に大きく見える“縦グロ”の迫力。いつまで経っても見飽きることのないデザインが最大のお気に入りポイントだ。当然ながら、よくアメ車とも間違われるらしく「このクルマ、古いアメ車ですよね。なんで右ハンドルなんですか?」と質問を受けることもしばしば。
確かにインテリアも、ベンチシートにコラムシフトの通称“ベンコラ”と呼ばれるレイアウトで、陽気なオールディーズのナンバーが流れていそうなアメリカンナイズドされた雰囲気は至宝の空間だ。「このシートに座って、コラムシフトを握るたびにワクワクするんです!」と高橋さんもお気に入りのポイントでもある。
ダッシュボード上のパイピングマットも、インテリアの雰囲気作りに一役買っている。オーディオ関係はドライブを楽しむためのCDプレーヤーとサブウーファーを追加しているが、インテリアは極力オリジナルにこだわっている。
ピッカピカに輝くボディは、三菱・コルトの純正レッドに全塗装してから約10年が経つそうだが、まだまだクリーンな状態。バンパーの金属部分も再メッキ処理で仕上げられているため、外装全体のコンディションはとても良く、秋晴れの空の下で絵になるシルエットを見せつけてくれた。しかしながら最近は「もういい歳なので、落ち着いた色にしようかな」ということで、元々のボディカラーであったブラックに戻すことも検討しているらしい。
そして長いボンネット内に収まる縦型の直列6気筒「G7エンジン」のシリンダーヘッドカバーは、高橋さん自らの手で磨かれ、今でも美しい輝きを放っている。
イベントへ参加すると、年配のクルマ好きが次々と寄ってきては声をかけてくるいっぽう「なぜか若い人は寄ってこないですけどね~」と、どこか嬉しそうに話す高橋さん。家族からの反応は、やはり古い車なのでガソリンの匂いがキツイらしく、必ず鼻をつまんで乗り込んでくるそうだ。
もちろん、旧車ならではの悩みも多いそうで「そもそもエアコンが付いてないので真夏なんて乗れたものではありませんね。また、サビやすいクルマなので、天気予報の降水確率が30%以上の日はなるべく乗らないようにしています。そして走り出す前には、10分程度しっかりと暖機運転してからのスタートを心がけています。さらに、いざ走り出しても老体を労わる“のろのろ安全運転”ですよ」などと、本来はネガティブ的な要素も“ポジティブシンキング”に聞こえてくるから不思議だ。
これまで大きな故障やトラブルはなかったそうだが、つい先日、燃料ホースの劣化でガソリン漏れのアクシデントに見舞われたそうだ。普段の整備は、車検をやってもらっている頼れるお店に任せているが、ちょっとした修理ならば自分で直すのも高橋さん流。
「今はもう処分してしまったのですが、部品取り車も持っていたんです。そこから程度の良いパーツや、もう手に入らない部品等を拝借できたので、重宝しています」
カーライフのこだわりは「ズバリ、昭和レトロです!」という高橋さん。取材の後日、ガレージの写真を送ってきてくれたのだが、まさにコンセプト通りの昭和感。懐かしい看板たちに囲まれ“縦グロ”にとっても居心地が良さそうな空間だ。
今後も、先輩オーナーであるお兄さんと二人三脚で、アイディアを出し合いながら完調をキープしていくことだろう。
取材協力:クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023
(文:TOKYO CIAO MEDIA / 撮影:岩島浩樹)
[GAZOO編集部]
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