スカイブルーのGR86ではじまる第二のスポーツカーライフ
納車1日目。というよりも、納車されたその足で取材会場に駆けつけてくれたのは、トヨタ・GR86 RC(ZN8)に乗る松本さん。これまでGAZOO愛車広場 出張取材会に参加していただいた中で、もっとも愛車歴が短いオーナーさんであろう。
しかも、来場された際に少し焦っている様子が伺えたのは、集合時間に間に合うようにと、バケットシートとテールランプを1時間で取り付けてきたからだという。
足早に来ていただいたことが伝わる松本さんに、さっそく86とのカーライフについて伺うと…
「あの…数時間前に納車されたばかりなんです…。だから、カーライフと言われると“まだない"としか答えられないんです…」と、申し訳なさそうに呟いた。そのくらい、松本さんと86は出会ったばかりだったのだ。しかし、その後の電話取材で改めて伺ってみると、1人と1台の距離は確実に縮まっていることが分かった。
GR86に乗りたいと思ったのは、このクルマの駆動がFRでスポーツカーだったからだという。では、なぜFRにこだわったのかというと、10年ぶりにドリフトをやってみたくなったからだそうだ。
「僕が若い頃はドリフト全盛期でね。それこそ、かの有名なドリキン土屋圭市さんがサーキットに走りに来ているのを、友達と見に行ったりしていました。ローレルやスカイラインなどが、煙を巻き上げながら横にスーッと滑っていくんですよ。その時に聞こえる、マフラーやキュルキュルというタイヤの音。ゴムの焼ける匂いに五感が刺激されて『カッコいい!!』と思ったんです」
そんなドリフトを『自分もやってみたい』と感じるようになったのは、友達の助手席に座ったことがキッカケだという。外から見るのとはまた違う楽しさがあり、なりよりシフトノブをガチャガチャしながらクルマを操作するのが面白そうに見えたのだとか。そんな松本さんは居ても立っても居られず、18歳の時に愛車だったシルビアでドリフトデビューしたのだという。
旧車ブームの昨今は、なかなかお財布に厳しい車両価格となってしまった個体だが、当時はお手頃価格だったため若者に人気があったそうだ。1つ難を挙げるとすれば、予算の関係上NAエンジンしか選べなかったことだという。加速がイマイチでじれったさを感じつつも、初めてのドリフトは今までにない感覚だったと話してくれた。
日常生活においてクルマはまっすぐ走らせるというのが基本になるわけだが、横というあり得ない方向に走っているということに“感動"したと、記憶が蘇ったのか残暑のせいなのか? 少し頬を火照らせながら目一杯の笑顔を見せてくれた。
「それまでは『いいなぁ〜、自分もやってみたいなぁ〜』と思って見ていたギャラリーのうちの1人だったわけですよ。それが、今度は自分がハンドルを握るようになったわけですから、そりゃあ嬉しいです。あっ、上手いか下手かは別にして、ですよ。そして、サーキットに行くよりも前に、ドリフトに興味を持ったのが『頭文字D』という漫画を読んだからなんですが、その作中で繰り広げられる“ギュィアア”といった独特な擬音語で表現される走りを自分がしていると思うと、ファンとしては“くる”ものがあったんですよね」
その後、より本格的な走りがしたいと180SXに乗り換え、このクルマから車高調を入れたりマフラー交換をしたりといったカスタムもやりはじめたのだそうだ。特に自動車に関わる勉強をするような学校に通っているわけでもないのに、友達といっしょに『多分こうだと思うけど…』という感じで試行錯誤しながらイジっていたと懐かしそうに目を細めた。
そして、結果がどうこうではなく、その時間が今でも人生の中で大きな財産になっていると照れくさそうに笑った。
昔も今もそうだと言うが、外観が派手な方が好みだという松本さん。張り出し系のエアロや、パッと目を引くボディカラー、太陽の光を浴びて輝くエアロが良いのだという。何台ものクルマが集まるサーキットは“目立ってナンボ”なのだそうだ。
「純正のままで乗らない、というポリシーがあるんです。だからGR86も納車前に地元のドリフトを得意とするリアルファーストというショップで車高調やマフラーを取り付けてもらい、自分でシートとテールランプを取り付けました。クルマ的には何とかなったのですが、誤算だったのは、出発前にその作業をして汗をかいてしまったから、自分の写真映りがどうかといったところですね(笑)」
心配そうな顔をしていたこの時の松本さんに、ブルーのボディが真っ青な空と相まって、とても爽やかに映ってましたよ!と、言ってあげたい。
そんな松本さんの愛車GR86のテールランプは、スモークっぽい黒色をしている。これにより、テールランプの主張が強くなりすぎず、全体がカッコよく引き締まって見えるところが気に入っているそうだ。さらに、レーシーに見えるバケットシート、走行性能は落とさずにスポーツサウンドを純正以上に楽しめるマフラーも装着したというわけだ。中でもお気に入りは、昔履いていたのとおなじワークエモーションの5本スポークホイールとのこと。
そして、大人しく乗ろうと目標は立てていたものの、どうしてもエアロが付けたくなり、我慢できず、取材後には張り出し系のエアロパーツも追加装着したということだ。
「当時履いていたホイールが目に入ったり、自分でイジったりしたのがまずかった…アレコレと、どんどんイジりたくなっちゃったんです」
インターネットでカスタムパーツを4日間吟味して、じぶんのイメージに合いそうなアイテムを選んだのだという。現物を見ていないので似合わなかったらどうしようということよりも、ノーマルの状態で乗りたくないということの方が大きかったそうだ。
しかし、その心配はどこ吹く風で、エアロパーツが装着された愛車を迎えに行ったらなんてカッコいいんだと心を射抜かれたという。アイラインによってヘッドライトの印象がキュッと上がった吊り目のヤンチャそうな顔に見えるのも良かったと話してくれた。
特に、愛車として迎え入れて良かったと感じたのは、ハンドルを握ってからだという。久しぶりのFRの走りは思った通り楽しく、懐かしかったということだ。
というのも、松本さんはお子様が産まれたことをキッカケに『後席の居住性が良くて荷物をある程度積めるクルマ』として、インプレッサを乗り継いできたのだという。決して不満があったわけじゃなく、むしろ楽しめたということだが、やはりスポーツカーからは逃れられないのだと気付かされたそうだ。
「インプにもエアロを付けて全部カスタムしていたんです。だから、これはこれで好きなクルマだなと思っていました。けど…このGR86のアクセルを踏んでみると、やっぱりそれ以上に好きなクルマだなと感じましたね」
取材会当日にはじめてクルマを走らせたその瞬間から、アクセルを踏んだ時の走り出しの良さと軽さに驚いたと興奮気味に説明してくれた。
また、コーナーリングも抜群でハンドルのレスポンスがよく、その感覚をキッカケに初めてドリフトをした時のことがふと脳裏に浮かんだという。また、久しぶりのシフトチェンジの嬉しい慌ただしさに、その日は酔いしれたということだった。
「この手のタイプのクルマって180SX以来で、久しぶりなんですよ。あの頃は右も左も分かっていないような若造だったから、ちょっとヤンチャして乗っていたけど、今は父親になり少しは落ち着いたんです。だから、大人らしく乗ろうと思っていたのですが、乗りたい、イジりたい、となってしまい、もうどうしようもないですよね(笑)」
大人らしくするのは無理だったと、スパッと諦めている清々しい顔をした。
仕事が落ち着いて『さぁ走りに行くぞ』と思った矢先に冬が降り始めて乗れなくなってしまったのは大誤算だったが、4月になって雪が溶け始めたら走りにいきたいとワクワクする気持ちを抑えきれない口調で話してくれた。しかも…
「現在、トラストのタービンキットを注文しようと計画中です。GR86にはターボのグレードは無かったのに、アフターパーツでターボ仕様にできちゃうとなったら、これはやるしかない、やれってことなのかなと」
“やれってこと"ではないと思うが、こういったカスタムを楽しむのが好きな松本さんを、もはや止めることはできないのだろう。
「クルマは僕の生き甲斐なんですよ。それだけです」
松本さんのカーライフは、電話取材を終えようとしているときに言った、この一言に尽きるのだろう。
人生のターニングポイントや、悲しい時、楽しいときも、ずっと側にいてくれたのがクルマなのだ。それはこれからも変わらず、免許返納までカーライフを楽しみ続けるのだろう。
取材協力:道の駅 あきた港 ポートタワーセリオン イベント広場(秋田県秋田市土崎港西1-9-1)
(⽂: 矢田部明子 撮影: 堤 晋一)
[GAZOO編集部]
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