初愛車は3SGEのカリーナED、そして時を経て再び同じ車を愛車にした理由

  • トヨタ カリーナEDの3代目(ST202)

はじめての愛車トヨタカリーナEDの思い出が忘れられず、20年以上も経ってまったくおなじ年式、ボディーカラー、グレードのカリーナEDを手に入れたというオーナー。若い頃には気付かなかった魅力なども堪能しながら、生涯ずっと乗り続けていくという。カリーナEDへの想いをお伝えする。

運転免許を取得し初めての愛車として手に入れたトヨタ・カリーナEDは、強烈な印象を与えて走り去っていった。違うクルマを知ったことでカリーナEDのよさに気付き、手放したのは自分のはずなのに『もっと乗っておけば良かった…』と後悔したものの、買ったばっかりの次の愛車に申し訳なく思えてきて、その気持ちを声には出さなかったという。
今回の主人公である高戸さんは、まるで初恋の思い出を振り返るように語ってくれた。

「若かったということもあって、とにかく速いクルマが欲しかったんですよ。僕のカリーナED はGTエキサイティングバージョンというグレードで、ターボが付いていなかったんです。そうすると、ターボ車には敵わないわけで…。そんな理由で当時はターボの付いているレガシィB4に乗り換えたんです」
レガシィB4の加速は申し分なく、アクセルを踏むと暴力的な加速が楽しくてたまらなかったという。ところが、峠道を走った時にカリーナEDのようにはいかなかったのだそうだ。

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免許を取得して初めて乗るクルマだったわけだから、その良さに気付けなかったというのは当然のことだろう。食べ物と一緒で、色々なものを口にして味を覚えていかないと、どれが美味しいかなんて分からないからだ。
そんな高戸さんが『いつかまたカリーナEDに乗りたい』と漠然と思い描いていたタイミングで、たまたまはじめての愛車とまったくおなじ年式、ボディーカラー、グレードに乗るオーナーさんの住んでいる千葉県に長期出張が決まったという。
そしてSNSを通じて連絡を取ったところ、直接会って見せてくれることになったのだそうだ。その個体を高戸さんが購入することになるわけだが、実物を見なかったら購入はしなかったかもしれないと話してくれた。

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「カリーナ を降りてから、レガシィ、コペン、ビート、ジムニー、ランクルプラド、デリカD:5など、車高が低いのから高いの、スポーツカーや家族で乗る用途で使われるクルマなど、ジャンルを問わずにいろいろなクルマに乗ってきました」
その結果、カリーナEDと出会ってから23年後に、ついに自分好みのクルマがカリーナEDだったことを高戸さんは確信したのだ。

「カリーナED は加速がすごくいいというわけではないんですけど、ステアリングを切ると想像以上にクイっと曲がっていくんです。アクセルの反応もよくてちょっと踏んだだけで回転数がポンっと上がる。それが面白くて、無駄にシフトを動かしながら走っちゃうくらいでした(笑)。そこから高回転まで回すと、パワー感を伴って回っていくからさらに楽しいんですよ」

ちなみに、シフト操作が好きな高戸さんいわく、カリーナEDの持ち手が少し大きくて重めの純正シフトノブは最高だという。握りやすくてシフトがスコスコ入っていく感覚に中毒性を感じてしまうらしいのだ。社外の丸いボール状のシフトノブに交換してみたこともあったそうだが、やっぱりダメだとすぐに元に戻してしまったという。

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ステアリングも同様で、純正の握り心地は何物にも変えられないと頷く。撮影時にナルディのステアリングだったのは純正を綺麗な状況で保ちたいからで、たまに戻して「あ〜これこれ〜」と楽しむくらいがベストなのだそうだ。

話が逸れてしまったが『オン・ザ・レール』という表現がしっくりくると絶賛していた走行性能は、今まで乗ったクルマの中で紛れもなく1番好みだったと頬が緩む。
そんな高戸さんを虜にしたST202型のカリーナEDは、1993年に発売がスタートした3代目モデル。エンジンはセリカと同じ2リッターのスポーツツインカム3S-GEを搭載し、足まわりにはトヨタがスポーティーモデルにむけて1990年代に開発した『スーパーストラットサスペンション』が採用されている。

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当時の高級車を中心に搭載していたダブルウィッシュボーン式サスペンションよりも低コストで操縦安定性やグリップの限界性能を大幅に高めるために開発されたこのサスペンション構造は、クルマ好きの間で『SSサス』の愛称で親しまれた。

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高戸さんはさらに車高調や軽量フライホイールなど手を加えていて「18才の頃に乗っていた仕様に近づけるようなカスタムをしています。マフラーは社外品が無かったので、当時付けていたタナベのマフラーに近い仕様のものを製作してもらいました。これで、グレード、年式、ボディーカラーはすべて同じ。走行性能もほぼ一緒といったところかな(笑)。なんだけど、運転した感覚はまったく違うものでした」とのこと。

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23年前の記憶よりも鋭いハンドリングと、こんなに速かったかというほどの加速を感じさせてくれたのだという。
当時はターボ車=速いという、ヒヨコの刷り込みのような固定概念に囚われすぎて、ターボ車ではないカリーナEDの実力を真正面から見ることができていなかったのかもしれない、とポツリと呟いていた。

「当時のイメージのまま乗ったものだから、窓を開けて海沿いをドライブすると、道の両わきの景色がどんどん過ぎ去ってゆくのにビックリしました。こんなに加速したんだっけなって。もしかしたら、年齢のせいもあるかもしれないですけどね」
グランツーリスモや頭文字Dの世界観に憧れ、ドライブやサーキット走行にガソリンと青春を費やした高戸青年のありあまるエネルギーは、カリーナEDの中には収まり切らなかったということなのだろう。速く速くと急ぐ気持ちは年齢と共に薄れて、じっくり走りを楽しみたいに変化していったのかもしれないと話してくれた。

とは言いつつも、高戸青年の面影がしっかりと残っているのが“らしい“ところである。リアドアの下に貼ってあるTRDステッカーは高校生の頃に夢中になったグランツーリスモに登場するチェイサーTRDスポーツを真似たものだし、エンケイRPF1ホイールは全日本ツーリングカー選手権(JTCC)に登場するツーリングカーっぽさを演出するために履かせているのだとか。
「若い頃もおなじようなカスタムをしていて、それがカッコいいと思っていたわけだから…成長したようでしていないのかもしれませんね(笑)。物事に対する感じ方に変化はあるかもしれないけど、好きなものはそう簡単に変わるものではなかったということでしょう」と、あっけらかんと笑った。確かに、その通りだ。

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「昔と変わらずデザインが本当に好きなんです。セダンなのに、平べったくてワイドでスポーティーに見えることころはカリーナED ならではだと思います。サイドステップの角度やドアの付け根辺りからボコッと張り出しているフロントフェンダーなど低くワイドに見せるデザインだなーと。それから、僕が昔から大好きなのは、リアのED エンブレムが緑に光るところかな」

内装も同様に、程よくスポーティーなところが気に入っているという。シートはレカロ製に交換しているものの、純正でも身体をガッチリホールドしてくれる形状のシートが装着されていたそうだ。エアコンパネルやナビは運転席側に傾いていてメカメカしい感じがするのも、座るたびにハッとさせられる素敵なところだと教えてくれた。

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高戸さんは『40才からずっと1台のクルマに乗り続ける』という夢を実現させるために、免許返納のその日まで、このクルマに乗り続けるという。
短いスパンでクルマを乗り換えてきた高戸さんは、なぜそう思ったのだろうか?
「これまでたくさん乗り換えてきたので、1台のクルマと長い時間を共に過ごす、ということをやってみたいんです。そして、最後のクルマはやっぱりED がいいな、と」

1年ちょっと前に高戸さんの元にやってきたカリーナEDは、これからもさまざまな体験や思い出を与えてくれるに違いない。
ちなみに今回の取材には中学校を卒業した息子さんと卒業旅行をかねてご参加いただいたのだが、泊まったホテルのベッドがまさかのダブルベッドで「狭い狭い」と言われながら一緒に寝るという、人生で1度きりの体験ができたのだそうだ。
「幸先のいいスタートですよ。あと何十年かはあるだろうから、次はどんなことが起こるのか楽しみです」
高戸さんとカリーナEDのカーライフは、まだまだ始まったばかりだ。

取材協力:萬翠荘(愛媛県松山市1番町3丁目3-7)

(⽂:矢田部明子 / 撮影:平野 陽 / 編集:GAZOO編集部)