新車購入して32年19万km、人生を共にしてきたサバンナRX-7(FC3S)にあと10年は乗る
『限定』や『特別』という言葉には、興味をかきたてられ、つい手を出してしまいたくなる魔力がある。
クルマの場合も、新型へのモデルチェンジが発表されると、現行モデルに魅力的な装備を満載したスペシャルグレードや限定車が発売され「新型モデルの購入を考えていたのに、どちらを買おうか悩む…」といった光景は珍しくない。
そんな限定車の魅力に抗えず、オーダーしていた新型のFD3Sをキャンセルしてまで1991年式マツダ・サバンナRX-7 ウィニングリミテッド(FC3S)を手に入れたというのがFCマインドさん。
1978年に誕生したサバンナRX-7(SA22C)の後を受け継ぎ、1985年10月に誕生したFC3S。ロータリーエンジンを搭載したスポーツモデルの2代目は、プラットフォームから足まわり、エンジンに至るまですべてが新設計となり、大幅なスペックパップが図られているのが特徴だ。
特にスタイリッシュなフォルムと、ターボを搭載する13Bロータリーエンジンのパワーは人気が高く、国内外には現在も多くのファンが存在している。カスタムの素材としてやドラッグレースやドリフトといった競技車両でも現役で活躍しており、世界で人気を集めている1990年代スポーツの一翼を担うモデルでもある。
そんなFC3Sの中でも、FD3Sへのモデルチェンジを控えた1991年上旬に発売されたのが『ウィニングリミテッド』だ。1991年のル・マンでマツダ787Bが総合優勝を飾ったことを記念して、GTRグレードをベースに専用のボディカラーを採用し1000台のみ販売された限定車である。
「本当はモデルチェンジが決定していたFD3Sを購入する予定だったんですよ。まだ20代後半だったので予算的には厳しいかなって思っていたんですが、やっぱりカッコいいって率直に思えたので専門店にオーダーまでしていたんです。でも、このウィニングリミテッドの広告を見たら、一気に気持ちが変わってしまいましたね。ところが広告を見かけたタイミングがちょっと遅くて、近所のディーラーでは販売が終了していたんです。それでも諦めきれなかったのでマツダのお客様相談室に連絡して、北海道から沖縄まで全国のディーラーの電話番号を教えてもらい在庫を探したんです。そして運良く秋田のディーラーに在庫車が見つかったので手に入れることができました」
現在ならWEBで調べるという手段が一般的だが、1990年代当時はまだ電話が通信手段の主流だった。一軒ずつ北海道から順に電話確認までする行動力は、どうしても手に入れたいという熱い思いの現れといえるだろう。
20代でスポーツカーを手に入れたとなると様々な欲求も湧いたはず。しかしFCマインドさんにとって、このFC3Sはデザインとパッケージングが琴線に触れたクルマだったことから、派手なカスタムやドレスアップなどは行わず、長く付き合える環境を整えていったそうだ。
塗装は補修を兼ねて1度オールペン済み。限定色のシャドーグリーンからFD3S純正色のモンディゴブルーマイカに変更することで、より深いツヤ感と光によって表情を変える色味にリフレッシュされているのだ。
新車から手に入れたワンオーナーであるため、ナンバーは2桁を維持しているのは、ファンにとっては羨ましいポイントと言えるだろう。
最初に心を揺さぶられたのはスタイリングだったそうだが、乗り続けることでロータリーエンジン特有のフィーリングは病みつきになっているという。またエンジンだけでなくウィニングリミテッドに装着された装備品の数々は、満足感を高めてくれるポイントであり、特に今でも大切に残されているのがエンジンルーム内のストラットバーだ。
「ウィニングリミテッドは純正でBBSホイールが装着されていたのですが、他にもMOMOステアリングや専用の赤いストラットバー、エアロパーツなどが特徴ですね。だから当初はカスタムやチューニングを考えなくても満足感が高かったんですよ。ただ30年以上も乗っているので、ビルシュタインのサスペンションやナカミチのオーディオなど、補修やアップデートついでに徐々に憧れのブランドを加えて仕様変更していっています。そういった意味ではウィニングリミテッドはFC3Sに出会うきかっけのひとつであって、今は限定車という希少性ではなく純粋に愛情を注いでいる感じですね」
エンジンに関しては32年、19万キロを超えた現在も不安感なく絶好調をキープしている。定期的な油脂類の交換はもちろん、耐久性を重視した扱い方などを心がけてきたことで、パワーはあるけど耐久性が低いと言われるロータリーエンジンの固定観念を覆しているのだ。
「新車購入して1万キロくらいの時に調子が悪くなったんですよ。その時は色々情報を集めてプラグが怪しいとなり、プラグ交換したところ問題が解決したんです。それからは油脂類とともにプラグも早いタイミングで交換しています。19万キロ走っていますが、この間のゴールデンウィークには岐阜まで往復して燃費も10km/Lくらいでしたから、かなり調子はいいんじゃないですかね(笑)」
ステアリングは純正装着されていたMOMO製から、現在はパーソナル製に変更されている。手軽に交換できるパーツを複数用意して、気分次第でコーディネートを楽しんでいるそうだ。
またメータークラスターにはHKS製のΦ46メーターが埋め込まれている。ブースト圧、油圧、水温などの情報を常時モニタリングすることで、エンジンのコンディションチェックを行うために追加しているのだ。
エンジンやミッションなどは現在も絶好調。購入から32年が経過した現在も乗り換えるという考えは一切浮かぶことなく、今後も長く乗り続けるために20万キロを目安にオーバーホールを検討しているのだとか。
また、定年を迎えた際に会社からもらったお小遣い5万円で購入したのが、運転席の後ろに搭載している消火器。経年によって車両火災なども考えられるだけに、急遽湧いて出たお金は万が一に備えた装備品に充てて、より安心してFC3Sを楽しもうと考えているのだという。
そして、今も大切に手元に残しているのが、ウィニングリミテッドを初めて見たときの広告。スタイリングはもちろんキャッチコピーに至るまで20代後半のFCマインドさんの心に刺さり、現在のカーライフへと繋がるきっかけを作った貴重なターニングポイントだ。
もちろん32年という所有期間には、結婚やお子さんの誕生など家族構成にも変化があったはず。そういった際にもこのFC3Sは手放すことなく乗り続けていたという。
「結婚する前からFC3Sを持っていたので、新婚旅行もこのFC3Sで行きましたよ。ルーフにMTBを2台積んで東京からフェリーで函館まで行って、釧路湿原を回ったりしましたね。そんな思い出もあるから、奥さんもこのFC3Sは家にあって当然のクルマだと思っています。もちろん他にファミリーカーとして家族での移動手段もキープしているので、あまり文句が出ないのかもしれませんけど」
ステアリングを握ってドライブするのはもちろん、洗車後にブリスターフェンダーのラインを眺めては、改めてFC3Sに惚れ直しているというFCマインドさん。セカンドカーとしてなら気になるクルマはあるけれど、自分にとってのファーストカーはこのFC3S以外には考えられなくなってしまっているのだとか。
しかし、この思いは双子の息子さんには理解できないようで、FC3Sには一向に興味を持たないのが不思議だという。
「息子が最近ジムニーシエラを購入したので、これをきっかけにクルマに興味を持ってくれたら、ゆくゆくはFC3Sを譲ってもいいかなって考えているんです。とはいっても、あと10年くらいは自分が乗り続けると思いますけどね」
愛するクルマだからこそ、いつか手放す時には顔がわかって大切にしてくれる相手に譲りたい。そのためにも息子さんがクルマに興味を深めて、FC3Sの価値を理解してくれることを願うばかりだ。
取材協力:大磯ロングビーチ(神奈川県中郡大磯町国府本郷546)
(⽂: 渡辺大輔 撮影: 中村レオ)
[GAZOO編集部]
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