乗り換える気なんて起こらない、30年乗った特別なカローラ「TRD2000」
クルマの乗り換えを考えるタイミングはどんな時だろう?
ライフスタイルの変化が訪れたとき、性能に物足りなさを感じたとき、飽きてしまったなど心情の変化で買い替えを決意するのも一般的かもしれない。また最新モデルの性能を求めて新車を乗り継いでいるという人もいるだろう。
逆を言えば、現在の愛車に満足していたなら当初の想定を大幅に上回るほど長く乗り続けてしまうなんてこともあり得る。
『まじこ』さんにとって1994年式トヨタ・TRD2000(AE101改)は、これまで不満を一切感じさせることなく30年近い年月を共にし、なお愛情を注ぎ続ける特別な魅力に溢れた1台だ。
トヨタ・TRD2000は1994年に発売されたTRD企画のスペシャルモデル。当時JTCCに実戦投入されたマシンと同様にエンジンは2リッターの3S-GEを搭載し、ベースとなるセダンGTよりパワーが20psも増強されているのが特徴だ。
エンジン換装に伴い陸運事務所への持ち込み登録が必要となった結果、販売は1都3県のみに限られ、実際に販売されたのはわずか10台という激レアモデルなのである。
そんな激レアモデルの発表を東京オートサロンで目にし、それまで乗っていたカローラ1600GT(AE101)から、さらにパワーアップした俊足マシンへの乗り換えを決意したというわけだ。
「当初は10年乗るということで奥さんに購入を許可してもらったんです。しかし、気がついたら30年近くが経過していたのは想定外ですね(笑)。買い替えの決め手はやはり3S-GEエンジンを搭載していること。それまで乗っていた4A-GEのカローラよりも、パワーもトルクも格段にアップしているって言われたら試してみたくなるじゃないですか。もともとカローラFX(AE82)でジムカーナをやっていたためFFが好みということもあったんですが、TRD2000は4ドア、ツインカム、MT、FFという自分にとって理想のパッケージだったんですよ」
若い頃にはマツダ・ファミリア(BD)やカローラFX(AE82)などで峠やジムカーナを楽しんでいたというまじこさん。そのため軽快な走りが楽しめるコンパクトなFF車は、クルマ選びの基本になっていったという。家族が増えたことをキッカケに4ドアセダンを選択した際もこの意識は強く残り、カローラの中でも走りの性能に優れた1600GTを選び、さらにパワーアップしたTRD2000にたどり着いたというわけだ。
エンジンは前述の通りセリカやMR2に搭載されていた3S-GE。4A-GEから載せ換えるにあたってエンジンマウントブラケットはJTCC車両を製作していた工場で作られているなど、まさにレーシングカー直系のDNAが組み込まれているのだ。
ちなみにこのエンジンマウントなどのスペシャルパーツはすでに絶版となっているものの、3S-GE自体は補修部品も豊富に揃っているため、エンジン本体に関しての不安は一切ないのだとか。
バルクヘッドにはTRD2000であることを証明するシリアルプレートがキラリと光る。このほか、タワーバーは3S-GEに合わせた形状の専用品が装着されるなど、細かいポイントでもTRDが本気で作ったクルマであることを証明しているのだ。
リヤトレイに搭載されるボックススピーカーも希少な純正オプション品で、TRD2000同様にまじこさんと共に歴史を刻んできた思い出の品でもある。時代に合わせてカーナビなどは刷新しているが、このスピーカーだけはあえて残しているという。
いっぽうで、激レア車ながら他のTRD2000とは差別化も図りたいと考え、ヘッドライトはAE100系カローラワゴンのマルチリフレクタータイプに変更。同様にフロントバンパーもカローラワゴン純正を利用し、さらにリップスポイラーはスパシオ純正を加工してセット。純正流用チューンによって独自のスタイリングを作り上げている。
また、当時からのワンオーナー車であることを主張する2桁ナンバーを維持していることも、TRD2000に乗り続けるモチベーションに繋がっているのだとか。
ホイールは社外品に交換してインチアップ。とは言っても純正っぽく見せるためにトヨタマークのセンターキャップを自作して装着。またブレーキはレビンのスーパーストラットから流用して大型化し、ホイールと合わせてブラック×レッドの配色で引き締めているのだ。
TRD2000を主張するボディサイドのデカールはあえて剥がし、リアガーニッシュの車名もラッピングで隠してしまっていることから、パッと見ではTRD2000であることがまったくわからない状態だが、この正体不明感も独自のカスタマイズを積み重ねてきた結果なだけに、トータルバランスの満足感も高まっているのだとか。
インテリアはTRD2000の持つスポーツ性を大切にして、ステアリングはナルディ、シートはレカロに変更しながら運転しやすいポジション作りを考えてコーディネート。シフトノブはハンズで購入したボールにネジを切って自作したアイテムだそうで、自分だけの1台を主張するアクセントとなっている。
「ラジコンに始まって小さい頃からクルマが大好きだったんですが、就職する時もトヨタディーラーのメカニックを選んだくらいなので、クルマが人生の一部といっても過言ではないでしょうね。仕事が変わってもクルマいじりは趣味で楽しんでいるので、車検はディーラーにお願いしていますが、メンテナンス一式は常に自分で行なっているんですよ。長く調子よく乗り続けられている理由のひとつには、常に自分でコンディションを把握しているからというのもあると思いますね」
パーツの装着や加工、そしてメンテナンスまで、自分で手を動かしながら理想の形を作り上げていくプロセスも楽しんでいるというわけだ。
今も手元に残してある当時のカタログには、エンジンをはじめとした専用パーツがズラリと記されている。当時の新車価格が172万円だったカローラGTに、改造費162万円がプラスされるTRD2000は驚異のプライスと話題になったが、その価格に見合った満足感を得られたことを考えれば、まじこさんの目に狂いはなかったと言えるだろう。むしろ、その後の充実したカーライフを振り返ればリーズナブルとすら考えられるのだ。
「子供が小さいころには、スタッドレスを履いてスノボに連れて行ったりもしていたんです。でもさすがに最近は家族で遠出する機会も減ってきたし、このクルマを酷使するのも気が引けているんですよね。そういった意味でも普段乗りのスズキ・アルトワークス(HA36S)を増車したんですが、やっぱりTRD2000に乗ると気持ち良さが別格ですね。今後は現状維持を心がけながら、長く付き合っていきたいと考えています」
現在の走行距離は11万1000キロを超えたところ。最近は乗り終わったらすぐに洗車して美しさを保つ作業が習慣になっているという。
10年のつもりがすでに30年も共に歩んできたTRD2000。これだけ長い間乗り続けていても飽きることなく、常に新鮮な感動を与えてくれるクルマに出会えたのは、とても幸運なことだ。
取材協力:大磯ロングビーチ(神奈川県中郡大磯町国府本郷546)
(⽂: 渡辺大輔 撮影: 中村レオ)
[GAZOO編集部]
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