1967年式の旧車初代カローラを美しく保って乗りこなす至極のカーライフ
自分の生まれ年より古いクルマを所有し、オリジナルの状態を保つ乗り方をしていく。
それは言葉で言うほど簡単ではなく、お金と時間と手間がかかる作業だ。だが、それが人生の貴重なお金と時間と手間を捧げるに値する行為だと信じる者には、これ以上ない喜びと満足感がもたらされる。
いわゆる団塊ジュニア世代にあたる日髙大輔さんの愛車は、1967年式の初代カローラ(KE10型)。日髙さんの年齢を考えると、おなじカローラでも例えば最後のFR車であるE70型とかなら妥当な選択と言えるだろう。だが日髙さんは、あえて自分が生まれる前の世代の初代カローラを選んだ。なぜそうしたのか、まずはそこから聞いてみた。
「あはは、まぁそう思いますよね。このカローラを買った時は25才でしたけど、その時点で既に30年落ちでしたし(笑)。でも実は僕も人生で最初に買ったクルマは、ご多分に漏れずAE86だったんですよ。それで箱根に走りに行ったりだとか、神奈川に生まれた同世代のクルマ好きと全然変わりませんでした。なんですけど、まだローンが残っていたのにそのAE86を事故で潰してしまったんですよね。それで先輩からKP61型のスターレットを当時3万円で譲ってもらって乗り換えることになったんです」
撮影場所が神奈川県の大磯ロングビーチであったことから、神奈川出身の参加者も多かった今回の出張取材会。『最初に買ったクルマで箱根に行って事故った』というエピソードは、もはや同世代のテンプレなのかと思うほど、日髙さん以外にも様々なオーナーさんから耳にする結果となった。
「友達はみんなハチロクを卒業してシルビアとかにステップアップしていったんですけど、僕はそれからKP61を2台乗り継ぎました。4K型のエンジンを自分でイジっては走りに行ったり。ただ、社会人になってからは、さすがにロールバーを組んだシャコタンのKPに乗るのがしんどくなってきて。それでC33型のローレルに乗り換えてドリフトも軽く楽しんだりしていました。でも、それだと快適過ぎるし目立たない(笑)。やっぱり古いクルマに乗りたいなと、あらためて思うようになったんですよね」
カラッとした笑顔で昔のクルマについて楽しそうに話し、改造したりドリフトしたりすることが、ご飯を食べることと同じくらい自然な営みだったことを行間に匂わせる日髙さん。あらためて古いクルマに興味が湧く中、初代カローラにハートを射抜かれたキッカケも時代性を感じさせる話だった。
「ある時、雑誌のオートワークス(現G-ワークス)を読んでいたら、1993年の富士ジャンボリーを走っているKE10のレーシングカーの写真が載っていたんですよ。小さな写真だったんですけど、見た瞬間にコレだ!って思って(笑)。KE10はエンジンが3K型や4K型のルーツであるK型で基本構造は同じですから、KP61で培った知識もそのまま使えるなと思いました。それで探し始めたら、近場の相模原で程度のいいクルマをたまたま見つけることができたんです」
小さな車体で富士のコーナーを攻めるKE10の姿にビビビと来た日髙さん。これまで乗ってきたAE86やKP61よりも、さらに小さくて古いクルマを買うことに躊躇はなかったという。
「買った当初は初代カローラについて深く勉強していたわけではなかったので、まずは情報収集から始めました。クルマは既に一度オールペンしてあって、内装も張り替えてあったんで、まあまあきれいだったんです。でも、調べていくとフロントグリルがオリジナルと違っていたり、シートにヘッドレストが付いていたりしました」
それまでの日髙さんのキャリアを考えると、そんなシートや内装なんぞはさっさと引っぺがして、車高を下げてホイールを変えて…となっていってもおかしくなさそうなものだが、状態のいいKE10をベースとして手に入れたことで考え方に変化が生まれたそうだ。
「このままキレイな状態で乗ってても、それはそれでかっこいいんじゃないかと思うようになっていったんですよね。当時から友達の旧車乗りも、わりとオリジナル重視派が多かったので、その影響を受けたのも大きいんですけど」
ということで、純正、ノーマルを是とするクルマ作りに大きく舵を切った日髙さん。当時はまだインターネットもそこまで盛んではなかったため、友人関係の口コミに頼って部品を集めていった。ある時、廃車にされたAT車を発見し、部品取りとして購入。そこから内装やオリジナルのシートを移植した。
そして外装は10年前に一度本格的にやり直そうと決心し、横浜市にある鈑金塗装専門のお店に依頼。約2年間にわたってのフルレストアが施された。そしてその間を利用して、降ろしたエンジンは自宅の駐車場で日髙さんが自らオーバーホール。シリンダーブロックは内燃機関の加工屋さんにお願いしてホーニングを実施し、0.75mmオーバーサイズピストンを組んだ。また、シリンダーヘッドの段付き修正や各部のバランス取りなども自分の手で行なっている。
ディストリビューターも一見ノーマルに見えるが、フルトラ化されているためアイドリングの安定性も抜群である。
「このカローラはデラックスっていうグレードなんですけど、同じKE10にSLっていうグレードがあったんですね。それにはツインキャブのK-B型っていう少し高出力なエンジンが搭載されていたんです。そのK-B型からカムシャフトとバルブスプリングを流用して、ハイカム化しました。あと、フライホイールも4K型用の軽量クロモリフライホイールに変えて、レスポンスを高めています」
さすがは昔取った杵柄。KP61時代にエンジンを自分でいじり倒した経験が生き、オーバーホールと同時にK型エンジンの高出力化とハイレスポンス化も実現させたというわけだ。
「部品探しはもっと苦労するかなと思っていたんですが、エンジンルームのグロメットとかは意外にもまだ純正が取れたりするんですよ。あと、初代カローラはパブリカとの互換性もあって、関連した車種が海外でもたくさん売られていたからか、ebayなどでも山ほど部品が売ってるんですよね。ちなみに今つけているシフトノブはキルギス共和国から取り寄せました(笑)」
フロントグリルやバンパー、12インチホイールのキャップなど、外装のメッキパーツは元あった物を手直ししたわけでもなければ、リプロ商品を買ってきたわけでもなく、すべて当時ものの純正部品を使用。本格的なフルレストアが施されているとはいえ、ちょっとビビってしまうレベルの美しさだ。ちなみにブレーキはSLグレードに採用されていたフロントディスクをボルトオンで装着しているという。
ここまできれいだと、あまり乗り回したくなくなるのではと思うのだが、日髙さんは普段から買い物も旅行もこれ一台でこなしているとのこと。年間の走行距離は7000〜8000kmになるというから驚きである。
「今14才の娘が産まれる前から乗っているんですけど、家族であちこち一緒に出かけたこともいい思い出ですね。娘にとっては物心ついた時から家のクルマがずっとこれなので、特に不思議にも思ってないみたいです。むしろちょっと友達に自慢しているみたいですよ(笑)。あ、思い出した、自慢といえば元BiSHのセントチヒロ・チッチ(※ソロ活動名義はCENT)さんの『すてきな予感』っていう曲のミュージックビデオ撮影にも使われたんですよ。YouTubeでも観られるみたいなんで、ぜひ観てください(笑)」
そう言われたので、さっそく検索してみたところ、確かに日髙さんのカローラがMVの全編を通して登場! 曲のかわいらしい世界観を表現する上で、重要な小道具として大貢献している。
「買ってからもう26年になりますけど、大きなトラブルとか苦労ってほとんどないですね。新東名だと120km/h巡航も余裕で、しっかり走りますし。できるだけオリジナルを保ったまま、現代の交通事情に合わせてアップデートしていくことがコンセプトでもあり、楽しみでもあります。フロントサスペンションとか、まだやり残したこともありますけど、だいたい完成形に近いかなと思うので、できるだけ今の状態をキープしながら、これからも大切に乗っていきたいですね」
日髙さんは常に「なんてことないですよ」という調子でニコニコ話してくれるのだが、メッキや塗装は放っておいても経年変化で色が痩せたり、水垢でくすんだりするもの。乗って帰ったあとは、日々入念なメンテナンスを欠かさないに違いない。そうした陰の努力を感じさせない日髙さんと同じように「なんてことないですよ」という表情でちょこりんと佇むカローラ。久々にすごいもの見ちゃったなと、ちょっと心が震えてしまった。
取材協力:大磯ロングビーチ(神奈川県中郡大磯町国府本郷546)
(⽂:小林秀雄 / 撮影:平野 陽)
[GAZOO編集部]
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