幼少期の刷り込みから「クルマと言えばクラウン」に。気が付けばクラウン マニアの領域に達していた
幼少期に“ウチのクルマ”として3代目クラウンに慣れ親しんだことから、免許を取ってからもクラウンを手に入れて乗り続けてきたというオーナーさん。11台ものクラウンを同時所有していた時期もあるというマニアックなカーライフを語っていただいた。
幼い頃の楽しかった記憶は、成長しても心に残り続けているもの。特にクルマ好きの中には子供の頃に親が乗っていたクルマを鮮明に覚えていて、大人になって同型車を手に入れるといったストーリーも耳にする。
1970年式トヨペット・クラウン(MS50)オーナーの『クラウン馬鹿』さんも、幼少期からトヨペット・クラウンに接し、オールドクラウンマニアとしてクラウン漬けのカーライフを送っているひとりだ。
クラウンといえば古くからトヨタの上級セダンとして知られる代表的モデル。7代目の120系で生まれた「いつかはクラウン」の名キャッチフレーズが示したように、広く日本人の憧れの存在として知られている。
クラウン馬鹿さんの乗るMS50型はこのキャッチフレーズが生まれるはるか前の3代目モデル。当時は公用車や社用車としての需要がメインだったクラウンが、自家用としての普及を目指したターニングポイントとも言えるモデルで、2ドアハードトップの追加など個人向けのグレード体系へと再編がおこなわれたのも特徴だ。
「子供の頃から家にMS50クラウンがあって、その印象は今も昨日のように覚えています。だからクルマ=クラウンと刷り込まれ、その頃から免許を取ったら絶対にクラウンに乗ると決めていました。当然ですが免許を取ってすぐに買ったのはクラウンです。とはいってもMS50ではなく5代目のMS105だったんですが、このクラウンで運転を練習して、昭和63年に晴れてこのMS50後期のスーパーデラックスを購入しました。オーナー歴としてはかれこれ35年乗り続けていますが、幼少の頃からクラウンに触れていたので半世紀以上はクラウンと付き合っていることになるんですかね(笑)」
自らクラウン馬鹿と名乗っているだけに、クラウンと共に歩んだ歴史は我々の予想をはるかに超えている。中でも愛車のMS50後期スーパーデラックスは子供の頃に家にあったクルマと同じモデルで、出会って即決購入したという思い入れの深い1台だ。
搭載されるエンジンはトヨタの高級車に定番として搭載されていた直6 2000ccのM型。実用エンジンとしての性格も強いため、しっかりとメンテナンスされていれば大きなトラブルに見舞われないという。実際に現在の走行距離は28万7000キロを示しており、その中の16万キロほどはクラウン馬鹿さんが35年かけて刻んできたそうだ。
とはいっても、安心して任せられる主治医はしっかりと確保し、ちょっとしたトラブルの前兆を感じたら相談するようにしているのは旧車を維持するための基本ともいえるだろう。
「このMS50を見つけた当時は、GS130のワゴンを新車で購入しようと頭金を貯めていた最中だったんですよ。でもそんな時に偶然、グレードや装備など探し求めていたクルマそのものが出てきちゃったから大変。この機会を逃したら2度と出会えないと思い、GS130を断念して購入したんです」
ちなみにクラウン馬鹿さんのMS50は、オプション設定されていたセパレートシートのATミッション、さらにパワステとエアコンを装備している、当時としてはフル装備の希少車。このパッケージを選択している車両に限定して探していたというだけに、この時の奇跡的な出会いは見逃せなかったというわけだ。
当時のクラウンではベンチシート&コラムシフトの組み合わせが定番だが、前述の通りこのMS50はセパレートシートにフロアATの組み合わせ。
ちなみに搭載されるATは「トヨグライド」と呼ばれる3速セミオートマチックミッションだが、クラウン馬鹿さんは過去に2回ほどオーバーホールを行なっったものの、3回目のオーバーホールのタイミングで部品が出なくなってしまったという。
一般的に修理部品が出なくなってしまったら、どんなに愛着があっても乗り換えのタイミングと考えるのが普通だろう。しかしクラウン馬鹿さんは、それでもブレずに乗り続けるための施策を考えた結果、ミッションをMS105系の4ATに積み替えて、近代的かつ快適な走りを手に入れたのだ。
「実は購入して2年くらい経った時に、出会い頭の事故でクラッシュしたことがあったんです。その時に必要な外装パーツを全て揃えて修復してもらったんですが、このトラブルによって乗り続ける覚悟が決まったんですよ。部品取り車もできるだけ集めるように意識しはじめたのもその頃からですね」
もちろん長く旧車を維持するためには部品取り車の存在も重要である。特にオリジナルにこだわって乗り続けるのであれば、製廃になりやすいモールやレンズ類など細かいパーツはいくつ持っていても邪魔にならない。また、もしものためにボディパーツや内装パーツなど、ひと通り揃えておけば安心できるというわけ。そのため一時期は部品取り車としてMS50を8台も所有していたというから、その徹底ぶりには驚きだ。
「知り合いに声をかけておいたら部品取り車がどんどん集まってきちゃって。中にはコンディションの良い車体もあったので、修復して復活させた車両もありますよ。そのため最高時は前期が2台、後期を1台、さらに部品取り8台で通算11台のMS50を持っていたことになります」
現在はメイン車となる後期スーパーデラックスのほか、知人から7年ほど前に託された前期スーパーデラックスの2台を動態保存。さらに部品取り車は大半を処分し1台を残すのみとなり、最盛期と比べると落ち着いた環境となっているのだとか。
ちなみに同じMS50の型式ながらも前期と後期ではデザインは大きく異なる。この違いはフロントマスクだけでなく、三角窓の有無やオーナメントなど細かい部分まで変更されているのが特徴だ。
また、前述の2ドアクーペもヘッドライト形状が異なるなど、一見すると同じクルマには見えないのはオールドクラウンファンの所有欲を刺激するポイントかもしれない。
そして当然ながら、部品や車体だけではなく、修理に必要な修理書や、貴重な当時モノのカタログなども合わせて収集してきたという。
そんな愛車の外装はこだわりのフルノーマルをキープ。もちろん足元のワンポイントでもあるホワイトリボンタイヤにもこだわり、ジャストサイズであるファイアストンFR380を海外から個人輸入。これに合わせてホイールはMS120純正のスチールホイールに変更し、5.0Jから5.5Jに幅を広げるという細かなアレンジも行っている。
インテリアに関してはシートやドア内張など、経年で劣化が進んでしまうことも多い。もちろん部品取り車も同様のコンディションになっているため、純正にこだわったリフレッシュが難しい部分でもある。そのためオリジナル位置で縫製をおこなってもらい、シート張り替えなどを行なっているのはマニアならではのこだわり部分だ。
「長年乗っている後期スーパーデラックスは、もう手放すことはないと思います。その間にMS130やGS151セダンなども乗りましたが、やっぱり自分にとってのクラウンはMS50ですね。前期モデルもワンオーナーのシングルナンバーで、何よりも知人から受け継いだこともあって手放せないかな」
本当に欲しいクルマを手に入れてしまっただけに、もはやその他のクルマに目移りすることはないと断言するクラウン馬鹿さん。今後の目標はこの2台にすべてを注いで維持し続けることだと、力強く語ってくれた。
- 取材協力:
- カンセキスタジアムとちぎ 栃木県宇都宮市西川田二丁目1-1
栃木県フィルムコミッション
(⽂: 渡辺大輔 撮影: 中村レオ 編集:GAZOO編集部)
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