AE86と過ごした若い頃を思い出し、オヤジになって手に入れた86と歩む第二の青春時代
雑誌を見て一目惚れしたというトヨタ・86(ZN6)で、年に数回のサーキット走行や娘さんと一緒に出かけるイベントなど第2の青春時代を満喫中。そんな楽しいカーライフを愛車のこだわりとともに伺った。
「それまではね、S110シルビアとかハコスカとかに乗っていたんですよ。そして、そういうジャンルのクルマが大好きだったわけ。ところがある時、同級生のクルマの助手席に乗ってサーキットを走ったら、目の前でAE86が全部のコーナーをドリフトしながら抜かして行ったんです。コーナーで車体を横に滑らせて煙を巻き上げながら走っていく姿に、ものすごく衝撃を受けてね〜。それで気付けば トレノ に乗っていました」
思い出を振り返りながら話してくれたのは、五邉 崇さん。にこやかな表情から察するに、今、キラキラした思い出が五邉さんの心をゆっくりと横切っていったに違いない。
その時に目に焼き付いたAE86が脳裏から離れず『自分もあんな風に走ってみたい』とスプリンタートレノ(AE86)を迎え入れ、鉄が磁石に引っ張られるように愛機の運転席とハンドルに吸い寄せられるようにサーキットへ走りに行っていたそうだ。
「みーんなそうでしょうけど、若い頃は不思議とエネルギーが有り余っているもんなんですよ(笑)。今みたいにドリフトが競技として認められていたわけじゃなかったから、なかなか表立って『ドリフトをしてます!』なんて言いにくかったけど、仲間内で楽しんでいましたよ。速く走るというのもあったけど、観覧しているギャラリーに向けてパフォーマンスするのが楽しいというのもありましたね。若かったんだねぇ〜」
なぜ、あのコーナーを速く曲がれなかったのか? 自分の思い描くラインで走れないのか? あの鉄の塊を自分のテクニックを駆使して思いのままに操りたい! と考えると、ワクワクして落ち着いてはいられなかったのだという。そして、その底抜けの探究心は、五邉さんのハンドル捌きに磨きをかけてくれたと話したていた。
当時乗っていたのはスプリンタートレノ(AE86) のGTアペックス。「スペックなんかはどうでも良くて、重要なのは『このクルマが自分にドリフトの楽しさを教えてくれた』ということなんです」と、感無量な面持ちをした。
あえて“スペックなんかは"という言い方をしたのにはワケがあって『AE86は非力なところが魅力でもあるが』と前置きした上で、ターボ車のライバルと競った時にスペックからくる理由で負けてしまうことが多かったからだと教えてくれた。
「ここが良い所なんですけどね! 車重も軽いし、レッドゾーンまでキッチリ回せるし!」
ただ、同じことを感じているオーナーも少なくなかったのか、時代の流れと共にサーキットに集まる面々も徐々にRX-7などのターボ車が多く見られるようになっていたそうだ。
そして五邉さんも、NAのトレノからターボ車の日産・180SXへと乗り換えたのだという。
ちなみに、180SXへの乗り換えを決めた理由のひとつが、日光サーキットで見たプロドライバー織戸学選手のドリフト走行。コーナーに入っていく速度や角度、綺麗に丁寧にクルマを振り回す技術に見惚れてしまい、改めて180SXの良さを感じることができたのだという。
「例えば、AE86ってNAエンジンだから、エンジンの回転数を下げてしまうと、また元の回転数にスムーズに戻していくのにテクニックがいるんですよ。ところが、180SXはターボ車だから、回転数が落ちてもアクセルを踏めばすぐに戻ってくれて、扱いやすいし楽なんです。ほかには、横に向けたときにスピンしにくかったりとかね。単純な話なんだけど、180SXのほうが速く走れるし、運転もしやすかったし、買って大正解だったよ」
五邉さんいわく、基本的な操作ができていないと速く走らせることができないAE86は“ドライバーを育ててくれるクルマ"なのだとか。このクルマで培った技術があったからこそ、180SXを扱うことができたということだ。
そして、ここまで熱く語って頂いたわけだが、その180SXを最後に五邉さんはドリフトを卒業する道を選んだという。家族ができるなどして、取り巻く環境が大きく変わってしまったため「もう戻ってくることは無い」と27才の時に潔く身を引いたそうだ。
それから時が経ち53才になった今、五邉さんはトヨタ・86(ZN6)に乗っている。
「妻に『娘が大学に入って1番学費がかかる時なのに!?』ってさんざん言われましたけど、皿洗いとゴミ出しを頑張った甲斐もあって(!?)今ではカーポートの下に陣取っています(笑)」
そう話す五邉さんが再び86に乗ることになったキッカケは『ハイパーレブ』という1冊の雑誌だったという。何気なくパラパラとページをめくっていくと、エアロパーツやコンプリートカーを手掛ける『クールレーシング』がカスタマイズした86に目が止まったのだそうだ。
「そのページを見た時に『なんだこれ!?』ってひと目惚れしちゃったんですよ。エアロパーツでも色々なタイプがあるんですけど、クールレーシングは“大人のオシャレ"って感じでセンスが良いなと思ったんです。自分の86もクールレーシングの02R-SSというモデルのフルエアロやスラッシュ4テールマフラーを組んでいますが、いまだにまったく飽きないんです。それくらい惹き込まれる造形なのかなと思っています」
合法の範囲内で下げた車高をそれ以上に低く見せてくれたり、実際の車格よりもさらに大きく見せてくれたりと、目の錯覚をフルに利用したデザインのカスタムパーツがお気に入りポイントなのだという。
そんな五邉さんのカスタムテーマは、快適ツーリング&ドリフト走行の融合だそうで、足まわりのアライメント調整には特にこだわり、合法の範囲内でフェンダーとホイールがツライチになるように、ミリ単位でセットしたそうだ。
「アルミホイールというのは、その人のクルマのセンスが出ると思ってるんだけどね。この人はファッション系なんだなとか、ラグジュアリーとかそっちの方向で攻めたいんだなとかさ。どっちが良い悪いじゃなくて、そういうのが垣間見えるのも面白いと俺は思うね!」
「変なこだわりなんだけど、こういうのは一発で決めたいんですよ。ピタッとつけて、ピタっと決める! ドリフトは卒業と思っていたんだけど、年に何回かサーキットを走るようになっちゃったから、車両に負担をかけすぎるようなカスタムはあまりできないしね」
そう、五邉さんはこの86を手に入れてから、またドリフトを始めたのだ。
「年に数回だよ?」と、バツが悪そうな表情でつぶやく様子が微笑ましくて、ついマスクの下の口元が緩んでしまった。
「久しぶりに日光サーキットを走ったんだけどね、スピンしまくりだったんですよ(笑)。やっぱり腕が鈍っているのかな〜なんて諦めかけていたら、同乗してくれた友人がアドバイスをくれたんです。実際にやってみると、最後の方は感覚を掴んできて上手く走れるようになってきました」
とても満足そうに話す姿を見ると、再び86というクルマに乗ることが、五邉さんにとって大きな意味を成していることがわかる。これからはちょっとのドリフトと、お嬢様とイベントに行くことが楽しみなのだと、笑顔で語ってくれた。
- 取材協力:
- カンセキスタジアムとちぎ 栃木県宇都宮市西川田二丁目1-1
栃木県フィルムコミッション
(⽂:矢田部明子 / 撮影:土屋勇人 / 編集:GAZOO編集部)
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