「クルマのエキスパートになってガレージ経営をする!」Z31と共に歩む19才の夢
リトラクタブルライト、直列6気筒のドッカンターボエンジン、2ドアでマニュアルのFRスポーツカー。そんな懐かしいワードに魅せられた19才は、自らの技術を磨いてクルマ屋さんを開くため整備士の卵として勉強中。その愛車は日産・フェアレディZ (PZ31)だ。
1980〜1990年代に一世風靡した国産スポーツカーたちの中高車価格高騰は、クルマ好きの間で深刻な問題となっている。『いつかは欲しいけれど…』と我慢しているうちに、気付けば手が出ない価格まで値上がりしていて諦めた、なんていう話しもよく耳にする。
トヨタ自動車大学校の2年生としてクルマについて学ぶ19才の村野さんも、免許を取得できるようになった頃には昔から乗りたかったR34スカイラインGT-Rが手の届かない存在となってしまい、泣く泣く購入を諦めたというクルマ好きのひとりだ。
「漫画の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を読んでいたらF40が出てきてカッコいいなって思ったんですが、価格を調べてみたら2億円とかで『あーこれは買えねぇな』と現実を知りましたね(笑)。それが小学校の頃で、それから興味のあるクルマはだんだん国産車にシフトしていきました」
そう楽しそうに話し始めた村野さんは、中学校の頃に自分にあてて書いた手紙で、将来乗りたいクルマの条件として『おっさんのマニュアルFRのターボの2ドアクーペ』と書いていたそう。
「あの頃はGT-Rの事をイメージして 『直6のツードアターボマニュアル』に乗りたいなんて言っていたんですよね。中学の頃はギリギリ狙えたんですよ、値段的にも。でもそれから3年経った頃には一気に値段が上がってしまって…」
そんな村野さんが免許を取得して愛車を手に入れようとしたとき、選ぶ上で絶対に外せなかった条件は “日産車"だったのだという。
取材に同行していたお父さんに伺うと「僕が乗ってきたのは家族向けのアコードワゴンやレガシィなどオートマ車ばかりでしたけど、本当はスカイラインジャパンが欲しくて。僕は当時の日産のクルマが1番好きで、それをしょっちゅう口に出していました」と、どうやらその影響力が強かった様子。
「俺はやっぱりR34型の GT-Rが欲しかったけど、その頃には価格が高騰して数千万円とかになっていて…。いろんなクルマを検討した結果、最終的にZ31とZ32を候補にしたんですよ。好みの日産車で自分が手に入れられるような価格帯のクルマってもう他に無くて。180SXもちょっといいなと思ったんですけど、高いんですよね」
「Z32は日産車で280馬力。あれでオートマだったら僕も乗れるし最強だなって」というのがお父さんの意見。
いっぽうZ31推しの村野さんは「シャッとしたハッチバックのシルエットが好きなんですよ。多少角張っていて、憧れのリトラクタブルっていうちょっとF40に似た要素もあって。それにV型じゃなくて直6エンジンが選べるっていうのがやっぱり良かった。音が好きなんですよね」
Z31はV型エンジンのVG30ETとVG20ET(後期型ではVG30DEも)に加え、直列6気筒のRB20DETが選択できるのが魅力のひとつであり、もともと直6ターボエンジンにこだわっていた村野さんにとっては最重要とも言えるポイントだった。
最終的には村野さんの強い希望が通ってZ31を買うことに決め、手に入れたのが後期型となる1987年式の日産・フェアレディZ 200ZR-Ⅱ(PZ31)の5MT。
「前期型のテールランプの形が好きだったんですが、前期の直6は約1年しか販売されていなかったので『多分一生出てこない』って言われて諦めていたところに、こいつがスッとでてきて、半年くらいかけて修理してもらって納車されたのは昨年の11月くらいです。オークションで落札してもらった段階では150万円くらいの予定だったんですが、安心して乗れる状態までいろいろ整備してもらううちに約2倍の価格になってしまいました(笑)」
エンジン内部のピストンがダメになっていたためオーバーホールしてもらったうえ、足まわりやブレーキ関連はすべて初心者マークでも安心して乗れる仕様にしてもらったと村野さん。
「それに、Z31も『中学校の頃に書いていた条件にこいつもピッタリ当てはまるじゃん』って気付きました」
そんな息子さんに対してお父さんは「若い子って乗りたいクルマに乗りたいじゃないですか。一生の思い出になるし、もう自分で選んだらいいよと思っていましたから」と全面的にサポート姿勢。ちなみに村野さんの母親もジャンルこそ違うもののクルマが好きで「いいじゃない」と購入を後押ししてくれたのだという。
ところで、整備士の卵でクルマ屋さんでもアルバイトをしているならば、当然Z31もご自身でメンテナンスをしているかと思ったが…「怖くて何もしていないです。何かあったらもう部品が出ないので、しっかりプロに任せようと思って」という答えが返ってきた。
これは村野さんがZ31の価値と、それに対するご自身の現在の整備能力を冷静に把握している上での判断であり、それだけ愛車を大事にしていることの裏返しとも言えるだろう。
そんな村野さんに、半年ほどこのZ31に乗ってみて、好きなところや嫌いなところ、愛着が湧いたところなどを伺ってみた。
「乗り味はすげぇドッカンターボなんで、ブーストがかかった時がもうたまんないっスね。見た目は正直リアの1本テールはいまだに愛着が湧かないですが、リトラのフロントフェイスは自慢のポイントです。そうそう、愛着が湧いているのはインパネ周りで、夜になるとオレンジ色になんかボヤーって光るところが1番気に入っています」
「Tバールーフはいざ買ってみたら楽しいですけど、それ以上に雨漏りだとか歪みだとか色々心配はあります。あとはヘッドライトがもうヨーロッパの夜の街並みくらいのオレンジで、フォグランプも暗すぎてまったく使わないですね。だからバルブ類も変えようと思ったけど、配線をちぎってしまったらどうしようかと思ってまだ手をつけられていないです」
そう率直に楽しそうに話す村野さん。そんな彼には大きな夢がある。それはクルマのことならなんでもできる一流の整備士になり、自分のお店を持つことだ。
そのキッカケとなったのがディスカバリーチャンネルで放送されていた『ファスト&ラウド』という自動車番組だという。番組内ではガス・モンキーガレージという自動車販売会社が、全米のレアな旧車を蘇らせて販売をしている。
「息子はその番組をずーっと見ています。いつか自分の店を持って好きなようにレストアして…大人の僕から見てもやってみたいなって思いますよね」とお父さん。
「このZ31も、将来的にはエンジンをRB26DETに積み換えてみたいと思っています」今は忙しくて乗ることができなくても、1級整備士の資格を取って実力をつけ、自分の手でZ31をカスタムしていきたい、そんな強い意志を村野さんから感じた。
ちなみに、このZ31の整備をしてくれたクルマ屋さんの社長はお父さんの知人でもあり、お父さんが息子さんの話をすると「ぜひ若い子に乗ってほしい」と全面協力してくれたそうだ。さらに、そのお店のつながりでなんと納車前に旧車雑誌『ハチマルヒーロー』の雑誌の撮影を受け、表紙になるというレアな体験もしたそうだ。
「クルマは表紙で本人は中面でバッチリ撮られていますよ(笑)」とお父さんは嬉しそうに話してくれた。
こうしてクルマ好きな若手代表(?)として、ご家族やショップさんに支えられながら初めての愛車ライフをスタートさせた村野さんだが、現在は整備士の勉強をする傍らそのクルマ屋さんやお寿司屋さんでアルバイトをこなし、とても忙しい日々を過ごしているという。「学校がなんせ忙しくて、愛車はほぼ駐車場に放置です(苦笑)」と愛車に乗る機会はなかなか作れないのだとか。それに対してお父さんは「まあ学校とバイトで将来これに乗るために頑張っていると思えばね」と優しい目で見守っている。
「クルマのことを知り尽くして、運転や整備はもちろん最終的にはなんでもできるクルマのエキスパートになって、自分の店を持って好きなクルマを売ってみたいです」
クルマについて学び、その知識を活かしてZ31のメンテナンスやカスタムを自分でおこなえるようになり、最終的には「クルマのことならなんでもこい!」と頼り甲斐のあるエキスパートとしてショップ経営をしていく…そんな夢に向かって歩む彼にとって、愛車となったZ31は相棒としてピッタリの存在と言えるだろう。彼らのこれからが楽しみでならない。
取材協力:トヨタ東京自動車大学校(東京都八王子市館町2193)
(⽂: 西本尚恵 撮影: 中村レオ)
[GAZOO編集部]
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