家族で乗り継いで20年以上のトヨタ セラ 子供達が乗っていた愛車を引き継ぐ父親の想いとは
1990年に発売された、ガラス製の巨大なキャノピーと迫力のバタフライドア(当時のカタログにはガルウィングと記載されていた)が特徴の3ドアクーペ、トヨタ・セラ。4代目スターレットをベースに1.5Lのエンジンを搭載し『全天候型オープン』というキャッチフレーズの通りガラスを多用した開放的なデザインが特徴的な当時のトヨタの意欲作だ。
しかし発売された期間は6年間のみで生産台数も少なく、現在は街中で出会うことはほぼ皆無に等しい。
そんな貴重なトヨタ・セラを大切に所有し続けているのが山形県在住のアイズガレージさん。実は20数年前にこのクルマを買ったのは息子さんだったという。父親が乗っていた愛車を子供が引き継ぐという話はよく聞くが、逆に息子のクルマを親が乗り継ぐというのはなかなか珍しい例ではないだろうか。
「このセラは、息子が大学2年生の時に免許を取って最初の愛車に選んだクルマなんです。息子は小学生のころからうちの親父が愛読していた『月刊自家用車』をずっと読んでいたので、クルマ好きになったのは必然だったと思います。きっとせっかく乗るなら珍しいクルマに乗りたいと、そんな感覚で選んだのかもしれません。ただ、20年前でも既に数が少なく、紙媒体の情報をもとに仙台まで探しに行くなど苦労して購入ました」
本当はマニュアル車が欲しかったものの玉数が圧倒的に少なかったため、息子さんが購入したのは1990年式のオートマ車だったという。
はじめての愛車と共に順風満帆な愛車ライフをスタートさせた息子さんだったが…「乗り始めて1年を過ぎたころに廃車級の事故で壊れてしまったんです。直すかどうかかなり悩みましたが、これから先こういうドアの開き方をするクルマは発売されそうにないし、もったいないということで直すことにしました。ただ、買った時より3~4倍くらいの修理代がかかりましたね(苦笑)」
しかし、せっかく復活を遂げたセラだったが、修理が完了してから半年くらいで息子さんは別のクルマに乗り換えることになり、その後に妹さんが初愛車として2年ほど乗ったものの、仕事柄荷物を積むのが難しいということで乗り換えることになったという。
「どうしようか迷いましたが、下取りに出したところでなんともならないし、車検が付いている間は…と思いながらしばらくは乗り続けていたんですよ。ただ、そのうち車検代や税金を払うのが厳しくなってきたので、車庫にしまって一時抹消していました」
乗り手がいなくなった時点で手放すという選択肢もあったはずだが、それから10年の間にネットオークションや中古パーツショップなどでセラ関連の予備パーツをライフワークのように検索し、着々と集めていたというから、きっとお金をかけて修理した時点で大事に乗り続ける覚悟を決めていたのだろう。
そして5年ほど前に、ついに再び車検を取って復活させたというわけだ。
「実は6~7年前にホンダ・ビートを譲ってもらい、そっちを頑張って直して車検を取って乗っていたこともあって、セラにまで手が回らなかったんです。ただ、定年になって少し時間もとれるようになったので、改めてセラを公道復帰させようと思ったんです。セラを復活させてからは、ビートとセラを車検の2年ごとに入れ替えて乗るようにしています」
ちなみにビートは前オーナーが「クルマ好きな方に譲りたい」とのことでアイズガレージさんが名乗り出たそうで、最初はフロアに穴が開き幌もボロボロだったりと、こちらも直すのにはなかなか苦労したのだとか。
そんなアイズガレージさんはもともと機械いじりが大好きで、16才の頃からバイクに乗り、愛車の修理やメンテナンスなどもできるところは自らのガレージで作業しているという。
「これまで普段乗りはTA17型カリーナ2台にTA49V型カリーナバン、その後は丸目のTA45型カリーナにシャレード・デ・トマソ、GX61型チェイサーに2気筒レックス。子供が生まれてからはハイラックスやクラウンやカルディナバン、ポルテやアイシス、歴代のプリウスなど、大体2年に1台くらいの頻度でいろんなクルマに乗ってきましたね」と、これまで所有してきたクルマも多岐に渡る。
それでもセラだけは手放さなかったのは「これまでいろんなクルマに乗ってきた中では、セラが1番おもしろいんですよ。全面ガラスで見晴らしがいいところも気に入っていますし、ドアを両側全部開けて後ろから見た姿と真正面から見た姿も好きです」と、ベタ惚れなのが伝わってくる。
「外装面ではヘッドライトをHIDに交換していても暗かったので、オプションのフォグランプを追加で取り付けて、レンズは内側がくすんでしまったので磨いてコーティングされている純正品に交換しました。マフラーや足まわりも純正がダメになってしまったので社外品に交換しています。それとエンジンルームとトランクにスターレット用のタワーバーを追加しました。特に後ろはガラスなので、乗っていて軋むのがわかるくらい車体が捩れるんですよ…(苦笑)」
「純正スピーカーも経年劣化で壊れていたので最近交換しました。右側のリアシートもスポンジ自体が役割を果たさなくなってしまったので、自分で入れ替えています。ちょっと形がおかしくなっちゃいましたけど(笑)」
「リアハッチのダンパーがヘタってきたので、挟んで止めるタイプのダンパーストッパーに助けられています。あとは、車内のコンソール周りが暗いのでサンバイザーに挟んで使えるスポットライトで照らしたり、夜ドアを開けた時に後ろからぶつけられないように黄色の蛍光の反射シールを貼ったりもしていますね」と、純正状態を維持する上で必要な補修はもちろん、実用性を重視した独自のプチカスタムもいたるところに施されていた。
また、10年かけてコツコツ集めてきたという予備パーツのストックも圧巻。
「ガラス込みの左右ドアパーツを予備で確保しています。ただリアガラスは後期型はたまに出るんですけど、僕の乗っている前期型ってなかなか部品が出てこないんですよね。前期と後期で色もスポイラーも違うので…」と、まるでもう1台、セラを組み上げることができるのではないか?というほどの内容から、このセラを大切に維持し続けたいという情熱が感じられる。
さらに長距離移動する際は何が起こっても対処できるように、工具のほかにコイルやイグナイターなど壊れそうな部品も常備しているというから体制は万全だ。
ちなみに、休みの日のラリー観戦やクラシックカーイベントへの参加なども、このセラの出番。今回は純正に近い姿で撮影させていただいたが、普段は17インチの社外ホイールにレカロシート、さらに社外ステアリングなどを装着したスポーティーなスタイリングでドライブを楽しんでいるという。
息子さん、娘さん、そして最後にお父様のアイズガレージさんが大事に乗り継いできたセラは、親子の絆の証ともいえる。と同時に、この独特な魅力を持つ貴重なクルマを世の中に残していきたいという強い思いが、このセラを走らせ続けているのだ。
取材協力:やまぎん県民ホール(山形県山形市双葉町1丁目2-38)
(⽂: 西本尚恵 撮影: 堤 晋一)
[GAZOO編集部]
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