R32のスカイライン オーテックバージョンを2台乗り継いだ!? マニアックなカーライフ
日産車の『オーテックバージョン』と聞けば、思わず食指がピクリと反応してしまうクルマ好きも少なくないのではないだろうか。
歴代スカイライン開発の陣頭指揮を執った“ミスタースカイライン”こと桜井眞一郎氏が率いた『オーテックジャパン』は、標準車とは違う魅力を持つ特別なクルマたちを数多く生み出してきた。手がけてきた車種はルークスなどの軽自動車からノートやマーチなどのコンパクトカー、セレナ、エルグランド、エクストレイルまで幅広いが、やはりスポーツカー、特に代表的な存在といえばスカイラインだろう。
そんなスカイラインのオーテックバージョンに乗っているのが、山形県在住のいとしんさん(55才)。なんとこれまでにR32型スカイラインのオーテックバージョンを2台も乗り継いできたという。しかも、現在所有する2台目はオーテックバージョンのなかでもさらに珍しい1台なのだとか。
「通常みんながイメージするオーテックバージョンは4ドアボディにGT-Rのエンジンをして搭載した『4ドアのGT-R』と呼ばれるクルマだと思うんですが、私のは2Lターボエンジンが搭載されたモデルなんです。よくニセモノだと疑われたりするのですが、ディーラーなどで調べてもらうと、ちゃんと作られていたという事実があるようです。なんでも、10台くらいしか生産されなかったとか…」
R32型のオーテックバージョンといえば、カタログのフレーズを借りると「スポーツカーを卒業した大人のために」作られたクルマで、GT-Rに搭載されていた専用エンジンRB26DETTをあえて自然吸気化して4ドアのボディに搭載し、ATミッションを組み合わせている。シートもGT-Rのホールド性が高いものではなくあえて標準車の形状をベースにスエード生地仕様にするなど、余裕ある排気量と4ドア車の安定感で快適にロングドライブできるクルマに仕上げられているというわけだ。
付け加えるなら、ボディもGT-Rのワイドボディ仕様ではないので3ナンバーではなく5ナンバーサイズであることもポイントのひとつだろう。
そんなR32型のオーテックバージョンに2リッターモデルが存在していたということ自体あまり知られていないが、そもそもオーナーであるいとしんさんはどういった経緯でこの“珍しいクルマ”を手に入れることになったのだろうか?
「そもそもクルマ好きになったキッカケがスカイラインでした。中1の時のときにいとこが日産プリンスで営業マンをしていて、お弁当を忘れたからってことでお店に届けにいったんですね。そのとき、たまたまR30型スカイラインの発表会をやっていて『いいな、すごいな』と。そのいとこがジャパン(C210型5代目スカイライン)に乗っていて、時々スキーに連れていってもらったりしていたこともあり、スカイラインが憧れの存在になりました。でも、いざ就職したら初任給があまりに安くて手が出ませんでしたね」
そんないとしんさんに転機が訪れたのは32才のとき。
「その頃は設計事務所に勤めていたんですが、1級建築士の資格を取得して建築屋さんに転職したタイミングで、たまたま中古雑誌に載っていたRB26エンジン搭載のオーテックバージョンを見つけたんです。資格に合格した自分へのご褒美という意味も込めて、憧れのクルマを買うことを決めました」
20年越しの夢を叶えてスカイラインオーナーとなり、自慢のスカイラインオーテックバージョンで通勤していたり現場に行ったりと充実した日々を過ごしていたという。ところが…
「2009年の冬でした。スタッドレスタイヤに履きかえようとジャッキアップしたら、なんとジャッキアップポイントが錆びていてフロアに穴が開いてしまったんです。車検の年だったこともあり、乗り続けるのは無理だと判断しました。そんなときに中古車雑誌を見ていたら、似たような中古車が仙台にあるのを見つけたんです。でも、写真だとなんだかエンジンが違うように見えて、知り合いのディーラーマンと一緒に仙台の中古車屋さんまでに品定めに行くことにしました」
そこで出会ったのが、現在の愛車であるRB20DETエンジンを搭載した1993年式の『スカイライン オーテックバージョン』だった。
ボンネットを開けた状態で並べて見比べたりした結果、車両の程度が良かったことなどもあり「2Lターボでもいいか」と購入を決めたのだという。
「買った後も『ニセモノだ』とか『胡散臭い』と言われるので、車体番号をディーラーで問い合わせたり、イベントで出会った日産の方にお話を聞いたりと、本物だっていう確証をいろいろ積み重ねてきました。しまいにはどうして2Lターボモデルがラインアップされたのかも調べたりもしたんですが『2.6Lの税金を払うのが嫌な人のため』とか『RB26エンジンの生産枠が足りなくて2Lモデルも作った』とか諸説あるみたいで…」
希少なクルマなだけに、深く調べることで自分の愛車への理解を深めていったいとしんさん。おそらく、知識が増えるたびにその愛情も増していったに違いない。これはある意味『希少車オーナーの特権』と言えるだろう。
そんな愛車を見せていただくと、基本的には純正の状態を保ちつつ、ところどころにオリジナリティも感じられる。
「ホイールは1台目のときから履かせていたBNR32純正オプションです。やっぱりお気に入りはオーテックバージョン専用ボディカラーの『イエロイッシュグリーンメタリック』ですね。オーテックバージョンであることを示すフロントバンパーのロゴもしっかり入っています」
日光を浴びて輝くボディは、クルマ好きであれば「オーテックバージョンだ!」と思わず目を奪われるし、エンジンルームを見て「あれ!?」っという反応をするところまでセットで容易に想像することができる。
取材のあいだにも通り掛かりに声をかけてくれたり、写真を撮ったりする方がいたのも納得のグッドコンディションだ。
普段は車庫の一番奥に保管しているということで、ダッシュボードやシートなどインテリアも美しい状態が保たれている。
もともとは通勤にも使っていたというだけに走行距離は25万kmを超えているが、1台目から使える部品を移植したりストックしたりして好調を保ち「たまに壊れることに快感を覚えるようになりました(笑)」というくらい、トラブルも含めてカーライフを楽しんでいるそうだ。
「運命的でおもしろいなって思うんです。そもそも1台目のオーテックバージョンは子供が生まれたくらいのタイミングだったので『家族で乗るなら2ドアより4ドアのほうがいいな』と思って探していたときに見つけて購入を決めたんです。まぁ家族には乗り心地が悪いと不況でしたが(笑)。そして、この珍しい2台目を見つけたのも本当に偶然でした。1台目の部品がそのまま使えるようにまたオーテックバージョンがいいなと思っていたときに出会ったんです」
おそらく1台目のオーテックバージョンがなければ2台目に出会うことはなかっただろうし、子供が生まれていなければ違う車種を選択していたかもしれない。そう考えると、愛車との出会いはまさに一期一会だ。
また、この日いっしょに取材会に参加していただいた赤色のスカイラインGTS-t タイプM(HCR32)に乗る鈴木さんは『山をひとつ超えたところに住んでいるご近所さん』だそうで、イベントなどの時には“赤いきつねと緑のたぬき”として2台で楽しんでいるのだとか。
こういった愛車が運んでくれる出会いもまた、カーライフを楽しむうえでの醍醐味といえるだろう。
「最近は普段乗りは別のクルマで、このオーテックバージョンはイベント参加などがメインですけど、晴れた日の週末には20〜30kmくらい乗るようにしてます。冬もたまに乗りますよ。このまま動態保存で維持していきたいし、部品があるうちは乗っていたいなとは思うけど、10年か20年先の免許返納のときはどうしようかな?と考えていますね。置いておくばっかりでもなー、って」
このままいとしんさが乗り続けていくのか、はたまた次のオーナーと出会う日がやってくるのか? その運命は神のみぞ知る。
取材協力:やまぎん県民ホール(山形県山形市双葉町1丁目2-38)
(⽂: 西本尚恵 撮影: 堤 晋一)
[GAZOO編集部]
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