気持ちは今でも昭和61年のまま。“昭和99年”の今、見事に咲き誇るクレスタと何を想う
今回の取材対象者であるtaropapaさんは、高校2年生の時から1984年に登場した2代目クレスタに惚れ込んでいるという。『クレスタの新しい挑発が始まる』というキャッチコピーに「自分はまんまと挑発されたうちのひとりだ」と、何故か嬉しそうに教えてくれた。
「テレビを見ていると、クレスタのCMが流れてきたんです。そのCMがすごくカッコよくて、なんならクレスタだけではなく、そのCMに起用されていた俳優の山﨑 努さんのファンにもなっちゃいました(笑)。当時まだまだ子供だった僕は、こういう渋いクルマを乗りこなせる男になりたいな〜と憧れたんです」
霧のかかった森の中でクレスタの前に佇む山﨑 努さんと、バックに流れるジョージ・ウィンストンのLonging/Loveが“大人の余裕”というやつを感じさせたのだと、自分もちょっと渋い顔をしてみせた。ちなみに、taropapaさんの乗るクレスタは前期のトップグレードとなる『スーパールーセントツインカム24』で、CMに起用されていた個体とお揃いだ。
車速感応型2モードパワーステアリングや、クラウン以上の豪華さとも言えるボタン引きのルーズクッションシートも装備され、そのあまりにも豪華で快適な車内を『キャバレー内装』と呼ぶ人もいたほど。そして、前期初期のみにラインナップされたボディカラー“パールシルエットトーニング(2VO)”で表現されたエレガントさなど、贅を尽くした仕立てが施されていた。
「CMを見た当時、僕は近所のトヨタ ビスタ店に駆け込みました。何故なら、高校を卒業して就職したら、すぐに乗ろうと思ったからです。当時は、ディーラーに行くと販売店ごとにビデオデッキやレーザーディスクが置いてあって、最新情報を映像で見ることができたんですよ。そのクレスタの映像をスタッフさんに見せてもらったり、クレスタが書かれた年賀状を頂いたり、見積もりを作って下さったこともありました」
1年後に購入予定だったため、もちろん、現車確認もさせてもらったとのこと。グッときたのはロングノーズが目立つ真横から見たボディラインで、この部分が一番クレスタらしく感じるとtaropapaさんは言う。お父様の乗っていたマークIIよりもノーズが5cm長いだけなのに、体感的にはもっと長く、その出で立ちが優雅に見えるのだそうだ。
他にも、角目4灯のヘッドランプや、横長で左右が独立したリヤコンビランプなど、いたずらに奇をてらわない、品位のあるスタイリングにも心を打たれたと目尻を下げた。
そして、もっと心揺さぶられたのは内装だという。テレビドラマで社長が座っていそうなフカフカのシートは、ハイソカーブーム真っ只中に登場したトヨタの最高級パーソナルセダンに相応しかった。とくに、上級グレードのツインカム24には、やりすぎなくらい豪華な『スーパーラグジュアリーシート』が搭載されており、これに座ると、ため息が溢れてしまうほど贅沢な気持ちになれたのだとか。
ところが、そんなクレスタを手に入れたのはその当時ではなく「僕のクレスタが納車されたのは、10年前の2014年3月のことでした。中古車雑誌やクルマ友達のネットワークなどを使って探すこと3年、ネットオークションで出品されていたのを見つけて購入したんです」
昭和61年の高校卒業時に購入しなかったのは、大学に進学することを決めたからだ。バイト代だけでは返済の目処が立たないからと、泣く泣く愛車にすることを諦めたのだとか。
そんなtaropapaさんが再びクレスタに乗りたいと思ったのは、子育てが落ち着き、少しずつ自分の時間が増えていったからだという。子供達が高校生になった頃、自分はこれくらいの時に何をしていただろう? と記憶を辿ると、クレスタに乗るぞ言っていたことを思い出したのだ。
そこからは、まるで宝の地図を見つけたかのように、毎日がワクワクしたと満面の笑みを見せた。自分が乗りたかったCMのクレスタはなかなか見つからなかったが、ヤフオクと睨めっこしながら『今日こそは!』と、気合を入れてマウスをクリックするのが、とても楽しかったのだそうだ。なぜなら、クレスタに関することをしているときは、高校2年生の自分に戻れたような気がしたからだ。そして、クレスタへの思いとともに、友達のこと、家族のこと、ハマっていた遊びや好きだったクルマなど、キラキラした想い出がどんどん湧き出してきたのだと、その表情からは青春時代の眩しさのようなものを感じられた。
「落札した時は、ついにこの時が来たか! と思いました。けど、納車されたクレスタを見てみると、少し…いや、かなりガッカリしましたね」
写真では程度良く見えたのに、塗装はカサカサの錆アリ。外にずっと放置していたのか、シートは日焼けがひどく、白っぽくなっていたそうだ。加えてダッシュボードはパキパキに割れていて高級感とは程遠く、哀愁さえ感じる部品取り車のようなクレスタだったと眉間に皺を寄せた。期待に胸を膨らませていた分ショックは大きく、途方に暮れたという。
「ラグジュアリーなところに憧れたのに、それがまったく感じられなくて心が折れちゃいました(笑)。それでも諦めなかったのは、クレスタが僕にとって青春のクルマだったからです。愛車として迎え入れたいと言う気持ちは勿論あったけど、青春をもう一度取り戻したいという気持ちも半分あったんですよ」
そう思ったtaropapaさんは、おおよそ2年間かけて部品を集めていった。納車したらやっと卒業できるとホッとしていたネットオークションのチェックは、むしろ細かく確認する事項が増え、逆に大変になったと嬉々とした顔をしている。
絶対に妥協したくなかったのは内装だったので、高級感とはかけ離れたシートやダッシュボード、壊れている箇所を容赦なく替えていき、結局7割くらいを入れ替えしたそうだ。出回っている部品も少なく骨は折れたが、その分、完成した時は感動と愛着がぶわっと湧き上がってきたと前のめりに説明してくれる。
そうして完成したクレスタの運転席に座ると、アダルトな落ち着き感、当時の先進性が融合したインストルメントパネル、ファブリック張りのコンソールボックスなど、懐かしさと恋しさと待たせたなという気持ちとが入り混じり、思わず目頭が熱くなったのだとか。
ずいぶん遠回りしてしまったと車内で英気を養っていると、今度は高校2年生の時に憧れたエクシード仕様にしてみようと思いついたとのこと。
クレスタには、エクシードという限定車が1年毎に出ていたそうだ。Taropapaさんのクレスタは、60年4月に登場したモデルを模していて、ツートンのボディカラー、モールやフロントスポイラー、ゴールドのアルミホイルとサイドミラーといった専用外装にしている。
「やっと、僕が一目惚れしたクレスタに出会えた気がしました。ひと目で6気筒車と分かるロングノーズ、ガラス面がボディやドアサッシと面一で滑らかなシルエット、当時高級車の常識でもあったスーパールーセント系に標準装着となっていたカラードウレタンバンパーなど、遂に僕の愛車になってくれたんだなと改めて感じました」
ここまでくると、残すは満足に走れる状態に戻すことである。ブレーキのオーバーホールやラジエーターの交換、タイミングベルトなどもすべて交換し、修復作業は比較的トントン拍子で進んでいったそうだ。
そして、6気筒エンジンを搭載しているというのは高級車の証でもあるからして、その修理が終わって初めて公道に復帰をする際は、果たしてその『高級感』をシッカリ体感できるのか? と、今までにないくらい緊張したと話してくれた。
「想像以上の楽しさと、自分にピッタリの運動性能に驚きました。気持ち良くエンジンが吹け上がって、発進の時は車体が沈み込んでいくように走り出すといった、まるで生きているかのような挙動をするんです。エンジンは高回転までスムーズに回って、オートマチックミッションでもまあまあ引っ張れるし、低くて控えめながらも体の芯に響くマフラー音もクレスタらしいなぁ! と。飛ばすクルマではないんだけど、ハイソカーらしいジェントルな走りをしてくれるんです」
taropapaさんにとって、クレスタは生き甲斐なのだという。週末に乗ると思うと頑張れるし、ドライブをすると嫌なことを忘れて癒されるのだそうだ。ファンクラブに入っていた中森明菜ちゃんのカセットテープをかけ、暫し高校2年生の頃にタイムスリップするのは自分にとって、とても大事な時間なのだとか。
「相変わらず、僕は高校2年生の時からクルマのことしか考えていないんです。そしてこれからも、クレスタが大好きなクルマであることに変わりないんです」
自分がクルマに乗らなくなるまで、クレスタと一生添い遂げていくというtaropapaさん。いつの間にか歳を重ね、CMに出演していた山﨑 努さんと同じくらいの歳になったという。
果たして、自分はそんな渋い大人になれただろうか? と呟きながら、オーナーと愛車の2ショットを撮るためにクレスタの傍らまで歩いていった。
隣に立つ姿がサマになっているところを見ると、答えはイエスだ。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所: 四季の里(福島県福島市荒井字上鷺西1-1)
[GAZOO編集部]
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