子育ての次は愛車育成。 仕上げていく作業も楽しいアウディ・TT との日々

  • GAZOO愛車取材会の会場である群馬県 つつじが岡公園で取材した初代アウディ・TT

    初代アウディ・TT



時代とともに変化し続けているカーデザインには、メーカーを問わず年代によるトレンドが反映されていることが多い。例えば2000年前後は、曲線をうまく取り入れたフォルムのスポーツクーペが増えはじめるころ。

中でも1998年にデビューしたアウディ・TT(8N)は、これまでの発想とは全く違った流麗なフォルムをまとい、その後世界のカーデザインにも大きな影響を与えたモデル。クルマ好きの多くが憧れる存在として時代に名を残した名車である。そんなアウディ・TTに憧れながらも当時は手にすることができず、20年以上が経過した2023年末に念願叶ってTTオーナーとなったのが『X21』さんだ。

アウディ・TTの初代となる8N型は、スタディモデルとして1995年に発表されたTTデザインをそのまま市販化した意欲作。まだ直線基調が主流だった各社のスポーツクーペに対して、曲線を取り入れた愛らしいデザインは新たなトレンドを作り上げた立役者とも評されている。
もちろん注目を集めたのは斬新なデザイン性だけでなく、アウディらしく上質な素材を使ったプレミアム感あふれるインテリアなども同様で、それまで比較的高かった顧客の年齢層を一気に下げることにも貢献したという、アウディの歴史的転換点とも言えるモデルだ。

X21さんが所有するのは、そんな初代TTの中でも後期モデルとなる2003年式の1.8T。このクルマが新車販売されていた時期は、子育ての真っ最中だったこともあって、愛車は家族のことを考えたミニバンを乗り継いでいたという。

「ミニバンに乗る前は長らくスポーツカーを乗り継いでいたんです。中でも日産・フェアレディZ(Z32)は思い出も深く、改めてスポーツカーを手に入れようと考えた時、フェアレディZの購入を考えました」

「さすがにZ32は苦労するかと思ったのでZ33あたりを探しはじめたんですが、その時、偶然目にとまったのがアウディ・TTだったんです。発売当時の衝撃はずっと脳裏に焼き付いていたし、欲しいと思った時期もあったんですが、家族で乗るクルマじゃないかな? って諦めていたことを思い出しちゃいましたネ。だから子供も巣立った今なら、落ち着いて付き合えるんじゃないかなと思うようになったんです」

そう考えた途端、狙いは国産スポーツから欧州スポーツへとシフト。というのも、TTを手にする前に所有していたのは欧州コンパクトカーのシトロエン・DS3だったそうで、DS3に乗っていたことで欧州車仲間が増え、実際に経験した苦労よりも仲間と過ごす楽しみの方が優っていると感じていたのだとか。そして、そんなコミュニティの存在もあり、デザイン的にも最も好みだった初代TTを探し、ネットオークションで見つけたというわけだ。

TTに搭載されるエンジンは、大きく分けて1.8L直列4気筒ターボと、3.2L V6の2種類。X21さんのモデルに搭載されるのは、最もスタンダードな1.8Lターボだ。入手した段階での走行距離は6万5000キロ程度で、エンジン自体のコンディションは良好だったという。この点ではネットオークションで掲示されていた説明との相違はなかったのだが…。

「これまでネットオークションや個人売買で失敗したことはなかったので、このTTを落札した時も心配はしていませんでしたね。でも引き取りに行ったところ、説明書きにはない不具合が色々と出てきたんです。特にペイントは『傷もなく艶もある』と書かれていたんですが、実際に見るとボンネットが白くボケているんです。売主の方からは水垢だから磨けばすぐに落ちると説明されましたが、実際は違ったみたいですね」

ちなみにボンネットの白ボケは塗装のクリア層が劣化している状態。この状態になるとボディショップでクリア層を剥いで再びクリアペイントをするか、ボンネット1枚を丸々ペイントし直すしかない。経年車に起こりがちなトラブルではあるものの、やはり説明に記載されていなかったのは悔しさが残るポイントだ。

「自分でできる限りの作業はDIYで行ないますが、ペイントは未経験なんです。でもこれを機会に試してみるのもアリかと思っています。本当ならピカピカとまでは言わなくても、納得できるコンディションだったら良かったんですけどね…」

タイヤに関しても当初装着されていたものはひび割れが多く、そのまま使用するには不安があった。そのため、当面のつなぎとともに車検対策として、サイズが合うVW用ホイールをタイヤとセットで購入。また、油脂類の交換にはじまりエンジンルーム内のホース類やドライブシャフトブーツ、タイロッドエンドブーツなど、走行に関わる修理も行なうことで無事に車検を取得することができた。

「購入したのは昨年末だったのですが、色々手直しをしているうちに時間が経って、車検を取れたのはこの4月なんです。だから今回の取材会が初の遠出になりますね。まだまだ気になる不具合は残っていますが、ショップさんの協力もあって走行に関しては不安を感じないレベルまで復旧しました。長く付き合っていくための第一段階をようやくクリアできたところですので、今後は内外装を手直ししていこうかなって思っていますよ」

内装に関しては多少の経年劣化はあるものの、クリーンな印象を受けるタンレザーが目を引く。内張りのレザーがめくれてしまっているなどTT特有の問題点は、今後付き合っていくなかで対策を考えているのだとか。

ドライビングポジションに関しては、昔乗っていたマツダ・サバンナRX-7(FC3S)にも似たスポーティ感を満喫しているそうで、そのおかげ(!?)で再びFC3Sにも乗りたいと思いはじめているという。TTは若い頃を思い出させてくれるトリガーとなっているのだとか。

「欲を言えばシルバーのボディカラーが好みだったんですけど、走行距離が6万5000キロというのがこのTTを購入した決め手となりましたね。燃料ホースやクーラントホースは傷んでいたので自分で交換したんですが、早々にメンテナンスをしなくてはいけない素材車だったというのは当初の予想とは違った部分でした。けれど、それはそれで楽しいですし、良い勉強にもなりましたよ」

ボディカラーに関しては純正のブラックメタリックをベースに、トップ部分のみをBMWミニ純正のエメラルドグレーにペイント。このコーディネートは前オーナーによる仕上げなのだが、ボンネットの白ボケ具合を見るとルーフの色替えは塗装の劣化に対する処置だったのでは? とはX21さんの推察。今後はボンネットのペイント補修にチャレンジしつつ、将来的には希望色のシルバーにオールペンすることも検討しているそうだ。

オーナーズクラブでのツーリングやミーティングといった楽しみはもちろん、愛車を直していく工程もカーライフにおける楽しみのひとつだったりもする。手がかかるクルマならなおさら愛情も深まっていくというのは、ヤングタイマー世代を好むオーナーの傾向でもある。
そんな例に漏れることなく、X21さんにとって想定外の問題児であるTTは、これからのカーライフを長く楽しんでいくベストパートナーとなっていくことだろう。

(文: 渡辺大輔 / 撮影: 平野 陽)

許可を得て取材を行っています
取材場所:つつじが岡公園(群馬県館林市花山町3278)

[GAZOO編集部]