オーナーがクルマに気を使う、アルファロメオとはそんな付き合い方なんです
国が変われば気候や風土も異なるため、生まれてくる工業製品も個性の主張が大きくなるはず。例えば国土の多くを山間部で覆われた日本ではミニマムな軽自動車が生まれているし、産油国で広大な土地を持つアメリカではボディサイズも大きく、かつ大排気量のクルマが長らく生産されてきた。この個性こそクルマ好きの心を刺激し、愛車として乗り続ける原動力になっているとも言えるだろう。
そんな個性において、感性を重視するのがイタリア車。中でもアルファロメオはひと味違ったドライブフィールを求めるオーナーには代え難いブランドと言えるのである。スタイリングも超個性的と評されるこの1997年式アルファロメオ・コルセGTV(916)のオーナー『はるさん』もまた、そんなアルファロメオの伊達男っぷりに心酔するひとりだ。
アルファロメオ・コルセGTVは1996年に復活を遂げたスポーツクーペ『GTV』をベースとした限定車。スタンダードモデルから前後バンパーやエンジン出力、マフラーなどを専用設定に変更し、シリアル管理された60台のみデリバリーとなった希少なモデルだ。この限定車を企画し、アバルト社にオーダーしたのが日本人とのことで、日本のアルファロメオファンにとっては伝説と呼ばれる存在である。
そんな希少な限定車をはるさんが手に入れたのは2019年のこと。それ以前もアルファロメオを乗り継ぎつつ、このクルマには発売から10数年の時を経て巡り会えたと言う。
「コルセGTVの存在は山中湖にある『ギャラリーアバルト自動車美術館』の館長さんに教えてもらったんです。と言っても、もう十数年も前だったんですが、日本人が企画した限定車ということで親近感を覚えましたね。アルファは1998年にスパイダーを新車で購入し13年間乗り続けていました」
「その後V6モデルに乗りたくなってアルファGTに乗り換えたんですが、やっぱりオープンカーの開放感が忘れられずルノー・ウインドに乗り換えました。しかし、これまた今まで乗ってきたアルファとは違い、私の心に訴えかけるものが感じられなかったんですね。ですからすぐにGTVに乗り換えちゃいました。その頃に、コルセGTVの話を思い出し、探すことになったんです」
ちなみに、コルセGTVに搭載されるのは2.0リッターV6ターボ。標準車とは違い大型インタークーラーや専用コンピューターなど、アバルトでチューニングが施されたパフォーマンスユニットを搭載している。ボディカラーや装備品に変更を加えた小手先の限定車ではなく、アルファロメオらしく走る気持ち良さにまで手を加えた価値ある限定車は、今も人気が衰えない理由のひとつでもある。
とは言っても、ベースとなるこのエンジンは型が古いため、リプレイスメントパーツが手に入りにくいのが難点。あったとしてもクオリティが今ひとつということも多く、整備には手間暇が掛かってしまうのだとか。また、はるさんによると、現在ではフロント左のアッパーマウントが世界的に欠品しているという。
個性的なフロントフェイスを特徴付けるヘッドライトは、プロジェクタータイプの4灯式となる。しかしライトユニットは1つで構成され、その上にヘッドライトカバーのようにボンネットフードが覆うという予想外の形状が採用されている。
ちなみに標準車から形状が変更された専用のフロントバンパーは、インタークーラーダクトのサイズが異なるのが特徴。高出力化に合わせて拡大したインタークーラーに走行風をしっかりと当てるようにリファインされたという手の込んだものだ。
また、専用装備となるリヤスポイラーにはアルファコルセのネーミングがエンボス加工で入れられている。もちろん空力パーツという機能部品であっても、美しさを損なうことは許されない。そのため真横から見てボディサイドのキャラクターラインとつながるように設計されている。
専用マフラーはオーバルタイプの左右出しを装着。このマフラー形状に合わせてリヤアンダーの形状も専用品に変更されている。
ちなみに以前乗っていたスパイダーはかなりのカスタマイズが施されていたというが、このコルセGTVはノーマルで乗り続けていく予定なのだとか。
ノーマルから外装で唯一変更されているのがホイール。アルファロメオのP.C.D.は98のため、軽量モデルを探してみたものの対応する製品がなかなか見つからなかったのだとか。ようやく見つけたのがニーズ製マグネシウム鍛造のこのモデル。純正ホイールと比べても大幅な軽量化が達成できたため、運動性能もアップしているそうだ。
サスペンションもコルセGTV専用のセットアップとなる、ビルシュタイン製のダンパー+アイバッハ製のスプリングが組み合わせられる。ノーマルでありながら、標準車よりも低く構えられた車高に、ネガティブが付けられたリヤのキャンバー角などを見ると、スポーツ性の向上に振った専用チューニングが施されていることがわかる。
「イタリア車、特にアルファは一般的に壊れやすいっていう人が多いじゃないですか。でもメーカーを問わず時間が経過した工業製品なら何らかの不具合は発生するものです。その点は長く乗っていることもあって、音とかメーターの情報でコンディションが把握できるようになりましたね。ちょっと前も走行中に水温が上がってきたのですが、すぐに暖房をONにして熱を逃がし、事なきを得ましたよ。トラブル時に愛車がオーナーを気遣ったり守ったりしてくれたなんて話を耳にしますが、アルファに関してはオーナーがクルマを気遣わなければいけないって感じですね(笑)」
はるさんのコルセGTVは限定数60台のうち、シリアルナンバー002という極初期モデル。シリアル001の車両はこのコルセGTVを企画した本人が所有していると言われているため、ある意味市販車の第1号ともいえる車両なのだとか。
「愛車って走っている時はその姿を見ることができないんですよね。だから自分は運転席から見える景色にもこだわってアルファを選んでいるんです」
と言うように、ドライバーズシートから目に入る部分は、ステアリングからドリンクホルダーに至るまで自身が納得できるアイテムをセレクトしている。
シートはレザー製のレカロ、センターパネルなどにはカーボン柄がデザインされ、上品かつスポーティな装い。特にこの世代の欧州車では使用される樹脂塗料が劣化すると、軟化してベタベタになってしまうのがメジャートラブル。その点をカーボン調パネルで化粧することで、ベタつきが抑えられているのは意外な利点だ。
「アルファはそのデザインを見ていても飽きないのですが、やっぱり走らせてフィーリングを楽しむのがイチバン。ですから、年に1回、9月16日に近い土日に『アルファロメオ916DAY』というイベントを企画・開催しているんです。目的地までドライブを楽しみながら、会場ではGTVオーナーと交流を図るのがテーマで、昨年からは静岡県の日本平ホテルで行なうようになりました。芝生が広がる中庭という最高のロケーションで、色とりどりのGTVを眺めるだけでも気分が盛り上がりますね」
コルセGTV以外にも、実は他のイタリア車も所有しているというはるさん。というのも、フランス在住の女性オーナーから、日本に残しているGTVを乗り継いでもらいたいと譲り受けたのだ。こちらは右ハンドルのV6 3.0リッターモデルのため、コルセGTVとはまた違ったフィーリングを体感でき、楽しみが2倍に増えているそうだ。
「今お世話になっているアルファの主治医と出会っていなければ、こんな楽しいクルマには巡り会えていなかったし、GVTを2台も所有しようなんて思わなかったですよ」
斬新なイタリアンデザイン、そして官能的なドライブフィールというアルファロメオに魅せられたはるさん。そのカーライフの影には信頼できるメカニックとの出会いがある。やはりクルマ趣味を楽しむためには、人と人の繋がりもまた重要な要因であることは間違いのないところであろう。
(文: 渡辺大輔 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:つつじが岡公園(群馬県館林市花山町3278)
[GAZOO編集部]
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