知るほどに探究心を刺激される1963年式アルファロメオ・ジュリア・スパイダーとのランデブー

  • GAZOO愛車取材会の会場である群馬県群馬大学 桐生キャンパスで取材した1963年式アルファロメオ・ジュリア・スパイダー

    1963年式アルファロメオ・ジュリア・スパイダー


全国各地で行なわれているクラシックカーイベントは、どこも多くのオーナーやファンが詰めかけて大盛況を納めている。今回の取材会場となった群馬大学 桐生キャンパスで毎年行なわれている『クラシックカーフェスティバルin桐生』も、今年で18年という歴史を持つイベントだ。
そして、そのクラシックカーフェスティバルin桐生で実行委員を務める『呂目夫』さんは1963年式のアルファロメオ・ジュリア・スパイダーに乗るクラシックカーオーナーである。

第二次世界大戦後、レーシングカーの製作が中心だった体制から、量産車メーカーへと変貌を遂げたアルファロメオ。その最初のモデルとして誕生した1900からグレードアップしたジュリエッタをベースに、オープンモデルのスパイダーを追加したのは1960年のこと。ピニンファリーナの手によって作られたエレガントなオープンスタイルは、アルファロメオを代表するモデルとなった。

そんなジュリエッタ・スパイダーの後継として、基本的なデザインを引き継ぎながら、より高性能となった1570ccのパワーユニットを搭載して登場したジュリア・スパイダーは、後にスパイダーの最終進化版とも言われる存在。しかし、生産期間は1962年から1964年までのわずか2年だったため世に送り出された台数はごく少数といった記録が残され、ファンにとっては垂涎のモデルとなっているのだ。

そんな希少なジュリア・スパイダーを呂目夫さんが手にしたのは今から15年ほど前のこと。東京の専門店に飾られていることを知り、試乗して即決購入したのがはじまりだ。

「このジュリア・スパイダーを購入する前もスパイダー・デュエットに10年くらい乗っていたんですよ。ダスティン・ホフマンが映画『卒業』で乗っていたクルマって言えばわかりますかね。このスパイダー・デュエットが自分のフィーリングにすごくマッチしていて、一気にアルファロメオの魅力にハマってしまいました」

「そうなると、それ以前の個性的なモデルも気になってくる。スパイダー・デュエットの前身といえばジュリア・スパイダーということで、探しに探して見つけたといった感じですね」

ジュリア・スパイダーに搭載するエンジンは、モデルチェンジでジュリアTIに組み合わされた1570㏄の4気筒ツインカム。それまでの80ps/1290㏄と比べると大幅なスペックアップを果たしているのが特徴だ。

最高出力はジュリエッタ・スパイダーベローチェ(ジュリエッタ・スパイダーの高性能バージョン)同様のスペックを誇る92ps。数値的に見ると現代のクルマには遠く及ばないものの、軽量なボディとの組み合わせでは十分なパフォーマンスを備えている。何よりも絶対的な速さではなく、最高のドライブフィールを求める呂目夫さんにとっては、スペック云々ではなくこのエンジンが奏でるサウンドこそが楽しみのスパイスなのである。

基本的なスタイリングは『ジュリエッタ・スパイダー』から大きな変更はなかった『ジュリア・スパイダー』。しかし変更された搭載エンジンは僅かに高さがあり、それに伴ってボンネットフードには逃げ加工としてエアスクープが設けられている。また、アルファロメオの伝統とも言えるフロントグリルは『盾型』。もちろん前後スチールバンパーを装着するデザインは、クラシックカーらしい印象を高めている。

最高傑作と呼ばれるエレガントなピニンファリーナデザインは、それだけで十分な魅力を放っている。そのためホイールに至るまでノーマルコンディションを貫いているのは、ジュリア・スパイダーへの愛情の現れだ。タイヤもクラシックカー向けのミシュランXZXを組み合わせているというこだわりぶりだ。

インテリアに関しても、ステアリングの一部が経年劣化によってダメージがあるものの、60年が経過しているとは思えないほど良好な状態。ダッシュボードも視認性の良い3眼メーターを備えつつ、一番目立つセンター部分にはピニンファリーナのオーナメントが堂々と掲げられている。

ドアハンドルやウインドウクランクなど、ドア周りのパーツはシンプルな構成ながら、ひとつひとつの部品にしっかりとした質感があり、デザインされているのも見どころである。余分な装飾で飾るのではなく、シンプルに機能美を表現しているのもこの時代だからこその造作と言えるだろう。

シートや幌は5年ほど前に張り替え、表皮パターンは純正のまま、パイピング部分を赤でアレンジすることでイメージもリファイン。ショルダー部分に当てられた布は幌開閉時に擦れてしまう、ジュリア・スパイダー共通のウィークポイントをカバーするためのもの。この当て布をしていないと、シート生地が擦り切れてしまうのだとか。

トランクの外ヒンジやオーナメントなど、細かい装飾品に凝っているところは呂目夫さんが気に入っているポイント。実用性には直結していないものの、質感を高めるアルミ鋳造素材をふんだんに取り入れた各部品は、この時代の象徴であり贅沢な作りなのである。

また通常では見えないABCペダルにもアルファロメオのクレストが刻まれている。こういった細かい作り込みは現在のモデルにはない拘りのキャラクターと言える。クラシックカーファンがそのクルマに愛情を深めるのは、使い勝手や信頼性というよりも、こうした個性が散りばめられた贅沢な演出にもある。

グローバル化が進んだ現在では、車体に記載される言語は英語を使用するのがスタンダード。しかしこの時代のアルファロメオには、このオイルフィラーのようにイタリア語が記されているのは趣を感じる部分でもある。

ちなみに都市伝説のように『よく壊れる』と言われるアルファロメオながら、呂目夫さんのジュリア・スパイダーはこれまで大きなトラブルがない(?)という。1度だけエンジンが掛からなくなってしまったと言うが、何もせず次の日には無事にエンジンが掛かってしまったため、トラブルとしてはカウントしていないのだとか。

「クルマって工業製品なので、ダメになる消耗品は可能な限り定期的に交換しています。ガソリンと同じで、消耗したものはそこをフォローしなければ走らないのは当たり前。だからしっかりとメンテナンスしていれば、アルファロメオだって壊れないんですよ。とは言っても面倒な作業は全て知識のある友人を頼っているので、自分ひとりではこのコンディションを維持できる自信はありませんけどね」

「トラブルはないと言いましたが、思い起こせば2度ほどブレーキが抜けて止まらなくなったこともありました。その時は近くの広い駐車場に飛び込んでサイドブレーキを使って止めたんですが、一歩間違えば大きな事故になっていたかもしれませんね」

「そんな経験もあるんですが、やっぱりアルファロメオの魅力には抗えず、好きすぎて前車と合わせて30年近く乗り続けているんです。クラシックカーフェスティバルの実行委員を務めてはいますが、本質的には常に参加者のひとりなんですよ。自分が好きな自動車文化をもっと多くの人と共有できたなら、もっと楽しくクルマに接することができる。そんな想いで今年のイベントも開催したいと考えています」

呂目夫さんが実行委員を務める『クラシックカーフェスティバルin桐生』は、コロナ禍で休止したこともあったため2024年で17回目となり、11月3日(日)に開催予定のことだ。
毎回トヨタ博物館から展示車両を借りてきたり、東北や関東エリアからもオーナーカーが集まったりと、桐生の街興しイベントとしても年々盛り上がりを見せていて、来場者はナント2万人を超えるという。

カーショーなどクルマ系イベントでは商業的な成功を収めているものも少なくないが『クラシックカーフェスティバルin桐生』に関しては、クラシックカー好きのスタッフが、同じ趣味の仲間と時間を共有することが主題となっているという。だからこそ18年もの年月をかけ、街ぐるみで盛り上がり、毎年楽しみにしているファンもついてくるということなのだろう。

そんな呂目夫さんの普段のカーライフについても伺ってみると「もちろんクラシックカーだけで生活するのは現実的に無理がありますので、普段は別のクルマを使っています。とは言っても前車のスパイダー・デュエットでアルファロメオにハマってしまっただけに、日常でもアルファロメオの現行モデルを乗り継いでいます」

「ジュリア・スパイダーがオープンなので、使いやすいセダンということで155、156、159と乗り継ぎ、現在はジュリアを選んでいますね。趣味も実用もアルファロメオづくしで、この30年の間に6台がアルファロメオだって気付いたら、なにか病気なのかも…と、自分でも心配になりますよ(笑)」
現在所有するラインアップは長年の相棒であるジュリア・スパイダーと、現行モデルのジュリアという並び。普段使いとして歴代Dセグメントセダンを乗り継ぐことで、アルファロメオのルーツを辿るだけでなく、その進化の過程もリアルタイムで感じているというわけだ。

「個人的な感想なんですが、新しいモデルへの進化はすごく感じますね。155よりも156の方が乗りやすくなって心配する箇所が減りましたし、さらに158、ジュリアへと乗り換えたら各所の不安は着実に解消されている。いい意味で道具としての利便性が確実に向上しているのは確かです。クラシックカーと比べちゃうと、アルファロメオとしての個性がどんどん薄らいでいるような気はしますけれど、不安なく日常で乗れる安心感は重要なので、正しい進化なのだと思っています」

クラシックカー好きのクルマ選びは、時代を遡って先祖返りしていく傾向がある。ルーツを辿ることで歴史を感じながら、そのモデルの原点を知りたくなる探究心とでも言えるだろうか。
呂目夫さんに関して言えば、並行してニューモデルも所有してアルファロメオについての造詣をさらに深めることで、自身と愛車の距離感を縮め、さらに愛情を深めていくという、濃密なカーライフをエンジョイしているというわけだ。

(文: 渡辺大輔 / 撮影: 中村レオ)

許可を得て取材を行っています
取材場所:群馬大学 桐生キャンパス(群馬県桐生市天神町1-5-1)

[GAZOO編集部]