地球を17周!? エブリイバンで68万キロを走破する驚きのカーライフ

  • GAZOO愛車取材会の会場である群馬県群馬大学桐生キャンパスで取材したスズキ・エブリイバン(DA64V)

    スズキ・エブリイバン(DA64V)

クルマを持つ醍醐味と言えば、時間や距離を気にすることなく自由気ままにどこにでも出かけられるということ。最近では、走らせる楽しみを満喫する人が多いというだけでなく、気に入ったクルマと長く付き合うといった人も増え、それと比例するように走行距離が多いクルマも多くなってきている傾向にある。

ひと昔前なら『10年、10万キロ』が買い替えのタイミングと言われていたが、近年ではその考え方に捉われる人も少なくなって来たというわけだ。そんな走らせる楽しみを存分に味わい、むしろオドメーターが刻む距離が伸びることに喜びを感じているのが、この2007年式スズキ・エブリイバン(DA64V)のオーナー『(株)ヤス』さんである。

660㏄の排気量ながら十分な積載力を持つエブリイバンは、趣味やビジネスシーンで大活躍。特に(株)ヤスさんが所有するDA64Vはワゴンモデルと共通のボディながら、テールランプをバンパー部分に配置して開口部を最大限に広く設計するなど、荷物の積み下ろし時の利便性を高めた実用派モデルでもある。
こうした細部まで気を配った設計は、特にビジネス利用のユーザーに受け入れられ、2005年のデビューから2015年の販売終了時まで継続的に販売数を伸ばしていった。

そんなエブリイバンを手に入れたキッカケは、家業でもある整備工場に下取りとして持ち込まれたこと。当初は代車として活用しようと考えていたのだが、気がついたら愛車として手を加えるようになってしまったのだとか。

「もともとこのエブリイは近所で配送業をしていた方のクルマでした。下取りで入って来た時には23万キロほど走行していたので、代車くらいでなら活用できるって思ったんです」

「試しにちょっと乗ってみたら、パワーこそないですが、取り回しの良さやMTの操作感など走らせて気持ち良かったんですよ。幸いにして新車からずっと点検や車検、メンテナンスをさせてもらっていてクルマの状態は把握できていたし、何よりまだまだ走れるコンディションでしたので、代車にするのではなくそのまま自分の愛車にしちゃいました」

キャブオーバータイプのエブリイはシート下にエンジンが搭載されている。このエンジンはスズキの主要な軽自動車に搭載されるK6A型で、中古エンジンを探す際にも苦労なく見つけられるため、23万キロ走行した車体でもいざとなったらエンジンを載せ換えて維持できると判断したわけだ。

実際に、手に入れてから4年ほど経過してオドメーターが42万キロを示したあたりでタイミングチェーンが伸びてしまい、カムスプロケの歯飛びによってエンジンがブロー。普通ならこれだけの距離を走ったということで廃車と判断するところだが、当初の考え通りにエンジンの載せ換えを即決。しかも、単なる中古エンジンではなく、リビルトエンジンをチョイスすることで、より長く乗り続けられるようにリフレッシュを行い、現在オドメーターが指し示す距離は68万キロを超えてもなお元気な走りを楽しませてくれるという。

ちなみに、68万キロを超えるまでにはエンジンの載せ換えだけでなく、様々なメンテナンスや部品交換も行なわれている。中でもオルタネーターは30万キロ時と57万キロ時の2回交換。この交換時の距離だけ聞いても、エブリイバンの驚くべき耐久性が証明されていると言えるだろう。メーターはバン用のノーマルではなく、タコメーター付きのワゴン用を、走行距離を合わせて流用しているという。

マニュアルのミッションは40万7000キロの時点で1〜4速まですべてが入らなくなってしまい、5速のみでなんとか自宅まで戻って来たというハードなトラブルも経験。その際には走行11万キロ程度の中古ミッションを見つけて、すぐに載せ換えを行なったという。
その他、ロワアームを2回、車高調サスを3回交換し、常に楽しく走るためのコンディションもキープしているというから、さすがは整備士さんといったところだ。

走らせる楽しみはもちろん、エブリイにはバンだけでなくワゴンもラインアップされる影響で、様々なアフターパーツが存在するのも楽しみである。
そのため、素の状態では物寂しかったバン本来のスタイリングは、ワゴン用の部品を使用することでリファイン。中でもフロントバンパーはスズキスポーツ製に変更し、開口部にはダミーインタークーラーをセット。“質実剛健な仕事グルマ”というイメージを払拭するコーディネイトで、バンの印象からの脱却を図っているのだ。

「エンジンや補器類、ミッションといった今後起こり得る大きなトラブルの芽は摘んでいますが、まだハブベアリングが未交換だったり、最近ではデフの音が大きくなってきたりと、これからも整備しなければならない部分が必ず出てきますが、事前に察知できていれば計画的に整備できるので、それほど苦労はないですね。ただ、単純に新しい部品でリフレッシュするだけでなく、例えば軽量フライホイールを入れてみたり、リヤブレーキを強化したりとバージョンアップも同時に行なっていくことも考えているんです。まだまだカスタマイズする余地もあるので、長く楽しめそうですよ」

フロントブレーキは、ノーマルだと12インチのソリッドローターだが、それを13インチのベンチレーテッドローターに交換してバージョンアップ。ワゴン用パーツを流用できるので、手軽に機能強化を図れるのもエブリイバンの魅力だ。
また、ホイールはスポーティなワークエモーション・CR極をチョイスすることで、プレーンなBOXスタリイングにアクセントを加えている。

乗って楽しみたいコンセプトのため、ペラペラのバン用シートからフロントシート2脚はレカロ製に交換。乗り心地の良いシートへの交換は運転がラクになる改良ポイントでもあり、このエブリイバンのカスタマイズにおいて、その効果が最も体感できた部分なのだとか。
インテリアもバン本来の質素なものからワゴン用の化粧パネルやアフターパーツのダイヤルノブに交換するなど、バージョンアップが加えられている。
またシフトノブには水中花、ステアリングはスイフトスポーツ(ZC31S)用の純正に交換するなど、華やかさとスポーティさもプラスし、居心地の良いインテリアを作り上げているのも特徴だ。

リヤシートはエブリイJOINから流用し、後部座席の居住性もアップ。同時にシートカバーを利用することで質感も高められている。とは言っても、趣味のドライブだけでなく仕事でもタイヤを積み込んだりとフル活用しているため、過剰なカスタマイズではなく使い勝手を向上するアレンジに留められているのは(株)ヤスさん流のこだわりだ。

本来のヘッドライトは飾り気のないシンプルなデザインだったものの、よりデザイン性をもたせたワゴン用に変更。エブリイ用ヘッドライトは社外品も豊富に用意されているが、やはり純正の品質と機能性を重視した結果、ワゴン用を装着している。また、バンパー交換に合わせてメッキグリルを装着しつつ、ラパンSSから拝借したエンブレムをワンポイントとして装着するなど、細かいアレンジも楽しんでいる。

免許を取得してからスターレット(EP71)やグランドシビック(EF3)、180SX(RPS13)といったスポーツカーを乗り継いで来た(株)ヤスさん。そのためエブリイにもマニュアルミッション車のドライブフィールを満喫し走りのD.N.A.を注入するべくマフラーも社外品に交換しているそうだ。
こうして自分好みに仕上げた愛車で、SNSの『みんカラ』が提供する『ハイタッチ! drive』というアプリを利用したドライブを楽しみ、クルマ仲間との交流を楽しんだり、休日にはラーメンを食べるために地元茨城から仙台まで足を伸ばしたりとアクティブに過ごしているという。

いっぽうで、ここまで愛情を注ぎながらも、リヤクォーターやリヤゲートには凹みや擦り傷などが生々しく残されているのが気になるところ。これには理由があるそうで…
「スタッドレスタイヤに履き替える直前に雪が降ってしまい、スリップして横転したことがあるんです。レスキューに来てくれたJAFの方も廃車すると思ったようで、引き起こす際にワイヤーで吊り上げようしたんです。その時は29万キロの走行距離だったんですが、さすがに直して乗るなんて思わなかったみたいでしたよ(笑)。その時の戒めというわけではないのですが、スタッドレスの重要性を忘れないように、この傷は残しているんです」

「手に入れてから9年。およそ45万キロ走らせていますが、毎日150キロほど走らせているため、ガソリン代は月に4〜5万円ほどかかっています。それでもオドメーターの距離が進んでいくのは見ていて楽しく、妙な充溢感や達成感も得られます。どこまで走れるのか挑戦という考えもあるのですが、日々好きなところにドライブしたり、休日にはイベントやオフ会に行くことで気分転換にもなりますし。このエブリィ他にもスイフトスポーツ(ZC31S)とワゴンRスティングレー(MH23S)を所有しているんですが、100万キロ走行を目指していることもあって、やはりエブリイが使用のメインになってしまいますね」

「まだまだ走れる」と考えた(株)ヤスさんの情熱で命をつないだ23万キロ走行の軽自動車は、エンジン&ミッションの換装や各部のカスタマイズによってリフレッシュし、遂には総走行距離70万キロが目前に迫ってきている。

しかし70万キロはまだ通過点のひとつに過ぎず、目指すは100万キロ。愛情を持って適切なメンテナンスを行なえば、クルマはその思いに応えてくれると考える(株)ヤスさんなら、エブリイとともにその目標も達成し、オドメーターの距離をさらに刻み続けていくことだろう。

(文: 渡辺大輔 / 撮影: 中村レオ)

許可を得て取材を行っています
取材場所:群馬大学 桐生キャンパス(群馬県桐生市天神町1-5-1)

[GAZOO編集部]