エポックメイキングなボディデザインに惚れ、30年連れ添ってきたコスモスポーツ
1963年の東京モーターショーで“世界初のロータリーエンジン搭載車”としてお披露目されたマツダ・コスモスポーツ。エンジンはもちろんだが、その近未来的なデザインも多くのクルマファンを魅了した。
「ウチは父親がクルマ屋さんをしていたので、小さい頃からたくさんのクルマを見てきましたが、中でもこのクルマの形を見た時の衝撃は忘れられません。まだ小学生にもなっていませんでしたが『大人になったらこのクルマを買おう!』と決意しました」
群馬大学 桐生キャンパスで開催した取材会に参加していただいた『yasuhigo!』さんも、そんなコスモスポーツに心を奪われ、27歳の時に購入して以来、現在進行形でその魅力にどっぷりとハマっているオーナーさんだ。
「運転免許はなるべく早く欲しかったので高校在学中に取得しました。最初に乗った愛車は、就職先のディーラーの先輩が所有していたマツダ・キャロルを譲ってもらいました。コスモスポーツは当然頭の中にあったのですが、免許を取ってすぐの自分が買うような代物ではないと分かっていましたので」
家業であるクルマ屋の様子を見て育ったyasuhigo! さんだけに、旧車を所有・維持することの大変さは重々承知。しかし、それでも『クラシックカーに乗りたい』という思いを叶えるために、先輩が所有していたキャロルを譲り受けるという選択をしたわけだ。このキャロルも納屋に仕舞い込まれていた車両を引っ張り出し、父親と共にレストアしてようやく動くようになったという。
「キャロルは成人式とかにも乗っていった思い出があるし、そのあとは並行して普通の乗用車もいろいろ乗ったんですけど、キャロルは手放さずに持ち続けていたんです。そしてある日、マツダの三次試験場というテストコースでイベントがあって、そこにキャロルで参加した時に、知り合った旧車乗りの方からコスモスポーツに乗っていた人を紹介してもらって、その方から『コスモスポーツを買わないか?』という話を頂いたんです」
キャロルを手に入れて乗り続けていたことから繋がった縁で飛び込んできた、ずっと憧れていたコスモスポーツが手に入るチャンス。yasuhigo! さんは、この好機を逃すわけにはいかないと決心し、クルマを見ることもなく購入を決意した。
「手に入れた時の状態は、正直それほど良くなかったんです。外装の再塗装はしてあったんですけど、欠品があったり内装もボロボロだったりで、エンジンはかろうじてかかるというくらい。そこからまぁ、半年くらいかかったかな。従業員や親父さんにも手助けしてもらいながらコツコツ修理をして復活させることができました。10Aエンジンは部品がなくて大変でしたね」
こうして27才の時に手に入れたのが、1971年式のコスモスポーツ(L10B)。
「50年前にこのデザインで市販しようと考えたマツダの意気込みがスゴイなと思います。しかも、試作車を造って全国のマツダディーラーに1台ずつ、テストカーという形で配って乗ってもらい、その情報をフィードバックして作られたクルマだということなんですよ。とにかく形と音と、振動のないエンジンのフィーリングというんですかね、それが気に入っています。おむすび型のローターが回っているロータリーエンジンは、レシプロのピストンの上下運動と違って振動が伝わらなくて、他のクルマにはない独特の感覚なんですよ」
来年で所有してから30年を迎えるという愛車について、その来歴を含めて隅々まで知り尽くすyasuhigo! さん。もちろん、長い愛車ライフの中で、さまざまな経験を共にしてきたという。コスモスポーツオーナーズクラブに所属して、毎年持ち回りで行われる全国オフに参加するため広島、四国、北海道など全国各地を自走で訪問。コスモスポーツを眺めながら過ごせるようにとガレージ付きの自宅も建てたという。
「一番気に入っているのは右リヤ斜め上から見る角度で、あと真上から見ると後ろがキューって絞られているところなんかも気に入っています。いまだに一日見ていても飽きないですね。コーヒー飲みながら眺めていると、1日終わっちゃうんですよ(笑)。これまで手放そうと思ったことはありません。最近はオーナーズクラブのメンバーも歳を取ってきて、長距離移動するような機会は減りましたが、部品や修理メンテナンスの情報共有や助け合いなどができるので、この繋がりはとても重要ですね」
奥様と結婚した時には、ウエディングドレスで撮影するために、コスモスポーツをピカピカに磨き上げたらウエディングドレスにタイヤワックスが付いてしまったという苦い想い出や、パワーステアリングではないので駐車が大変なうえにボディラインが絞られているので後ろを見ながらバックするとかならず曲がってしまうという苦労話。ボンネットの裏に書いてもらった松浦国夫さん、山本修弘さん、寺田洋次郎さん、片山義美さんなど、マツダ車との関わりの深いレジェンドの方々のサインや、その時々の様子などなど。コスモスポーツとのお話は、川の流れのように止まることなく次々と溢れ出してくる。
「なかでも嬉しかったのがこのスケッチです。この群馬大学の敷地内で、毎年11月に桐生のクラシックカーフェスティバルを開催しているんですけど、ある時そこに中学生の子が遠くから自転車で来て、ここでスケッチブックに描いてプレゼントしてくれたんです。感激しましたね〜。今では家宝だと思って大事にしています! そんな彼も今では大学生になっていますけど、今でも年賀状が来るんですよ」
外装はこれまでに純正色で2回、塗り直しをしているそうで、前回の塗装は7年ほど前の事故がキッカケだったという。
「事故でフロントがグッチャリいっちゃって、高速隊の人たちの最初の一言も『あ~、もったいない』でした。フェンダーを自らハンマーで叩いて、タイヤが当たらないようにして乗って帰ってきて、あとは鈑金のおっちゃんに黙って見せたら、黙って修理を始めてくれました。ほんと、よく直してくれたなって。コスモスポーツはフェンダーの切れ目がなくて、ドア、ボンネット、トランクしかパネルとして外せないので、塗装するのもなかなか厄介で。切れ目がないから一箇所だけというのができなくて、結局オールペンになっちゃうんです。メッキパーツは30年近く前に補修してもらったのですが、バンパーなどは1本物なので再クローム加工などを受けてくれるところがなかなかなくて。宇都宮の職人のお爺ちゃんがやってくれたんですが、下地から丁寧に仕上げてくれたおかげで、現在でもキレイな状態を保ってくれています」
ちなみに、白いボディに目立つ真っ赤なラインは、少し前に『劇中車』がテーマのイベントに参加するにあたって追加したもので『エヴァンゲリオン』の映画版に登場するコスモスポーツをオマージュしたものだという。
「年配の人はウルトラマンを思い浮かべるみたいですが、縦1本のエヴァンゲリオンのほうが簡単かなって(笑)。でも、これを貼るためにエンブレムをはずしたら塗装まで剥がれちゃったりして大変だったんですよ」
希少なクラシックカーにも関わらず、こういった遊び心のあるいじり方も、気軽にチャレンジしてしまうのだと少々驚ろかされた。けれど、そんな愛車との付き合い方や距離感の近さは、長年連れ添ってきたからこその関係性なのだろうと納得した。
「マフラーは鉄工所をやっているクラブの仲間が、純正と同じ形状のままアルミで作ってくれました。シートの生地もクラブ員でまとめ買いするからってお願いして、純正同様の生地を作ってもらって張り替えています」
このように『yasuhigo!』さんの相棒として作り上げられてきたコスモスポーツだが、最近は社会人2年目の息子さんへの継承も考えているという。
「息子はNAロードスターに乗っているんですが、このコスモスポーツを運転できるようにスパルタで教育しました。最近はオーナーズクラブのメンバーも高齢化が進んで、今持っているクルマをどう受け継いでいくかっていうのは、けっこう深刻な問題になっているんですよね」
お母さんが新車で購入して乗り続けてきたというシャンテと、サバンナRX-3も所有しているという『yasuhigo!』さん。
「クラシックカーを調子良く維持していく上で意識していることは、とにかく乗ることですね。大事にしまっておいてイベントの時だけ乗るという人も多いんですけど、僕は普段から早朝に近くの峠道を走ったり、夏場は涼しくなった夕方から夜にかけて走ったりと乗り回していて、サーキットもガンガン走っちゃうんで。そうやって壊さないように乗り続けて、息子に受け継いでもらえたらって思っていますよ」
来年で手に入れてから30周年という長い付き合いの愛車。譲り渡すのは少し寂しいかもしれないが、運転席でステアリングを握る息子さんの姿もまた、コスモスポーツにとっては素敵な“シーズン2”の始まりとなるに違いない。
(文: 西本尚恵 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:群馬大学 桐生キャンパス(群馬県桐生市天神町1-5-1)
[GAZOO編集部]
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