好きになったキッカケは兄への対抗心!? 誕生日にやってきた愛機三菱・ランエボVI

  • GAZOO愛車取材会の会場であり石川県政記念 しいのき迎賓館で取材した三菱・ランサーエボリューションVI(CP9A)

    三菱・ランサーエボリューションVI(CP9A)

「6歳上の兄がいるんですけど、仲が悪くて、いつもめっっっちゃくちゃ喧嘩していたんですよ(笑)。その兄が好きだったのがインプレッサだったんですけど『それなら自分はライバル関係のランエボを応援しよう!』と思ったのが、このクルマを好きになったキッカケです」

三菱ランサーエボリューションVI(CP9A)に乗る石堤さんは、小学生の頃からお兄様と一緒に奥能登で開催されるラリーを頻繁に観戦しに行っていたという。そして、派手なカラーリングのラリーカーが凌ぎを削る姿を眺めていたときに、お兄様が「青いインプレッサが1番カッコいい」と言ったそうだ。それを聞いた石堤さんは、お兄様に対抗心を燃やして「俺は赤いランエボが1番強いと思うね!」と言い返したのだという。
それから時を経た今、やっぱりそれは間違っていなかった!と自信満々に笑った。

最初の理由こそ兄への対抗心だったとはいえ、実際のところランエボは当時の石堤さんにとって本当にカッコよく映っていたのだそうだ。低くて厚みがあるエキゾーストサウンドは、聞いていると体の奥がブルブルと振動するくらい底力のある音で、いつかはハンドルを握ってみたい憧れの存在だったと話してくれた。
そして、そんな憧れのクルマを石堤さんが手に入れたのは、2018年8月の誕生日だったという。「この年の誕生日は一生忘れられない誕生日になった」と、プレゼントを開ける子供のようにキラキラと目を輝かせていた。

「思い返せば、この年は人生で大きな転機となりました。結婚、マイホーム購入、ランエボを愛車として迎え入れるなど、たくさんの幸せが訪れたんです。それは、全部奥さんのおかげですね」
しょうがないな〜、と奥様が渋々購入を許してくれたランエボは、友人のショップから購入したという。個体探しに難航するかと思われたが、割とすぐに良い個体が見つかったと連絡があり、納車まで少しだけ待って欲しいと告げられたそうだ。
夢だったランエボにやっと乗れるというワクワク感に胸が高鳴り、首を長くして待ち続けること数ヶ月、その友人から「ランエボの進捗状況を伝えたいから店に遊びに来ないか?」という電話があったという。そんな感じで呼び出されて、クルマとまったく関係のない他愛もない話をして帰ってくるというのが毎度のことなので、きっと今回もそんな感じだろうなと店に向かったそうだ。「友達の家に行く感覚でショップに行けるというのが楽しかったりするんですけどね(笑)」と付け加えてニヤッとした。

「行った瞬間に『納車おめでとう〜!』って感じでした。誕生日に合わせてプレゼントできるように、奥さんと友達がわざわざ段取りしてくれていたんです。びっくりしましたよ! こんなに嬉しいことってあるのか!?っていうくらい幸せを噛み締めました。その理由は“乗りたかったクルマに乗れる”ということだけではないですよ。奥さんはもちろんですが“僕のためにいろいろ考えてくれた仲間がいる”ということが嬉しかったんです。僕は本当にいい友達を持ちました」

  • GAZOO愛車取材会の会場であり石川県政記念 しいのき迎賓館で取材した三菱・ランサーエボリューションVI(CP9A)

    三菱・ランサーエボリューションVI(CP9A)

そうして手に入れたランサーエボリューションVI(CP9A)は、1999年に発売されてすぐの個体だったという。
当時のランエボはWRC(世界ラリー選手権)で勝つことを命題として毎年のように性能アップを繰り返していた時期。前モデルのランエボVと型式はおなじではあるものの、フロントナンバー位置を横に移動したりフォグランプを小径化することでフロント開口部を広げて冷却性能を高めたり、リヤウイングを2段化するなどして空力性能を向上させたりと、さまざまな部分でバージョンアップが図られているのが特徴となっている。

いっぽうで、足まわりは乗り心地の悪さが不評だった前モデルよりもマイルドな方向に味付けが変更されたというが「メーカーが改良したと謳っているんだから、乗り心地は良いに決まっているんですよ。気にならないと思えば気にならない。そんなもんです」と曖昧な回答の石堤さん。何かを隠しているように見えたので、実のところはどうなのかを尋ねると「“どちらかというと"…普段使いしずらい部類に入る…“かもしれない"」ということだった。曖昧な表現を駆使した、実に素晴らしい回答である。

それほど乗り心地が気になる理由のひとつは、後席のチャイルドシートに3歳のあきと君が座るからだ。大きな段差を越えたときの振動でビックリさせてしまうのではないかと、毎回ヒヤヒヤするのだという。しかし、当の本人であるあきと君はどこ吹く風でくつろいでいるとのこと。
「ランエボのことを悪く言いたいわけじゃないんですけど、乗り心地だけじゃなく車内も結構うるさいんですよ。なのに、長距離を走ると息子は必ず寝るんです。ふと気付くとスースー寝息を立てているから、我が息子ながら『この環境でよく寝れるな〜』なんて思っちゃいます(笑)」
石堤家の駐車場にはファミリーカーとしてシエンタも停まっているそうで『どちらでお出掛けに行きたい?』と尋ねると、 絶対に『ランエボが良い!』と返ってくると嬉しそうに教えてくれた。血は争えないというのは、こういうことだ。

取材に同行してくれたあきと君にどこが好きなのかを聞いてみると、内装にスーパーマンの布張りが貼ってあるところだと、小さな人差しがそこを指した。
納車したタイミングで産まれることが分かっていたため、車内で退屈してしまわないようにと、おそらく男の子が好きであろうスーパーマンの柄を選択したのだという。
「ちなみに僕は、ガンダムのような見た目が好きです」
正義の味方が好きだというのは、幾つになっても変わらないのだ。そして、車内には限定品だったというガンダムグッズもしっかりと飾られていた。

では具体的にどんなところがガンダムに似ているのかと聞いてみると、折り紙を折ったかのように直線的に入ったエッジやボリューム感満点のワイドフェンダーにより、全体的にゴツゴツした印象を受けるボディだという。また、長方形のライトとその下の丸いフォグランプ、逆台形をしたグリルの配置はまさに“ガンダム顔"だと絶賛していた。とくに、左斜め前から見た角度が1番そう感じるそうで、メカメカしさはランエボならではだと話してくれた。
「マッチョ感というんですかね〜。スタイリッシュとも無骨とも違う、ランエボ!という派手さがあると思っています。ランエボ乗りの方はスポーツ系ホイールを履く人が多いんですけど、自分的にはこの見た目の派手さにホイールが負けにようにメッシュ系の金ホイールを履かせているんです」

ホイールのほかにも、ウイングの端に貼ってある“EVO"のステッカーはお気に入りのワンポイントという。小学生の頃に見たラリーカーに三菱のマークが貼ってあったのを思い出し、友達に作ってもらったそうだ。
そして、なんといっても1番惚れ込んだのはパワフルな走り。搭載されている4G63型エンジンは石堤さんを虜にされたと教えてくれた。
「まるでワープするように加速していくんです。所有して結構経ちますが、高速道路でアクセルを踏むと、3000回転ちょっとからブーストが効きはじめて、一瞬でもうここまで来たのかと未だに驚くことがあるくらいですから(笑)。大排気量のセダンというイメージを持ってもらうと分かりやすいかもしれません。かといって低速域が弱いというわけでもなく、分厚いトルクがあるのも優れているところです」

さらには、自分のタイミングでクラッチを切り、加減速できるのも運転していて楽しい理由のひとつだということだ。
石堤さんは言う。片側2車線の道路でUターンを1回でできないほど小回りがきかなくても、素ガラスのため直射日光で肌がジリジリしても、マフラーのサイレンサーが劣化していて奥様に近所迷惑と言われても、それでもこのクルマに乗り続けるのは、乗ることでそれ以上の幸せを感じることができるからだという。

  • GAZOO愛車取材会の会場であり石川県政記念 しいのき迎賓館で取材した三菱・ランサーエボリューションVI(CP9A)

    三菱・ランサーエボリューションVI(CP9A)

「ぶっちゃけ、手放そうかなと考えたことはありますよ。子供にお金がかかるようになるし、経済的なクルマとは言えませんしね。だけど、手放した後のことを考えたときに、このクルマがいない生活を送る方が自分にとってマイナスとなる部分が大きいと思ったんです。人気のあるクルマですから、また買い戻そうと思ってもその時には自分には手の届かない値段になっていて一生乗れないだろうなって」

息子のあきと君が運転免許を取得したら、もし可能であるならばこのランエボVIを受け継ぎたいという石堤さん。自分がこのクルマに乗って経験した楽しさを彼にも味わってほしいのだ、と。
人生の転機に側にいてくれたこの愛車と、次はどんな思い出を作っていこうか?と希望に満ち溢れた表情で話してくれた。

取材協力:しいのき迎賓館(石川県金沢市広坂2丁目1-1)
(⽂: 矢田部明子 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]

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