18年の付き合いで自分の体に馴染んでいる『ランエボ』という贅沢な趣味

  • GAZOO愛車取材会の会場であり石川県政記念 しいのき迎賓館で取材した2006年式の三菱・ランサーエボリューションGT(CT9A)

    2006年式の三菱・ランサーエボリューションGT(CT9A)

1台のクルマに長く乗り続けるオーナーが、乗り続ける理由のひとつとしてよく挙げるポイントが『自身とのフィーリングの合致』だ。運転席に座った瞬間の安心感や、エンジンの鼓動、アクセルやステアリングを操作した時の挙動など、他にはない一体感が得られたか否かが、その要素といえるだろう。
そんな波長の合う理想的なクルマと巡り会い、2006年式の三菱ランサーエボリューションGT(CT9A)に新車から乗り続けているのが『よ〜いち』さんだ。

『ランエボ』や『エボ』といった愛称で親しまれているランサーエボリューションシリーズは、WRCに出場するためのホモロゲーション取得モデルとして1992年に限定販売されたのが始まり。この第一世代となるⅠ~Ⅲを皮切りに、第二世代のⅣ~Ⅵ、第三世代のⅦ~Ⅸ、そして最終モデルのランエボⅩまで実に四世代に渡って10機種ものバリエーションを生み出してきた。
よ〜いちさんが乗るのは第三世代のラストを飾るランエボⅨ。円熟の域に達した名機4G63エンジンを搭載し、ランサーをベースにした最後のモデルとしてプレミア価格で取引が行なわれている人気モデルだ。

よ〜いちさんがそんなランエボⅨを手に入れたのは2006年のこと。新車で購入して以来ずっと乗り続けているというから、その愛着の深さは理解できるはずだ。
「免許を取得した当時はインップレッサ(GC8)が欲しかったんですよ。でも両親から『はじめてのクルマなんだから安心できるトヨタ車にしなさい』って言われて、カローラワゴンの4WDを買ったんです。カローラワゴンも良いクルマだったんですが、やっぱり若い頃ってスポーツカーが欲しくなるじゃないですか。住まいが雪国なので、4WDのスポーティカーだったら冬場も遊び倒せるし。そんな思いを3年くらい眠らせていたんですが、21歳の時に地元ディーラーでランエボⅥの新古車が出てきたので、カローラワゴンから乗り換えることにしたんです。結局そのランエボⅥには7年くらい乗ったんですが、ちょっと落ち着いたクルマに変えようと思ってエルグランド(E51)に買い換えたんですよ。けれど、感性に響く走りだったか? と自分に問うと…そうではありませんでした。1年も経たないうちに父に譲って次のクルマを探すようになっちゃったんです」

新たなクルマを探しはじめて候補に挙がったのは以前の愛車だったランエボと同様の4WDスポーツモデルで、特に免許取得時に欲しかったインプレッサ系に注目していたという。
ところが、試乗車としてディーラーに用意されていたインプレッサ(GDB)を運転してみたところ、確かに速いけれども何かが違う…ランエボⅥに乗っていた時に感じていた高揚感がないことに気付いたのだという。その結果、当時新車で購入できたランエボⅨに試乗し、購入を決意するという流れになったそうだ。

もちろんランエボとは言っても第二世代のⅥと第三世代のⅨでは、ベースモデルとなるランサー自体がモデルチェンジによって異なっているし、活躍の場もWRCから全日本ラリーやスーパー耐久といった国内レースに向けた進化を果たしていた。それでも、よ〜いちさんはかつての愛車と試乗した新型のランエボに“おなじニオイ”を感じたのだという。
「開発コンセプトの更新があったのかもしれませんが、納車された直後に運転席に座った感覚は、ランエボとしての本質は変わっていないなって思いました。インプレッサを試してみて感じたような違和感もなく、すごくシックリと体に馴染んだっていう感覚ですね。やっぱりランエボはランエボの血統で進化し続けているから、型式は違うのですが同じ感覚で乗ることができたんだと思います」

購入して2年ほどはシーズン毎にサーキットへ持ち込み、スポーツ走行を楽しんでいたというよ〜いちさん。現在施されているカスタマイズは、結婚以前に行なったものがほとんどで、キレイな状態が保たれているホイールなども、すでに15年以上が経過した当時モノだというから驚きだ。

しかし結婚を機にその付き合い方は一変することになる。というのも「せっかくエボに乗っているんだから、箱根ターンパイクを走ってみたい」と思い、奥さんとともに箱根旅行を計画して愛車で出かけたのだが、奥さんから「脚が硬い」「リクライニングが全然倒れない」といった不満が爆発してしまったのだ。それ以降は2人でランエボⅨに乗ることはなくなってしまったという。

こうして乗る機会がめっきり減ってしまったランエボⅨは、現在の自宅から少し離れた実家が保管場所となっていて、年間の走行距離は1000kmほどまで激減。しかし気が向いたらいつでも乗り出せるように車検は欠かさず、整備も万全な状態をキープしているという。
「ランエボに搭載されている4G63エンジンって、モッサリとしているんですが機械っぽさがすごく強いと思うんです。細かく進化はしているんですが、基本設計は30年以上も前のエンジンだからアナログ感が強いのかな。けれど、そんなフィーリングが好きで購入したわけですから、最終仕様の4G63を搭載したこのランエボⅨは一生の宝って感じですよ」

宝物と表現するように、エンジンルームは新車から18年が経過しているようには見えない美しさ。油脂分が抜けて白化しがちな樹脂パーツなども新車のような状態をキープしている。また結婚以降は走行距離が伸びていないため、オドメーターが示す数値は6万キロを下回り、極上のコンディションが維持されているのだ。

ボディも純正ペイントにくすみや水垢、劣化も無い状態。このコンディションをキープできているのは、乗るごとに洗車を行ない、拭き取りをしっかり行なうことを心がけているから。さらに屋根下保管で、紫外線に曝されていないということも功を奏しているだろう。

インテリアには追加メーター等をセットしているが、純正で採用されているMOMOのステアリングもキレイな状態で残される。外装やエンジンまわりと同様に劣化が見られないのは、行き届いた清掃と適切な保管を心がけているからこそで、インテリアの写真を見ただけでも、これまでいかに大切にしてきたかが伺える。

購入当初はサーキットも走っていたということで、ステアリングコラムにはブースト計、センターパネルには油圧や油温、水温計が装着されている。ダッシュボード上に目立つように取り付けるのではなく、専門店がリリースする専用パネルを使うことで、なるべく目立たないように装着しているのはよ〜いちさんのこだわりだ。

スポーツカー好きからは羨望の眼差しで称えられるが、奥さんからは不評となってしまった純正のレカロシート。大きく手を加えることなくオリジナルの状態を極力キープしているというインテリアは、現在となっては貴重な存在と言えるだろう。

「当初は購入したディーラーで車検やメンテナンスをお願いしていたんですが、数年前から地元の専門店で作業をお願いするようになりました。もともとそんなにイジっていなかったのですが、現状キープを心がけているって考えを理解してくれているので、安心して預けることができますよ。ただ、2023年はエボとインプの集まるイベントに顔を出しちゃって、いろんなオーナーさんのクルマを目の当たりにしたら、カスタマイズ欲が刺激されちゃって。まずは足まわりのリフレッシュでもできればなって考えるようになっちゃいました」

そんなよ〜いちさんが結婚後、サーキット走行を卒業したタイミングではじめた趣味がカメラ。愛車のランエボⅨをカッコよく撮影したいという欲求に駆られるようになったのがキッカケだったそうだ。年間1000kmほど伸びる走行距離は、気晴らしや撮影スポットを巡るドライブによるものだという。
「今はファミリーカーと、自分のアシとして軽トラックも所有しているので、ランエボⅨには家族との予定がない休日にしか乗らないかな。趣味のクルマと言っても、それほど乗っていないこと考えると本当に贅沢な趣味なんだと思っています。でも、ランエボⅨを手放してしまったら、二度とこのフィーリングを味わえなくなっちゃうじゃないですか。だから自分で運転できる限りは大切に乗り続けていこうって思っていますよ」

  • GAZOO愛車取材会の会場であり石川県政記念 しいのき迎賓館で取材した2006年式の三菱・ランサーエボリューションGT(CT9A)

    2006年式の三菱・ランサーエボリューションGT(CT9A)

古くからモータースポーツはクルマの進化を支える開発の場であると言われている。既存の技術を洗練し、新たなアイディアを試す実験場としての機能を有し、そこから生まれた技術や発想によって熟度を増すごとに各種性能が向上していくからだ。
そんなモータースポーツの場で切磋琢磨を14年もの間コツコツと積み重ねてきたランエボだからこそ、世代を跨いでもオーナーの琴線に触れるクルマとして存在できていたのだろう。
よ〜いちさんがランエボⅨから感じ取ったのは、そんなクルマ作りに携わるエンジニアの真摯な心だったのかもしれない。

取材協力:しいのき迎賓館(石川県金沢市広坂2丁目1-1)
(⽂: 渡辺大輔 / 撮影: 土屋勇人)
[GAZOO編集部]