13系クラウンに“沼った”オーナーのこだわりカーライフ
世の中には、特定の車種やモデルだけにこだわり、何台も乗り継いだりグレード違いの複数台を集めて所有したりするオーナーが存在する。そんな方々をクルマ好きとしての敬意を評して“沼にハマっている”と表現させていただくが、1994年式トヨタ・クラウンロイヤルサルーンG(JZS135)で取材会に参加していただいた田中さんは“130系クラウンの沼”にどっぷりとハマりきったカーライフを送っているオーナーさんだ。
「祖父は初代の観音クラウンや3代目の50系に乗っていたんですよ。そして父も自分が幼い頃に11系を購入し、いろいろなところへドライブに連れて行ってもらった記憶があります。その後、11系からGS131に乗り換えたんですが、そのクラウンは僕が免許を取ったときに譲り受けて、今も大切に所有しています」
祖父の代から3世代にわたってクラウンを乗り継いできたというから、もはやクラウン好きに育ったのは必然とも言えるだろう。
取材当日にお持ちいただいたアルバムには、クラウンとの思い出がぎっしりと詰まっていた。自身の歴代所有車両はもちろん、子供の頃にドライブに連れていってもらった父の11系クラウンなど、3世代に渡る田中家とクラウンの歴史を見ていると、田中さんが13系クラウンにこだわる気持ちもひしひしと伝わってくる。
1955年の登場から現在まで続くトヨタの最長寿ブランドであり、日本を代表する高級車として知られるクラウンだが、そのなかでも田中さんが乗る13系はちょっと複雑でレアな形態のモデルといえる。
というのも、一般的な需要が高かったハードトップモデルが14系へとフルモデルチェンジした後も、法人需要が多かったセダンに関してはマイナーチェンジのみで継続販売されたため、モデルカウントがハードトップ系は8代目、セダンでは8代目と9代目として数えられているのだ。
田中さんの愛車はそんなセダンの9代目にあたり、企業の社有車やハイヤーなど、法人車両として登録されることが多かったモデル。エンジンは耐久性の高さに定評のある2JZ-GEを搭載している。
「父から譲り受けたGS131に乗るうちにすっかり130系クラウンにハマってしまったんですが、2リッターの1Gエンジンを積んだGS131よりも少し排気量が大きいモデルが欲しくなり、3リッターの7Mエンジンを積んだMS135を追加したり、MS137に乗り換えてみたりしましたね。今はイベントなどでたまに乗る父から受け継いだGS131と、日常の足として活躍してくれるこのJZS135の2台に落ち着きました」
13系クラウンに搭載されるエンジンは、事業者向けには燃料費が安いディーゼルやLPGが用意される一方、前期の普及モデルには直列6気筒2リッターの1G-GEをはじめ、スーパーチャージャーを搭載する1G-GZE、直列6気筒3リッターの7M-GE、V型8気筒4リッターの1UZ-FEなど豊富なバリエーションが採用されている。
さらに、田中さんの愛車とおなじ直列6気筒3リッターの2JZ-GEや、2.5リッターの1JZ-GEを搭載しているモデルも存在するのだ。
車歴のほとんどが13系クラウンという田中さんが感じる“13系ならではの魅力”を伺うと、バブル時代の贅沢な作りが挙げられるのだとか。
特にスタイリングは5ナンバーモデルと3ナンバーモデルで外板パーツが異なるなど、それぞれクラウンとしてのアイデンティティを表現しているし、内装の雰囲気やゆったりとした乗り心地なども優雅かつ気品に溢れていて所有欲を満たしてくれるという。以後の進化したクラウンとは違い、クラウンである誇りが随所にみられる最高傑作と考えているそうだ。
また、シートアレンジなどもこのクラウンの魅力だという。幼い頃に親しんだ11系クラウンがベンチシート&コラムシフトだったこともあり、シートと足元の広さがドライブの楽しさを際立たせてくれたという思い出が焼き付いていたという。そんな印象深いシートレイアウトが備わっている点も、このクルマの購入を決断するきっかけになったのだとか。
「カスタマイズ好きな方には『ベンコラ』って憧れのキーワードじゃないですか。その点は僕にとっても同様ですね。不思議とコラムシフトの方が違和感なく運転できるんですよ。それに足元も広々しているから、変に圧迫感を感じることなくゆったりとした乗り心地を味わえると思うんです。のんびり走るなら、やっぱりベンコラのクラウンは最高の1台ですね」
ちなみにこのJZS135は、それまで乗っていたMS137クラウンハードトップのATが不調になってしまい、買い替えを考えた時に見つけた個体。一時抹消済みだったものをネットで見つけ、引き取りから登録まで自分でおこなった思い入れのあるクルマだという。
「前に乗っていたMS135もATトラブルを経験し、12系クラウンからミッションを乗せ替えたんですよ。そのあとに購入したMS137は一度エンジンを乗せ替えていたんですが、今度はミッションがおかしくなってしまい、どうせ普段から乗るし、長く所有するなら年式の新しいJZエンジンを搭載したモデルもいいかなって思っていたんです。そんな時に偶然見つけちゃったので、引き取りに行くしかないわけですよ(笑)」
そして、クルマを引き取ってきて整備や書類の確認を行なっていたところ、自賠責保険の証書に記載された以前の所有者がトヨタ自動車系列の会社名義だったのも、田中さんのマニア心をくすぐったポイントだったという。
「レースのシートカバーやカーテンなども残されていたってことは、たぶん役員専用車だったんじゃないかなって。購入時は8万4000キロほどの走行でしたが、トヨタ自動車系列の役員専用車だったとしたら、しっかり整備されているだろうなって」
田中さんがこのクルマを手に入れた2009年からの走行距離は14万キロ弱で、現在オドメーターが指し示す走行距離はおよそ22万キロ。油脂類の交換といった通常メンテナンスのみで現在までエンジンやミッションの不調は見られず、まだまだ絶好調を維持しているという。2JZ-GEエンジンの頑丈さとともに、前の所有者による整備が功を奏しているのだろうと想像しているそうだ。
13系クラウンに対する並々ならないこだわりがある田中さんは、カスタマイズを施すのではなく、セダンの標準装備であるフェンダーミラーや純正ホイール、車高に到るまで可能な限りオリジナルの状態を維持し続けているのもポイントのひとつだという。
特にクラウンやセルシオなどの足まわりに関しては、経年や過走行でのトラブルが懸念される純正エアサスを他グレードのスプリング式サスペンションに変更するオーナーも少なくない。しかし田中さんは、純正のあるべき姿を維持し続けることを重視し、エアサスを貫いてそのまま残すことで13系クラウンらしい乗り心地を楽しんでいるそうだ。
「これまでおこなった整備と言えば、ロイヤルサルーンGの持病でもあるエアサスの故障と、ハイトセンサーの交換くらいですね。ボディやフレーム、エンジンなどは耐久性が高いのですが、やっぱり純正エアサスはネックになってしまうので、専門業者でリペアしてもらったエアサスユニットを予備パーツとしてストックしています。まだまだ乗り続けるつもりでいるので、ウィークポイントはすぐに直せるように準備していますよ」
もちろん、これだけ単一モデルに執心して隅々まで調べ尽くしているだけに、トラブルの解消法やメンテナンスの注意点なども熟知しているし、経験を積むことで結果として長く乗るノウハウも蓄積されている田中さん。そういうところも、どっぷりとクラウン沼にハマっているという証拠と言えるだろう。
「13系以降のクラウンもいいクルマだとは思うんですが、やっぱりバンパーがしっかりと残っているクルマが好きなので、ギリギリで17系までが許容範囲になっちゃいますね。そして、これまで15系とか17系、18系にも乗ってみたことはありますが、走りに関していえば2JZを搭載しているこのJZS135は世代の新しいクラウンと比較しても遜色ないですし…そう考えると、積極的に乗り換える理由が見当たらないんですよ」
デザインと質感、さらにパフォーマンス面でも理想と言えるのはJZS135。そして、思い出の詰まったGS131は今後も手放すつもりはない宝物。そんな13系クラウンマニアが導き出した答えは、当時らしさを残すGS131と近代スペックのJZS135という、2つの楽しみ方を満喫する贅沢なクラウン二刀流というわけである。
取材協力:しいのき迎賓館(石川県金沢市広坂2丁目1-1)
(⽂: 渡辺大輔 / 撮影: 土屋勇人)
[GAZOO編集部]
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