あと30年は乗り続けたい、RX-7と共に歩むロータリースポーツカーライフ
まだ誰も知り得ぬ、やがて歴史的な名車となるクルマ。
その初期型を新車で購入し、ずっと所有し続ける。それは多くのクルマ好きが憧れる、ひとつの理想形だ。
『cvs01』さんは1992年にFD3S型のマツダRX-7、いや厳密には『アンフィニRX-7』を購入し、貴重な『宮城33』の二桁ナンバーを維持する、まさに理想を現実にしたお人である。
なじみのディーラーから“博物館レベル”と評される良好なコンディションを保ちながら、一方で「たまには乗ってやらないと調子悪くなりますから」と、晴れた日にはシャッター付きのガレージからRX-7を引っ張り出す。愛車と接する距離感は、実に絶妙だ。
そんなcvs01さん、人生初のマイカーはFD3S型RX-7ではなく、そのひとつ前のモデルであるFC3S型のRX-7であった。
「私は東京出身で、大学進学を機に宮城に来たんですけれど、免許を取ったのが23歳の時でした。それで何かクルマを買おうと思ったところ、後輩や知人からしきりにセブン(FC3S)を勧められまして。確かに見た目もカッコ良いし、当時流行ってましたから購入することにしたんです。それから7〜8年乗って、そろそろ後継モデルが出るかもなぁと思っていた頃に、マツダがル・マン24時間耐久レースで優勝したんですよ!」
マツダが4ローターエンジン搭載のグループCマシン『787B』の参戦で、日本メーカー初のル・マン24時間耐久レースで総合優勝を果たしたのが、1991年の6月。cvs01さんは「今もその時のレースをYouTubeで見返すのが我が家の恒例行事です」と語る。それほどまでに心を昂らせ、世界を制覇したロータリーエンジン車に自分も乗っているということに、強い誇りを持つようになっていった。
そしてル・マン制覇の興奮が冷めやらぬ1991年10月に、FD3S型のRX-7がデビュー(発売は12月)。FC3Sより流線形を強めたスポーティなスタイリングを写真で確認すると、cvs01さんはこれだ! と確信。1992年1月に初年度登録を済ませ、いわゆる『1型』の中でもごく初期の新車を手に入れたのであった。
「FCはFCで気に入っていましたけど、FDのヌルッとした感じが好きなんですよね(笑)。ボディカラーの黄色を選んだのは、実は母がキッカケでした。母は昭和10年生まれの女性には珍しくクルマが好きで、昭和28年に免許を取ったことを昔から自慢していました。その母がFDのカタログを見て『この黄色カッコ良くない!?』って言ったんですよ。母はもう高齢だったので自分で運転するのは無理でしたけど、助手席に乗せて送り迎えとかをしてあげましたね」
そうして親孝行に努めたcvs01さんは、もちろんその他にも勤務先であれ、冠婚葬祭であれ、どこへ行くにもFD3Sで出かける生活をスタート。13B-REWエンジンが奏でるロータリーサウンドをBGMに、理想のカーライフを謳歌してきた。
今も仙台から南三陸町に定期的に出かける機会があるそうで、天気さえ良ければ往復で200km弱のドライブを楽しんでいる。ちなみに燃費は高速主体で、だいたい8km/Lといったところだそうだ。
車種的にはカスタマイズも似合うはずだが、cvs01さんは基本的にノーマルで乗ることを重視。それはcvs01さんなりの確固たる考え方に基づいている。
「クルマが重たくなるようなことをするのがイヤなんですよね。物理法則に従って考えれば、車重が重たくなることがクルマに良くないのは明らかじゃないですか。シートやホイールは交換してありますけど、手を加えるなら純正よりも良くなることしかしたくないんです」
10年ほど前にエンジンやタービン、トランスミッションのオーバーホール、エクステリアの全塗装などを含む、大掛かりなリフレッシュを実施。その時にホイールはBBS製の17インチに交換したが、BBSを選んだのはRX-7の限定車や特別仕様車に採用例が多かったからだ。つまりカスタマイズというよりは“ノーマル上級移行”といったイメージである。
同じ理由から、経年変化でヘタってしまった純正シートは、運転席、助手席共にレカロ製のバケットシートに交換。純正のフォグランプやリヤスポイラーも装着するなど、ノーマル+αの正統派ファインチューンを楽しまれているご様子だ。
タコメーターは、文字盤の目盛りが100回転刻みで細かく入っているのが「1型」の特徴。外装に備わるアンフィニのエンブレムとともに、cvs01さんにとってお気に入りのポイントでもある。
「タコメーターは、一度内部の端子が飛んだか何かで壊れたことがあるんです。でも、お世話になっているディーラーが修理できる工場を見つけてくれました。面倒見のいいところで、すごく助かっています。そこで以前に聞いた話ですけど、60歳からロードスターに乗り始めて、90歳まで乗り続けた方がいらっしゃったそうで、最後はそのクルマをディーラーで引き取ることになったそうなんです。私もいつかそんな伝説めいたエピソードを残せたらいいなと、密かに目指しているんですよ(笑)」
RX-7で街に出ると、珍しい二桁ナンバーということもあってか、クルマ好きの方に話しかけられたり、写真を撮られることも多いという。cvs01さん自身も、人とクルマとの関わりについて見聞きすることが大好きだそうで、ありがたいことに当コーナー・愛車広場も毎日チェックしてくれているという。
「2016年だったと思うんですけど、愛車広場にロードスターを20年来ワンオーナーで乗っていらっしゃる方が紹介されていて、自分と似ているなと思ったんです。だから、いつか宮城で取材会が行なわれないものかと、その機会を待っていたんです(笑)」
そんな願いがひとつ叶ったと喜んでくれたcvs01さん。今回の撮影を、足掛け32年続いてきたRX-7との旅路における想い出の1ページとして加えて頂けるならば、われわれ取材班も本望だ。
ちなみにcvs01さんのご職業は医師。ニックネームの『cvs』は心臓血管外科を意味する“Cardiovascular Surgery”を短くしたものだ。
「職業柄か、同僚はベンツとかアウディなどの輸入車に乗っている人が多いですけど、私はいつだって堂々とRX-7で乗り付けてます。ある時、同僚のお子さんが『ヒヨコみたいな色してるから、ヒヨコ号』って名付けてくれました(笑)。私はそんなヒヨコ号といつまでも走り続けますよ!」
中学生から始めたラグビーも現役バリバリとのことで、地元の年代別チームを牽引するスクラムハーフとしてフィールドを縦横無尽に走り回っている。また、この4月に地元のスポーツランドSUGOで開催された『MAZDA FAN FESTA 2024 IN TOHOKU』では、“走る国宝”と崇める787Bの耳をつんざくロータリーサウンドを生音で体感。「もう30年頑張れる英気をいただきました!」と笑顔がほころんだ。
ぜひ、787Bの動態保存に負けない気迫とスピリットで、RX-7を誰よりも愛し、慈しみながら、これからもひとつひとつ想い出を積み重ねていっていただきたい。
(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:未来学舎 KIBOTCHA(宮城県東松島市野蒜字亀岡80番)
[GAZOO編集部]
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