S660オーナさん、色々なクルマに乗ってみてわかった。僕はスポーツカーが好きだったんです!
カーゲームの『グランツーリスモ』をキッカケに、いつかはスポーツカーに乗ってみたいと思うようになったという『ふじ』さん。しかし、その一歩がなかなか踏み出せずにいた理由は、金銭的な問題や日常使いでの利便性、そして何より「自分に上手く乗りこなせるのか?」という不安があったからだそうだ。
せっかくスポーツカーを購入したとしても、自分がオーナーだとクルマが退屈してしまうのではないか? という謙遜の気持ちが心の片隅にあって、中古車雑誌を開いてはページを閉じる日が続いたと話してくれた。
「私が一番大事にしているのは『クルマに乗っていて幸せになれるかどうか』なんです。今までも、これからも、この気持ちだけは大切にしていこうと思っているんです」
当初、ふじさんはクルマにはほとんど興味がなかったという。なぜなら、クルマというのはあくまでも職場やスーパーまでの移動手段で、動いて止まれば何でもいいと思っていたからだ。初めての愛車は、中古車屋さんで安く売っていたトヨタ・スターレット。主な購入理由は、ある程度荷物を積んでも人が乗れるからとのことだった。今思えば加速やレンポンスといった性能面よりも、如何にコスパ良くクルマに乗るか、ということに重きを置いていたのだとか。
そんなふじさんが、愛車にスポーツカーを選んでみよう! となったのは、とあるキッカケからだった。
「クルマって、実はすごく面白い乗り物なんじゃないか? と気付いたのは、グランツーリスモだったんです。ゲーム内でプレーしていくうちに、それぞれに個性があって、走らせるシュチュエーションやドライバーの乗り方によって、まったく別の動き方をするというのがすごく楽しかったんですよ」
そう感じ始めたときに、偶然にも日産・スカイラインGT-R(BNR32型)の助手席に乗る機会があったそうだ。グランツーリスモで何回も運転したことのあるクルマは如何なものかとシートベルトを絞めると、想像を超える楽しさに愕然としてしまった。
「クルマが加速態勢に入ると、体がシートにめり込むんじゃないか!? というくらい押し付けられて、気付けば数百m進んでいるというあの加速力…。あれは、本当に衝撃的でした。そして、それを体験してからというもの、やはり自分の愛車で加速を体感したいと思うようになったんです」
そうしてふじさんが購入したのは、MT車の三菱・ランサーエボリューションⅦ(CT9A)だった。納車前日の夜、気分が乗れば高速道路で少し踏んでみようか? なんてワクワクしながら眠りについたはずなのに、現実はそんなには甘くなかったと苦笑いして教えてくれた。
「とにかく、加速がすごいんですよ。アクセルをちょっと踏んだだけでグッと出るから、おっかなくてまったく踏めなくてね…。納車日にぶつけるなんてしたくないし、スターレットのときよりも安全運転で家に帰りました(笑)」
中古車ショップの店員さんは、絶対に気をつけること! と何度もふじさんに説明をし、店を出る時も「ゆっくり、落ち着いて! 大丈夫だからね!」と、クルマが見えなくなるまで叫んでいたという。ちなみに、それが余計にふじさんを不安にさせてしまったということを、その店員さんは知る由もないだろう。
こうして走行距離5万kmで購入したランエボは、ふじさんの元で10年をかけて20万km走ったそうだ。最後はサビの発生も酷く、AYCが壊れてしまったため修理不能となって泣く泣く手放したそうだが、このクルマのお陰で幸せな毎日が送れたと感無量の顔をした。
ランエボではサーキットこそ走らなかったが、加速やレスポンスの良さを感じることができた。ゆえに毎日の運転がとても楽しく、遠回りをして通勤したり、用事もないのにコンビニに“何か”を買いに行くことはしょっちゅうだったという。
一番の思い出は、高校の頃の同級生仲良し5人で、秋田県にあるキャンプ場に行ったことだそうだ。ラインアップは、R32GT-R、R34GT-R、セリカ、インプレッサ、そしてふじさんのランエボだ。そして『誰のクルマでキャンプ場に行くか』という話になったとき、誰もが『自分のクルマが良い』と言って引かず、結局それぞれのクルマで行くことになったのは、今でも笑い話になっているという。
それでも、燃費の悪いクルマが5台も連なって走っているのは圧巻だった、と当時を思い出して満足気な表情を見せた。
「こんな風に、自分なりに楽しいカーライフが送れたと思うし、愛情も沢山注いできたつもりです。だけど、このクルマの性能を活かすような走りは一度もできなかったと感じているんです。果たしてそれがクルマにとって良かったのか、それは今でも分かりません」
そう話すふじさんが次に選んだのは、ハイブリッドカーのトヨタ・プリウスだった。燃費も良く、車内は静かで快適。加えて、ある程度の加速もしてくれるし、自分が運転しても持て余している感じはなく申し分なかったとのこと。
ただ、1点。ランエボの時と明らかに違うのは、楽しいと感じる時間が減ってしまったことだという。
「これは決してプリウスが悪いのではなく、僕の求める“楽しい”があるかと言われると…プリウスには無かったというだけなんです」
その頃から、自分にとってクルマを運転している時がいかに大事で、かけがえのない時間だったかを考えるようになったという。増車することも頭をよぎったが、初めての新車として購入したプリウスがあるというのに、それは贅沢だと思い留まること1年…。
結局は、現在の愛車であるホンダ・S660(JW5)を購入する方向で検討に入った。シートにのめり込むぐらいの加速力に魅力を感じていたふじさんにとって、660ccのエンジンパワーに物足りなさを感じてしまうかもと思いながら、ディーラーに試乗を予約したとのこと。
「S660はしっかりとスポーツカーでした。フロントにエンジンがないから頭が軽く、ハンドルを切った分だけ曲がっていくのがすごく楽しいし、狭いけど座った時に包み込まれるようなコックピット感、絶妙な位置に取り付けられたスイッチ類、道路に近い目線など、全てのことが運転を中心に作られていましたから。試乗が終わる頃にはすっかり虜になってしまいましたね。懸念していたエンジンパワーは、安全運転を心がける僕にとって660ccこそが最適な数値だと新たに気付かされたくらいです」
かくして、快適装備が簡略化されたグレード『β』を購入し、ふじさんのS660ライフがスタートした。お財布事情を考えて『β』を選んだわけだが、無限製のリヤウィングやシフトノブ、リザルトジャパン製のNSX限定車TYPE-S風のデザインバンパーなど、カスタムパーツをこれでもかと装着してしまったため、まったくお財布に優しくないクルマになってしまったという(笑)。
ふじさんのお気に入りは、65脚限定で販売された無限製のセミバケットシートだ。自分が抽選に当たるわけがないと、運試しにディーラーで申し込むと、担当が嬉々として当選を教えてくれたのだという。
怯んだのはそこからで、無限のフルエアロ仕様にしたこともあって、既にお財布の余力は尽きていた。費用を工面できるかヒヤヒヤしたのだという。『ま、こんな時のための貯金だ』と切り崩し、なんとか工面できたと胸を張っていた。
「走りの面では、ほどよく車高を落として峠を気持ち良く駆け抜けられるようにと、SPOON製のプログレッシブスプリングを投入。全体的なトルクアップとアクセルレスポンスの向上を図るためにフラットウェル製のハイフローインテークパイプやターボパイプなどを装着しています」
S660は2022年3月25日に生産終了となってしまったため、なるべく走らないようにしようと心掛けていたそうだが、プリウスの走行距離を軽々と上回ってしまったとのこと。
そんな対策も兼ねて、昨年の春にプリウスを下取りに出し、MAZDA3ファストバック(MT車)に買い換えてみたものの…。またまた新古車で売れるくらいの走行距離しか乗っていないとのこと。現在は観念して、2台持ちは不経済なのでMAZDA3の行き先を検討中らしい。
「乗らずにはいられないんですよ。僕にとってスポーツカーというのは、それくらい重要なことだったんです」
取材に同行してくれたS660αオーナーの彼女さんと出会ったのも、スポーツカーが繋いでくれたご縁だと思っている。2人でツーリングに行き、βとαを並べて野蒜海岸で写真を撮ったのは一生の思い出だと話してくれた。スポーツカーに乗って人生が豊かになったと幸せいっぱいの笑を浮かべ、これからも乗り続けていくと顔を綻ばせた。
速さを求める人、快適さを求める人、ふじさんのようにクルマと幸せなカーライフを送りたい人。
クルマを選ぶ基準は人それぞれで、今この記事を読んで下さっている方の中には、まだ自分にピッタリのクルマと出会えていない人もいるかもしれない。だからこそ、気になっているクルマがあったら是非乗ってみてほしい!
だって、そこにはまだ見たことのない景色が広がっているはずですから。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 中村レオ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:未来学舎 KIBOTCHA(宮城県東松島市野蒜字亀岡80番)
[GAZOO編集部]
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