個性際立つ日産 エクサキャノピーで、車中泊しながら満喫する趣味の時間
ノッチバッククーペと、キャノピーと呼ばれる箱型シェルを備えたスポーツワゴン風というう2つのスタイルを併せ持つエポックメイキングな1台として、1986年に登場した日産・エクサ (EXA)。そのデザインを担当したのがアメリカのNDI(Nissan Design Internationalで現在のNDA=Nissan Design America)、アメリカでは1台の車体でクーペ/キャノピーをコンバートしながら楽しめるという斬新なコンセプトで話題を集めた。
残念ながら日本国内では法規上の理由からクーペ/キャノピーの互換使用は叶わなかったが、その傑出した個性は時を経ても色褪せることなく、現在でも一部の熱狂的ファン層によって支えられている。
山口県在住のヨシユキさんも、そんな中の一人。初めてこのクルマの存在を知ったのは20代の頃だったという。
「その頃は71年式ファイアーバード・トランザムや、67年式シボレー・カマロなどアメリカ車や、BAJABUG(バハバグ)仕様の空冷ビートルなどを乗り継いでいました。ノーマルのエクサにはそれほど興味は無かったけど、あるイベントで見かけたカスタム仕様のエクサを見て、あまりの激変ぶりに『これに乗りたい!』と、大きな衝撃を受けたんです」
とは言え、当時は買い換えを決断するまでには至らず、10数年の時間が経過。家庭を持ち、クルマもインパクト重視のアメリカンV8から家計にやさしい国産車に目が向くようになって、ようやくエクサに乗るタイミングが訪れたかと思いきや…時すでに遅し。『中古車の物件不足』という現実に直面する。
「新車の販売台数が少なかったこともあって、当然中古車のタマ数も少なくて苦労しましたね。この時期は仕事の都合で愛知県に住んでいたのですが、ネットや雑誌で探していると、たまたま地元に3台のエクサを持っているショップがあったので、すぐに見に行きました。1台はボロボロ、もう1台はキレイだけどATだったし価格が高すぎたので断念。そして、最後の1台もあちこちサビはあったけど、これくらいなら後で直せるだろうというレベルだったので、思い切って購入を決めたんです」
こうして2008年、待望のエクサキャノピー タイプS(KEN13)との楽しい生活がスタート始まった。がしかし「最初の一年で、ありとあらゆるところが壊れました(笑)」と、ヨシユキさん。その言葉の通り、車体の腐食や電気系統のトラブルなど、アッチを直せばコッチが壊れるといった具合で、マトモに乗ることができないほどの入退院を繰り返したという。
いくら惚れ込んだクルマとは言え、我慢にも限界が…という気持ちになりそうなものだが、ヨシユキさんの反応は少々異なるモノだった。
「これだけお金と時間を使わされて…と、グチの一つも言いたくなるトコロですが、不思議とだんだん愛着が湧いてきたんです。そうやって乗っているうちに世の中も1980年代のネオクラ車が流行りはじめたこともあって、手放したく無いという想いがさらに強まりました。当時はスカイライン・クロスオーバーとの2台持ちをしていましたが、普段はどうしてもラクな方を選びがちで、エクサに乗るのは月に一回程度でした。そこで、調子が悪いのはこのチョイ乗り的な使い方にも原因があるのかもと思い、スカイラインを売ってエクサ一台に絞り、日頃から意識的に乗るようにしました」
ネオクラ車乗りの間では『普段用のアシ車との2台持ち』は珍しい例では無いが、敢えて退路を断つというなんとも大胆な決断を下したヨシユキさん。その後もマイナートラブルは発生しているが、徐々に自分好みのスタイルへとカスタマイズも進行。このクルマを好きになるキッカケとなった当時モノのアメリカ製エアロパーツをネットオークションで探して取り付けた他、アルミホイールもスポーティな5本スポークに変更。長距離走行を見据え、シートもレカロ製のセミバケットタイプへと交換されている。
「リトラクタブルライトは閉めている時より開けている時の方が好きなので、基本はいつも開けた状態にしています(フロントウインカーは180SX用を流用加工)。エアロパーツは、当時モノのクオリティがあまりにもひどくて、チリは合わないしアチコチに浮きも見られたので、以前ネットで見掛けたエクサのオーナーズクラブの方に、静岡の工場を教えてもらって、直接作業をお願いにあがりました」
「リヤシートのスペースを利用して、福岡県のオーディオショップ、サウンドエナジーさんでオーディオシステムを作ってもらいました」
ヨシユキさんがここまでエクサにこだわり続けて来た理由は、見た目のデザイン的な要素だけではない。その最大の理由は、ライフスタイルとの完璧なマッチング。ヨシユキさんはサーファー歴40年というキャリアの持ち主だが、その相棒としてエクサは欠かせない存在となっている。
「荷物が積めて、車中泊ができるんです。愛知にいた頃は毎週のように波乗りに行っていたし、今でも時々宮崎まで泊まり込みで出掛けているんですよ。シートを前方に移動してバックレストを倒し、隙間にポリタンクを差し込んだらベッドの出来上がり。もちろんサーフボードも車内に載せたまま。海岸の近くで寝泊まりする時に、エクサのサイズ感がちょうどイイんです」
180cm近い高身長のヨシユキさんが身体を曲げてエクサのキャビン内で車中泊している姿は少々窮屈そうにも思えるが、本人的には数えきれないほどの場数をこなしてきており『ぐっすり熟睡できます』とのこと。このように普段使いからサーフィンや釣りなどのレジャー、カーイベントへの参加など、すべての要求を満たしてくれるエクサはヨシユキさんにとってかけがえのない存在。所有17年で実走距離は20万km以上。フロントに横置きされたCA16DEエンジンは若干のオイル下がりの兆候が見られるなど、ベストとは言えないコンディションながら、修理の構想はあっても買い替えの予定は一切ない。
「国産車で2ドアのシューティングブレーク的なカタチのクルマって、コイツとホンダのアコードユーロデッキくらいだと思うんですよね。部品取り用の車体を一台持っていますが、それでも消耗品の手配にはいつも苦労しています。去年、ようやくTバールーフのパネルを入れる純正ケースをネットで手に入れられたけど、高かったですネ〜。イグニッションコイルは廃盤で、ミッションやドライブシャフトもヤレが出ているのが気になるトコロ。CAエンジンの限界がきたら、SRエンジンに載せ替えるのもアリかな? とも思っています。自分にとって最後のクルマなので、焦らず付き合って行きますよ」
淡々とした口調の端々にもエクサへの愛情の深さを感じさせるヨシユキさん。
『これから阿武町まで波乗りに行きます。取材に来る前に寄ってみたけど、早朝は波がデカ過ぎました。それでは!』と言葉を残し、ゆっくりと会場を去って行く白い車体。
少々くたびれたエクサと熟練サーファーという組み合わせ。お世辞抜きに、ちょっとカッコよすぎじゃないか! と思えた瞬間だった。
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:秋吉台展望台(山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台)
取材協力:美祢市観光協会/秋吉台観光交流センター
[GAZOO編集部]
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