「17年間いっしょに子育てをしてきた相棒」トヨタ エスティマとこれからも

  • GAZOO愛車取材会の会場である秋吉台展望台で取材したトヨタ・エスティマL アエラス(ACR30)

    トヨタ・エスティマL アエラス

4年前、ATミッションが故障した2003年式のトヨタエスティマL アエラス(ACR30)を1度手放したというオーナーさん。思った以上に修理代がかかるし、17年間ほぼ毎日乗っていたエスティマは、誰の目にも買い換えの時期が明らかだったからだ。

ちょうどその頃RAV4が登場したばかりで、今風のSUVと比べてしまうと、正直なところ年季も感じてしまっていた。それを悟ったのか「充分乗ったよ」と、奥様に声をかけられたという。少し寂しい気はしたが、確かにそうだと“下取り価格3万円”と記載された契約書に判子をついたという。

当たり前のことだが、次の日から家の前に止まっていたエスティマがいない毎日が始まる。代車のパッソはエスティマに比べてサイズが小さいからか、家の前がどこか殺風景に見えた。
そして「RAV4が来たら再び賑やかになるだろう」と考えながら1ヶ月が過ぎた頃、心に穴がぽっかりと空いたような、大事なものを失ってしまったような、ギュウッと冷たい気持ちに締め付けられる何とも言えない寂しさに襲われたのだそうだ。

「ダメじゃ…エスティマがおらんのが耐えられん!」
言葉にしてしまうとその思いは抑えられなくなり、急いでディーラーに電話をし、エスティマを買い戻す旨を伝えた。ディーラーマンはRAV4に乗り換えてくれないのかと残念がり、そんなオーナーを見たご家族は呆れた顔をしていたとのこと。

そして、エスティマが手元に戻ってきたのは良かったが…。
未練を断ち切るためとはいえ、愛車歴10年に突入した時に地図データの更新ができなくなって新調したパナソニックのナビや、よりスポーティーに見せたいと16インチから17インチにサイズアップさせたエスティマ50系の純正ホイールを、売却時にわざわざ取り外して中古パーツ店に売ってしまったことを後悔したという。

「ATミッションのみの修理を予定しちょったんですけど、いろいろなところにガタがきちょって、結局エンジンを降ろそうっちゅうことになってしまったんです。それじゃったらと、アーム類と足まわりのブッシュを交換して、カヤバのローファースポーツショックアブソーバとローハイトスプリングを装着してもらいました。修理代は倍額になってしまったけど、コーナリングはロールせずに安定して走ってくれるからさらに楽しくなったし、これはこれで良かったのかなと思います」

『何が?』と突っ込みたそうな奥様の表情がチラリ見えたが、オーナーの気持ちも、奥様の気持ちも何となく分かるので、気付かなかったフリをすることにした。それが大人というものだ(笑)。

ちなみに、買い戻してからパイオニア製のナビゲーションを取り付けたのだと、自慢気な顔で教えてくれた。

さて、そんなオーナーさんの乗る2代目エスティマは、2003年5月6日にマイナーチェンジが施され『使う心地よさと走る心地よさ』をコンセプトに登場した高級ミニバンとなっている。
息子さんが産まれる1ヶ月前の6月。発売当初には設定のなかった“アエラス”というエアロパーツが装着されているスポーティーな見た目の、8人乗りグレード選んだそうだ。

出会いは、自動車税を支払いに山口銀行へと行った昼下がりのこと。広めの駐車場に、新型車発表と題してノアとエスティマが展示されており、一目惚れしてしまったのだとか。

「横から見たときにフロントバンパーからリヤスポイラーまで一筆で描けるようなボディライン。グレーメタリックという、カタログに載っちょるメインカラーが、スポーティーでカッコええなと思ったんです」

第1子に誕生に合わせてミニバン購入を検討しており、セレナ、エルグランド、オデッセイなどを試乗したが、どれもピンとこないと感じていた時に、これにしようと即決できたのがエスティマだったという。購入から1ヶ月後、ご長男が産まれ、運転席の後ろにチャイルドシートを取り付けて病院まで迎えに行ったのは、今でも忘れられない想い出だという。

「首が座っちょらんから、ブレーキを極力踏まないようにしようと、止まる直前にブレーキを抜きながら運転したんです。手も足も、とにかく全部が小さくて、見ちょると大丈夫なんかな? と不安になるくらいじゃったんですよ。それから21年が経った今、長男は自分のクルマを運転して大学に行くようになりました」

そんなオーナーさん一家は、エスティマに乗って毎年1回は家族で旅行に行くそうだ。山口県内はもちろんのこと、九州や関東、去年の春は京都や淡路島まで足を運んだのだとか。その際、ご長男が旅先で初めて運転したそうで『変わろうか? → いや大丈夫 → 疲れただろうから変わるよ! → 大丈夫』の攻防戦が車内で繰り広げられていたと笑っていた。

「ついこの間まで、チャイルドシートに乗る息子をバックミラーで確認しちょったのに、赤ちゃんじゃった息子はいつの間にか大きくなって、ハンドルを握るようになったんじゃと思うと感慨深いものがあります。いつの間にか、こんなに大きくなったんじゃなと…」
おなじエスティマに乗る会社の同僚が乗り換える際に、綺麗だったヘッドライトを譲ってもらって移植するために2台でディーラーに入庫して作業をしてもらったことなど、振り返れば数えきれないほどの思い出があるという。

エスティマとは一緒に子育てをしてきたという感覚があるそうだ。横向きだったチャイルドシートは縦向きになり、それもいつの間にか使わなくなった。そして中学校への送り迎えをするようになり、ついこの間息子さんは成人した。目まぐるしい環境の変化の隣にはいつもエスティマがいたのだと。
そのせいなのか、匂いや肌に触れるシートの質感、ブレーキの効き具合、ハンドルの重たさなどを感じると、懐かしさや安心感を与えてくれるのだという。実は、エスティマを買い戻した一番の理由はこれだったそうだ。

「走りが面白いクルマなのか? と言われると、通勤車で使っているヤリス(6MT)の方が断然楽しいです。軽いしトルクはあるし、自分で操作しながら走っているという感じがするから。でも、そんな僕がエスティマに乗りたくなるのは、そういうんとは違う、心の安らぎに浸る時間をくれるからなんですね」

移動手段という道具としての範疇を超え『一緒にいるだけでいい』というクルマにはそうそう出会えないとオーナーさんはいう。数年前に、片道12時間かけて行ったディズニーランドまでの道のりはまったく苦ではなく、むしろ、もうちょっと運転しても良かったなと思えたくらいだそうだ。
「購入して4年目の広島旅行の帰り道にエアコンが壊れたり、今回の取材に行く日の朝に洗車をしたら運転席のAピラーから水がぽとぽと滴ってきたり…。結構大事な時に故障するヤツなんです。だけど、母を病院連れて行ったり、息子を卒業式に送り届ける時には故障しないんです。ま、帰り道ではちゃんと故障するんですけどね」

故障するのは、主に奥様を乗せている時だと言う。オーナーが考察するに、そろそろ買い換えても…と提案してくる奥様との相性が悪いのではないか? ということだった。「そう言えば、息子さんの卒業式の帰りにJAFを呼ぶことになった時も…」と、疑惑のエピソードは少なくない様子。
真相は定かではないが、どちらにせよ、卒業式が終わってからバッテリーが上がったわけだから、大したものだとオーナーはエスティマを褒めていた。そんな表情を見ていると、いかにこのエスティマを大事にしているかが伝わってくる。

「現状は実家の車庫に保管して、母の通院の際に月に1、2回、年1回の遠方への家族旅行の時に一緒にドライブするという感じです。だけど僕にとっては、やっぱり車庫におるということが大事なんですよ。最低でもあと10年、僕が60歳になるまでは乗り続けますよ」

生産されて21年が経ったため、最近では純正部品の欠品が出てきたとのこと。長く維持するために、これから手に入りにくくなる可能性のある部品をディーラーの人に尋ねて、ヘッドライトやテールランプなどの灯火類は2セットも購入したそうだ。

「もしかするとよ? あと何年かしたら、運転席の後ろにはチャイルドシートがまた付いちょるかもしれんのよ。だって、孫が産まれちょる可能性があるからね!」
その計算でいくと、エスティマは親子3代に渡って大切な人を乗せることになるのだ。
これらの会話は車内でしていたので、エスティマにも聞こえていたであろう。だから、取材後はきっと帰り道である秋吉台のワインディングロードを快調に颯爽と走ってくれたにちがいない。

(文: 矢田部明子 / 撮影: 西野キヨシ)

許可を得て取材を行っています
取材場所:秋吉台展望台(山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台)
取材協力:美祢市観光協会/秋吉台観光交流センター

[GAZOO編集部]

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