「経済的で壊れにくい」トヨタ 80スープラを長く楽しむための1Gエンジン載せ替えという選択
長年に渡り高性能GTスポーツカーとして高い評価を得ていたトヨタ・スープラの人気をさらに広め、中古車相場にも大きな影響をもたらした映画『ワイルドスピード』。その主人公ブライアン(故ポール・ウォーカー)がストリートドラッグの勝負に負けた代償として、勝者ドミニク(ヴィン・ディーゼル)にスクラップ状態のスープラを差し出した際、ボンネットを開けて「2JZが載ってるぜ、ワォ!」と驚くシーンがあるが、今回紹介する『1G』さんが所有するスープラにはそれとは違った「ワォ!」が…。
なんと、そこに搭載されていたのは、日産のRB26DETTと並んで今なお国産最強エンジンと支持される3リッターの2JZ-GTEではなく、1980年代中期にマークII兄弟や70系スープラなどに搭載されていた2リッター・ツインターボの1G-GTEエンジン。
なぜ2JZ-GTEを捨て、いわば格下とも言える1G-GTEを選んだのか? その理由を探るには1Gさんがこれまで辿って来た、山あり谷ありのカーライフを振り返る必要がある。
「物心ついた時からクルマが好きでした。当時僕は小学生で、母方の叔父が乗っていたエアコンの付いていない前期型DR30スカイラインに影響されて、箱スカとかスカイライン全般が好きになりました。最初に憧れたのはスカイラインGT-R(BNR32)でしたが、それから数年後、雑誌で新型スープラ発売されるという記事を見つけ、しかもGT-Rよりもっと大きなウイングが付くと聞いて驚きました。実車もすごくカッコ良くて、免許を取ったら乗るぞ! と決めました」
中学生になるとドリフトの動画を見はじめるようになり『いつかはスープラを買ってドリフトをしたい』という夢を描いていた1Gさんは、高校を卒業後、整備士を目指して職業訓練学校の整備士科へ進学することとなった。
この時期に免許も取得し、初めての愛車として父親からそれまで実家でファミリーカーとして使われていた90系マークIIを譲り受ける。
そのクルマはハイメカツインカムの1Gエンジンを搭載したAT車だったが、駆動方式はドリフトに適したFRであることに目をつけ、格安で手に入れた1G-GTE+マニュアルミッションへの換装を思い立つ。そして、この大掛かりなDIY作業がキッカケとなり、1Gさんの自由奔放なカーライフが幕をあけたのだった。
「スープラを買う時に備えて、ドリフトの腕をしっかり磨いておきたかったんです。エンジンの載せ換えは整備学校の仲間たちとワイワイしながら作業しました。その頃は大した技術も知識も無かったけど『同じG型だし、配線さえなんとかなればイケるんじゃね!?』ってノリで、授業中もずっと配線図ばかり眺めていました(笑)」
そんな苦労の末に仕上がったマークIIだったが、ドリフトの練習走行中にクラッシュしてしまいあえなく廃車に。次に手に入れた純正5速ミッションの90系クレスタ・ツアラーVもローンを数回支払っただけで廃車となってしまったという。
社会人デビューして間もない経済環境では贅沢を言うワケにもいかず、今度は知り合いから5万円で譲り受けた20系ソアラへと乗り換えた。
しかし、相次ぐ2台の犠牲は無駄ではなく、この時期にはドライビングのスキルも上達し、ドリフトの大会でもたびたび表彰台に上がるまで進化していた。しかし、スピードレンジが速くなればクラッシュのリスクも高まって来るもので、そのソアラも1年ほどで土手に突っ込み廃車となってしまう。
「それでも当時の大会で上級クラスを戦えるくらいにはなっていたので『そろそろ良い時期だろう』と、念願のスープラを購入したんです。2JZターボのRZ-Sグレードで、価格は150万円。5年ローンを組みましたが、5ケ月後にソアラと同じ場所でクラッシュ…しかもソアラの時は土手に突っ込んだだけでしたが、スープラはパワーがあってスピードが出ていたので、横転してしまって全損となりました」
このあとも80系スープラを2台、さらに180SXや90系クレスタを乗り継ぐなど、なんとも凄まじい経験を重ねながら月日が経過。そして10年ほど前に、現在の愛車となっている“車体”を手に入れる。
「エアロトップの不動車をネットオークションで見つけました。激安だったけど誰も競らなかったのはラッキーでした。不動状態なので会社の先輩と一緒に群馬県まで引き取りに行って、実家の納屋に保管していた過去に乗っていたスープラたちのパーツから使そうな部品を移植しました。ちなみにエアロトップが欲しかった訳ではなく、たまたま付いていた車体だったんです。あれ、脱着が結構面倒なんですヨ(笑)。」
このように状態の良い車体にほかの車両から部品を移し替えて組み上げることは、クルマ好きの間では“箱替え”と呼ばれるが、父親のマークIIを恐る恐るイジっていた時とは違い、知識・技術の両面における経験を十分に積み重ねていた1Gさんにとってはすでに造作もない作業。そして搭載するエンジンを吟味して行く中で、ひとつの妙案を思いつく。
目を付けたのは、自身のドリフトデビューを飾ったことでも馴染み深い1G-GTEエンジンだった。
「2JZ の載せ替えは何度もやっていたので、今度は何か違うことがしたいなァと思ったんです。2JZはパワーがあって楽しいけど、その分、ガソリンもタイヤも早く無くなるし、何をするにもパーツ関係が高額。僕はイジるより、とにかく走ることの方が好きなので、タイヤへの負担が少なく、より長く走り続けられる1G-GTEへの換装を決断しました」
「ミッションは僕の乗り方だとスープラ標準のゲトラグ製の6速はギア比が合わないので、アルテッツァ用のアイシン製6速を使っています。シフトレバーの位置がほんの少し後方になるけど、そこまで気にならないレベルです。1Gは高回転域までしっかり回せるし、2リッターだから税金が安いのもメリットですネ」
まるでプラモデルでも組み立てるような調子で語る1Gさん。それゆえ読者の中には場当たり的で荒削りな仕上がりを想像する方もいるかも知れないが、8S6というトヨタ純正ボディカラーで彩られた実車はお世辞抜きにショールームに飾られていてもおかしくないほどの美しさ。
エンジンルームを見てもオイルパンとフロアメンバーとの位置関係から2JZより高さが若干上がっているものの、“切った貼ったで押し込んだ”という無理矢理感は皆無。デザインがお気に入りのトップシークレット製バンパーは高速域での安定性やインタークーラーの冷却効果の高さも実証済みとのことだ。
「僕にとって80スープラは子供の頃からずっと変わらず、一番好きなクルマ。今でもドリフトコースでガンガン走らせているし、オフ会やイベントにも行くので、これからもキレイに乗り続けたいですね。思いつきと勢いで載っけた1G-GTEですが、2023年の秋にはスープラ/ソアラフェスティバルに参加するため富士スピードウエイでまで自走で往復したけど特に不具合は無かったです。上までよく回るし、ほんと良いエンジンですよ!」
今後も、高効率タービンであるIHI製のRX6への交換や、旧車ならではの電装系トラブルを防ぐためにコンピュータをLINK製のECUに変更することなど、さらなるバージョンアップの構想が進められている様子。
1Gさんが理想とするスープラが100%の完成を迎える日は、もうしばらく先の話になりそうだ。
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:秋吉台展望台(山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台)
取材協力:美祢市観光協会/秋吉台観光交流センター
[GAZOO編集部]
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