ハイパワーサルーンに魅せられたオーナーが選んだセルシオベースの『V430-R』とは!?
クルマの購入は人生の中で大きなイベントのひとつとも言える。そのため購入する前には、グレードや装備といった仕様の違いをじっくりと調べたり吟味したりするひとも少なくないだろう。車種によっては限定車が登場することもあり、同じクルマでもその選択肢の幅は大きく広がってくるもの。しかし、中には選択肢として挙げることができないレアなモデルも存在する。
そのひとつが、ディーラーが企画する限定車。限られた地域でのみ販売される車体のため、他府県のユーザーにはその存在がほとんど知られることがないモデルだ。そんな激レアなモデル、2005年式トヨタ・セルシオV430-R(UCF30)の存在を知り、愛車として迎え入れたのがオーナーのASAさんである。
北米でのレクサスブランド設立に合わせて1989年に登場したセルシオは、主に北米をメインターゲットに据えた車体は、ゆとりのあるボディサイズと大排気量を組み合わせた高級サルーンとして日本国内でも販売が開始された。
その3代目となる30系セルシオは2000年にデビュー。V型8気筒の4300㏄のエンジンをはじめ、先進の装備を備えることで、さらに高級車市場でその存在感を高めていったのだ。そんな30セルシオの中でもこのV430-Rは、愛知トヨタとトムスがコラボして誕生した超レアな限定車。30台のみの販売車両で、当時は愛知県在住者しか購入できなかったというから、他府県在住者では知らない人がほとんどだったであろう幻のモデルである。
オーナーのASAさんはそんな超レアモデルの存在を知り、ようやく昨年4月に手に入れることができたのだ。
「これまでは国産クーペやドイツ車など何台か乗り継いでいたんですが、一番長く乗ったのが13年間所有していたBMW・M5(E39)だったんです。ボディはしっかりしているし、高出力のV8エンジンは長距離移動でも快適でした。ずっと乗っていたかったんですが、やはり28万kmを超えたあたりから修理費用も跳ね上がってしまい乗り換えを決意したんです。その時に候補として上がったのが、同じV8でパワーがある高級サルーンの30系セルシオでした」
当初購入した30系セルシオは、2003年式のERバージョンというスポーティグレード。静かでパワフル、そしてその気になれば速いという、BMW・M5と共通するキャラクターは十分に満足できていたという。しかし、インターネットでV430-Rの存在を知った途端、ASAさんの心は一気にV430-Rに引き込まれていったという。
「ERバージョンでも十分に満足していたはずなんですが、さらにその上のパフォーマンスを持つ仕様があると知ったらその性能を体感してみたくなるじゃないですか。調べてみたら外装はトムスのエアロやボディ補強が施され、さらにスーパーチャージャーと専用コンピュータが装備されたコンプリートカーで限定30台。この希少性も心を惹かれた要因のひとつですね」
僅か30台限定であって、プライスも1000万円オーバー。そんなクルマだけに、中古市場での流通は皆無といっても過言ではない。しかしショップに頼みながら根気強く探した結果、ようやくオートオークションに出品された1台のV430-Rと出会い、このチャンスを逃す手はなく即購入を決意したという。
搭載されるエンジンはV型8気筒、4.3リッターの3UZ-FE。スタンダードなセルシオと同様ながら、スーパーチャージャーを組み合わせることで出力はノーマルの280psから354psにまでアップ。最大トルクも43.8kgmから57.0kgmまで高められ、街中での扱いやすさと高速でのハイパフォーマンスが両立されている。エンジンカバーもノーマルでは黒いABS製だったのに対し、V430-Rではスーパーチャージャーに合わせた専用形状に変更したカーボン製へと置き換えられ、さらにトムスのロゴも加えられている。これだけでも十分に魅力的な仕様と言えるだろう。
V430-R最大の特徴は、3UZ-FEエンジンにスーパーチャージャーを組み合わせたトムスチューン。しかし手に入れてすぐに発生したトラブルが、このスーパーチャージャーだったのは想定外の出来事だったという。
「乗りはじめてすぐに、ショップのメカニックがスーパーチャージャーの音が大き過ぎるって指摘してくれたんですよ。点検してもらうとコンプレッサーのベアリングが摩耗してガタが出ていて…。修理を依頼したところ、すでにトムスには補修パーツがなく、さらに製造メーカーでも廃盤になっているという回答で途方に暮れていたんです。しかし、面倒をみてもらっているショップが同型の中古を見つけてくれたため、無事に本来の性能を取り戻すことができました」
「ただしV430-Rもすでに20年選手ですから、色々な不具合は出始めていますね。スーパーチャージャー関連では水冷ポンプが壊れてしまったり、この夏は水温が一気に上昇したこともありました。来年の夏に向けてラジエターの刷新やオイルクーラーの追加なども考えています。購入時の走行距離は11万6000キロでしたが、現在は15万キロほど。このエンジンは耐久性もありますし、ボディも劣化している様子がないので、ちゃんと整備していればまだまだトムスチューンのパフォーマンスが楽しめるんじゃないでしょうか」
エンジンのパフォーマンスアップだけに限らず、トムスコンプリートの存在感はその威風堂々としたスタイリングにも宿っている。特に前後バンパーやサイドステップ、そしてエアアウトレットを設けたフロントフェンダーなど、当時の最先端デザインが取り入れられている。
また足元にはBBS製の19インチ鍛造ホイール、そしてサスペンションはトムス・アドヴォックスでしっかりとチューン。乗り心地はもちろん、スポーツサルーンとして存分に走りを楽しめるパッケージングが与えられている。
また、専用装備にはトヨタのコーポレートマークを無くしたフロントグリルや、小ぶりながらも空力バランスを最適化するためのリヤウイングなども装備。特にフロントグリルは社外品に間違えられることが多く、マークレスがV430-Rの証だと感じるのはその存在を知る人のみなのだとか。カスタマイズ車に見えるが、このスタイリングがフルノーマルという意外性も、V430-Rの満足感を高めているのだ。
「セルシオのボディサイズは5mを超えていますが、運転席からの見切りもいいので運転しやすいんですよ。デザインや質感だけでなく、こういった設計の良さも爆発的に売れた理由なのかなって思いますね。しかもV430-Rだとスーパーチャージャーで低回転域からトルクがプラスされます。ノーマルの4.3リッターでも十分乗りやすかったんですが、さらにトルクが上がったことで街中での乗りやすさがアップしました。これだけでも標準車から乗り換えた価値が十分にあります」
内装に関しては30系セルシオと共通ながら、そもそも当時の最高級車だけにその質感は手を加える必要がないほど。上質なウッドとレザーのコンビネーションは20年が経過した現在も良好なコンディションをキープし、現在のモデルとは違った癒しや安心感も得られる。
V430-R専用装備品でもあるスカッフプレートは、車名部分が発光するギミックもプラス。30台限定ながら細部にまで限定車として価値あるパーツを組み合わせているのだ。トムスコンプリートという付加価値だけでなく、愛知トヨタの本気が随所に練りこまれているだけに、名ばかりの限定車とは異なる希少性を物語っている。
トムスチューンのパフォーマンスを示すポイントと言えるのが、トムスのロゴとともに320km/hまで刻まれたフルスケールメーター。さすがにこのメーターを使い切ることはないものの、運転席に座った際のビジュアル的満足感は圧倒的なのだ。
「センチュリーは運転手が付く最高級車ですが、V430-Rは運転席に座って楽しむ最高峰のクルマだと思いますね。ボディサイズを感じさせない視界や、320km/hメーターなどはドライバーズモデルであることを証明しているのではないでしょうか。乗って楽しむ、本当の意味での最高級車だと思いますよ」
「実はこのV430-Rが見つかるまでは、前に乗っていたセルシオでV430-R仕様を作ることも考えていたんです。だからカタログとか価格表とか、色々な資料をネットオークションで探して買っていたんですが、実車が手に入ったことでこれらの資料は、自分のクルマをもっと知るための資料としての役割に変わりました。愛知県限定という、もともと情報が少ないクルマでしたので、集めたカタログを見て改めてグレード体系なども知ることができて、さらにV430-Rに対する愛情も深まっていますよ」
手に入れてから2年ほどで4万km弱という走行距離は、限定の希少車かつ経年車には多いと感じるかもしれない。しかし、そのパフォーマンスを体感するのがV430-R本来の楽しみ方。大切に飾っておくのではなく、気ままにドライブを楽しむことに価値があるというわけだ。
暇を見つけてはビーナスラインや志賀高原などをツーリングし、関西への帰省にも大活躍しているというASAさんのV430-R。これ以上の満足感が得られるクルマは見つからないというだけに、今日もどこかで、その性能を存分に味わっていることだろう。
(文: 渡辺大輔 / 撮影: 中村レオ)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:山梨県庁 噴水広場(山梨県甲府市丸の内1丁目6-1)
[GAZOO編集部]
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