高校卒業と同時に愛車を購入『トヨタ・セラに乗っていることが自分の証明』
1990年に発売されたトヨタ・セラは『日常生活の枠を超えた胸を躍らせるような体感』を狙って開発されたモデルで、迫力のバタフライウイングドア、そしてガラスを多用した開放的なデザインが最大の魅力であるトヨタの意欲作。発売期間は6年間で1万6000台弱と生産台数は多くなかったものの、その唯一無二の個性に惹かれ、今でも大切に乗り続けている愛好家も多い。
快適性やデザイン性・利便性が追求された様々なクルマが溢れる令和の時代に、オーナーのタクガさんがこのセラを乗るに至った経緯や、セラへの想いについてお話しを伺った。
小さな頃からクルマが好きだったというタクガさんがセラの存在を知ったキッカケは、小学校低学年の頃に『ジェイズ・ティーポ(J's Tipo)』という車雑誌で見かけたことだったという。他と一線を画すバラフライウイングドアが開いている姿を目にして『こんなクルマがあったんだ!!』と、少年の脳裏に強烈なインパクトを残していたようだ。
「運転免許を取ってクルマを買うことになった時、どうせなら珍しいクルマに乗りたいと思ったんですよね。そんな時にYoutubeチャンネルの“ウナ丼”さんの動画にセラが出てきて、それで『そういえば子供の頃に見ていた雑誌でこんなクルマがあったな』と想い出し、本格的にセラに乗りたいなと考えるようになったんです。きっと心のどこかにセラの存在が残っていたんでしょうね」
“他人が乗っていないような珍しいクルマ”という大前提のもと、さらに『5ナンバーサイズの小さめなスポーツ系で、速さは求めないけどマニュアル車で楽しく走りたい』という希望があったタクガさんにとって、セラは条件にピッタリだったというわけだ。さらに、セラを買いたいと思ったのにはもう一つの理由も。
「良いなと思っていたトヨタ86のような、新しいクルマであればこの先も長く乗れるけど、セラは壊れたりとか値上がりしたらもう乗れなくなる可能性が高いので『ここはセラにしておこう』と思ったのもあります」
こうして早速セラを探し始めたタクガさんだったが、一筋縄ではいかない。というのも現存するタマ数が少ないモデルだけあって、なかなか市場に出回らなかったのだ。
「一度は諦めて、他のクルマも検討してみようかなと思ってホンダのビートを見に行こうかなと思っていた矢先、このクルマが市場に出てきたんです。もう行くしかないなと思って、すぐにショップに見に行ったんですが、実物を前にしてみると、特徴的なドアの開閉はもちろん、全体の丸っこくてカワイイ感じに惹かれてしまって、試乗もしないでその場で即、購入することを決めました」
こうしてタクガさんは高校3年生の冬、念願のセラを購入。納車日はちょうど卒業式の日だったそうで、卒業式から帰ってきたらガレージにセラが届いていたのだとか。
「嬉しくてしばらくガレージを眺めていたら、近所のおじさん達が『すげークルマがあるよ』って寄ってきて。セラのおじさんウケはすごく良いですね(笑)」と、楽しそうに当時のエピソードを語ってくれた。
タクガさんが購入したセラは1995年式の5速MT車で、ボディカラーは綺麗なブラック。彼曰く「おそらく以前のオーナーが元々シルバーだったものを純正後期のブラックに塗装したのだと思います」とのこと。
また、走行距離はこの時点で19万kmに達していたが、そこはあまり気にしていないご様子。手に入れてから3年半のあいだに通勤や普段乗り、そしてドライブなどで乗った現在の走行距離は22万8000kmに。タクガさんは年間1万kmペースでセラとの愛車生活を楽しんでいるのだ。
「最初の頃は、ドアを開けるとやっぱり変わったクルマに乗っているんだなって感じてワクワクしていました。それから3年半乗っていますが、今では“ちょっと古いマニュアル車”って感覚で、運転しているのがすごく楽しいです。彼女にも意外と評判が良いんです。けれど、最初の頃はすごい改造車に乗っていると思われていました(笑)」
そう笑顔で話すタクガさんに、ズバリ不満を聞いてみたところ「夏は暑いですね。今年の夏とかは大変でした。しんどかった…」と苦笑い。そう、『全天候型オープン』というキャッチフレーズの通り、上半分はガラスがメインのセラは天候の影響を受けやすいのだ。普段乗りする彼にとって、今年の猛暑はかなり堪えたことは想像に難くない。
しかし、天候をダイレクトに感じやすいのもまた、セラならではの愛すべき個性。愛好家のオーナーにとっては、それを含めてセラというクルマが大好きなのだ。そしてそれはタクガさんにとっても同じで、ステアリングやホイール交換するなど、ちょっとしたカスタムを楽しんだり、壊れたところはしっかりお金をかけて直してあげたりと愛情を持って接している。
「MOMO製のステアリングに交換しています。これは父親が30年くらい前に使っていたもので、ずっと家に置いてあったんです。父親も昔はスターレットやプレリュードなど、スポーティなクルマに乗っていたましたので。そしてホイールは、丸みのある可愛いボディに似合うものが良いかなと、ワタナベ製の8スポークにしてみました。今はこれが一番のお気に入りですね」
ちなみにタクガさんによると、セラのカスタムパーツはやはり多くないそうで、エアロを装着したくても廃盤のものを手に入れるしかなさそうとのこと。そういった背景もあって、現在はこれ以上カスタムする予定はないといった様子。そして、すでに20万kmを走破し、今でも走行距離は増えているので、やはり故障や経年劣化に悩まされる面もあるという。
「メンテナンスはクルマを購入したところにお任せしているのですが、まずはエアコンのエバポレーターがダメになって15万円くらいかけて修理しました。それと、リヤハッチのダンパーが折れたり、パワーウインドウが動かなくなったりと、ちょこちょこ壊れています。最近ではエンジンオイルの減りが早くなってしまって、継ぎ足しながら乗っているみたいな感じですね」
また劣化面では、ラゲッジルームの蓋を兼ねたスピーカーボードもボロボロで、これもできれば張り替えたいのだとか。さらにボディの腐食も徐々に進んでいるようで…。
「知り合いで三菱のギャランに乗っていた方が、ボディが腐ってきて車検を通せなくなって手放してしまったと聞き、僕のセラもちょっと怪しいかなって。以前もボディの下部が錆びてグズグズになり、鈑金屋さんで補修してもらっているんです。また、冬場に実家の飛騨に帰ると雪道になっているので、融雪剤がサビの発生を助長するでしょうしね。元々長野で乗られていたクルマだったようなので、前オーナーがどのくらい防錆対策をしていたかも分からない状態ですから…」
こうなると、やはり同じセラオーナーとの情報交換が有効になってくるわけだが、現状ではセラオーナーの知り合いはおらず、お世話になっているセラを購入したショップ以外、頼れる相手がいないそうだ。
セラに限らず、年式が古い希少モデルに乗り続けるオーナーにとって、有力な情報収集やパーツ共有のツテの有無は大きな課題とも言える。そういった点からも、今後のことを考えると不安が残る様子で…。
「SNSは友達同士でやっているだけで、外向けの発信はしていないんです。ただ、今後は同じ趣味のオーナーさんを見つけられたらいいなと思っています。壊れた時にどうしたらいいのかとか、やっぱり情報共有したいですよね」
そんな悩みを抱えつつも「壊れたらその都度直して、なるべく長く乗っていきたいですね」と、セラとのカーライフに前向きな気持ちを持っている。
「僕がセラに乗っていることで“僕”というと“セラに乗っている人”みたいな感じで覚えてもらえるのが嬉しいです。セラに乗っている自分がアイデンティティになっている部分があるので、なるべく手放したくないという想いがありますね。車検で代車を運転した時に『運転が楽だな』と感じたりしましたが、セラが戻ってきて運転席に座ると、なんだかホッと安心できるんです(笑)」
父親世代のクルマで、今となっては希少なセラをこれからも乗り続けていくためには、様々な困難と向かい合わなくてはいけないかもしれない。それでもきっと『セラと共にある自分』を何より大切しているタクガさんなら、この先も問題を一つ一つクリアしながら愛車ライフを楽しんでいくことだろう。
(文: 西本尚恵 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:山梨県庁 噴水広場(山梨県甲府市丸の内1丁目6-1)
[GAZOO編集部]
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