純正を守り抜く情熱。9年目の相棒180SXと歩むカーライフ
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日産・180SX
1989年から1998年まで生産された日産・180SX。国内ではチューニングやドリフトのベース車として若者に人気を集め、発売から25年以上が経過した今でも現役で走る姿を見かける。しかし、その多くはチューニングが施された個体であり、純正の美しい姿を保つ180SXに出会える機会は、そう多くない。
そんな中で、今回の取材会場となった『さんばしひろば』に現れたのが、サイドステップ以外を後期型の純正エアロパーツで飾った美しい180SX。一目見ただけでも、オーナーが大事に乗り続けているのが伝わってくる車両であった。
オーナーの『タケ』さんは、初めての愛車として9年前に購入して以来、純正で綺麗に乗ることにこだわり続けて日々メンテナンスを重ねてきたという。
タケさんが180SXを知ったのは中学生の頃。『湾岸ミッドナイト』のアーケードゲームで遊んだ時に、クルマはチューニングすると速くなったりカッコ良くなったりするという楽しさを知り、クルマに興味が湧いたという。そして、180SXという存在をはじめて知ったのも、それから程なくしてのことだった。
「中学校には自転車で通っていたんですけど、その通学路で白い180SXを見かけて『カッコ良いな』と思ったのがキッカケでした。でも、その時はメーカーも車種名も知らず、色々と調べて180SXっていうクルマだと知ったんです。当時は父親も『頭文字D』が好きでスプリンタートレノ(AE86型)に乗っていて、僕も『やっぱりスポーツカーはリトラクタブルヘッドライトでしょ』ってイメージがありました。そんな時に見かけた180SXだったので、もう『これだ! これに乗りたい!』って強く思ったんです」
こうして、中学生時代にすっかりクルマ好きなり180SXに夢中になったタケさんは、高校も自動車学科に進学し、三級整備士の資格を取得。さらにその後は、実家から近く馴染み深かった自動車整備専門学校『日本自動車大学校』へと進学する。そして免許を取得した18歳の時、ようやく憧れの180SX探しが始まった。
「中古で探し始めたとき、一番タマ数があったことと、僕にとって理想の個体が後期型だったこともあって、フル後期仕様にこだわりました。最初は速そうなターボモデルが良いかな? と思っていたんですけど、壊れてしまいそうなイメージがあって…。それよりも、NAエンジン独特の吹け上がり方にすごく憧れがあったのでNAモデルに絞って探すことにしました。色は一目惚れした白が良かったですね。そして、中古車サイトで見つけたのがこのクルマというワケです」
タケさんが購入したのは、1996年式の後期型でNAエンジンを積むタイプSグレード。色はもちろん初恋の相手と同じ“白”だ。
「最初は『湾岸ミッドナイト』の世界にも憧れはあったけど、現実の世界で考えるとご法度ですからね。ドリフトなどにも興味はありましたが、大好きなクルマなので綺麗に大事に乗っていきたいなと思ったんです。それに、同じ学生の手でDIYカスタムされたクルマのクオリティを見ると、自分の求めている方向とはちょっと違うと思いまして。NAエンジンはターボモデルと比べればパワーは少ないですが、日常使いではまったく不満はありませんよ」
タケさんが専門学校に4年間通って取得した一級整備士の知識をもとに、愛機の180SXは愛情あるメンテナンスを受け続けてきた。その結果、9年経った現在ではスポーツカー好きなら、きっと誰もが二度見してしまうくらい綺麗で、コンディション極上の一台に仕上がったのである。
「購入時は、もちろん今ほど綺麗ではなかったです。ボディは普通の洗車では落ちない黒ずみなど、水垢がひどかったので、磨いたりスケール除去剤で綺麗にしましたし、擦れが目立ってきた純正シートは保護とドレスアップを兼ねてシートカバーを被せました。ひび割れしやすいダッシュボードは紫外線防止のワックスや光沢剤で保護した上で、ガレージで保管しています。そしてエンジンルームは、プラグコードだけ廃盤になってしまったので社外品にしていますが、劣化で割れてしまったリザーバータンクなどは純正品を購入して対処しています。結局、メンテナンスには100万円くらいはかかっているのではないでしょうか(苦笑)」
そんなタケさんの理想は、購入時に装着されていた純正オプションの『ファインチューニングパッケージ仕様』の180SXを綺麗な状態を維持したままで一生乗り続けることだという。
このパッケージは、ニスモのスポーツマフラーやショックアブソーバー、ステアリング、ストラットタワーバーやリヤアンダースポイラーなどが含まれているものだ。
「ステアリングは擦れが酷かったので張り直しました。サスペンションも装着されていたショックアブソーバーがヘタっていたのでニスモ製に交換しています」と、理想の純正オプション仕様を極力崩さないように手を尽くしている。
「最近では、カセットテープ型のガジェットを使えば、Bluetoothを介して普通に音楽が聴けることを知って、純正のカセットデッキも購入したんですよ! あとホイールは社外品なのですが、これは後期の純正ホイールに似ているデザインで、インチアップされたものを見つけて装着しています。実は、綺麗な純正ホイールも手に入れたんですが、もったいなくて装着のタイミングを窺っているところです。そして、納車時に装着されていなかったサイドステップだけは社外品を装着してもらったんですけど、今は純正サイドステップを手に入れることができたので、塗装して近いうちに装着したいと思っています」と、嬉しそうに話してくれた。そんな姿からも、彼の純正仕様へのこだわりが垣間見える。
この180SXを長く大事に乗り続けるために、数々の対策もされていらっしゃるご様子だ。
「故障診断のコネクターに繋げるモニターを追加して、異常があればすぐわかるようにしていたり、通勤で毎日乗ることでクルマの調子を見ることができるようにしています。あとは純正部品が高騰していることもあって、ネットオークションでストックしたいパーツが出たら購入するようにしています。これまでで一番高かったのは、15万円で購入した新品の燃料タンクだったと思います。でも一生乗り続けるつもりなので、ここで妥協するつもりはないんですよ」
そんなタケさんに、180SXのどんなところが好きなのか伺うと…
「リヤハッチから流れるボディラインはスポーツカーらしくて大好きですし、割れていないダッシュボードが見える内装もお気に入り。NAならではの軽快な吹け上がりも気持ち良いですし、後期エアロのデザインも魅力ですね」
そう語るタケさんの瞳は、少年時代に180SXへ憧れを抱いたときと同じ輝きを放っていた。
ちなみに、タケさんは一級整備士資格を取得後、軽自動車検査協会に4年勤務した後、現在は母校である日本自動車大学校で教員を務めている。整備士の道を選ばなかった理由についても明快だった。
「整備士の仕事も素晴らしいですが、僕は自分のクルマをメンテナンスして綺麗にしていることが何よりも楽しいと思っていたんです。それならば、土日祝日がお休みとなる、車検に関係する法令の方に進もうと思ったんです。それならば自分のクルマをイジれる時間も多く取れるかな? という考えもありました」
「そして、実は専門学校の入学前から、いずれはこの学校の教員になりたいと思っていたんです。この学校って実家からすごく近くて、幼い頃から学校のイベントに行くなどして身近な存在だったんです。教員というのも大変な仕事でしょうけど、それよりも楽しそうだなと思っていました。ですから、学校で教員になるための条件だった『一級整備士』と『職業訓練指導員』の資格を取って、実務経験を積んだ後にこの学校の教員になるという夢を叶えたんです。今は仕事が本当に楽しいですね! 学生達もこのクルマに興味を持ってくれるし、実務経験を活かして車検に通るかどうかの相談などにも乗ることができますからね」
計画的に目標を定め、その夢に向けて着実に進んでいく姿勢。それはまさに、17万kmを超えても美しさを保ち続ける180SXの維持の仕方と重なっている。そして、きっとこれからも理想の180SXを目指して、着実に形にしていくことだろう。
タケさんの手で磨かれ続ける“理想の180SX”が、これからどんな姿へ進化していくのか。楽しみでならない。
(文: 西本尚恵 / 撮影: 中村レオ)
※許可を得て取材を行っています
取材場所: 千葉みなと さんばしひろば(千葉県千葉市中央区中央港)
[GAZOO編集部]
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