「いつかは息子たちに」極上のファミリーカー180SXを楽しむママオーナー

チャイルドシートをつけて通勤や子供の送り迎えに活躍しているのは、美しいガンメタカラーの日産180SX(RPS13)。スポーツカーだけどファミリーカーとして活躍中。このクルマのオーナーである理砂さんは本来クルマ好きではなかったそうだ。180SXを愛車として選んだ理由、そこに至るまでの背景、そして込められた温かな想いをご紹介する。

FRスポーツカー全盛期とも言える1990年代に、日産・シルビア(S13)の姉妹車として人気を博したハッチバッククーペの180SX(RPS13)。
そんな180SXにチャイルドシートを載せて、ファミリーカー兼通勤カーとして愛用しているのが、沖縄県に住む渡口理砂さん(46才)。

「私はもともとクルマのことは全然わからなくて、詳しくなったのは旦那と結婚してからなんです。旦那は中学校の同級生で、プチ同窓会で再会したのをキッカケに結婚しました。旦那は根っからのクルマ好きで、ドリフト仕様にカスタムしたオレンジ色の180SXを持っているんですけど、そのエンジンが不調になって載せ換え作業を自宅でやっていたときに、それを手伝っていろいろ一緒に調べているうちに知識が増えていきました。当然、最初は専門用語がよくわからなくて『何をしゃべっているんだろう?』って思っていましたけど(笑)」

こうして旦那さんの愛車に関わるうちに、180SXというクルマを好きになっていった理砂さんは、自分用の180SXを探し始めたものの、車両探しは難航…。2年にわたって探し続けて、ついに旦那さんが発見したのがこの180SXだったという。

「私がオートマ限定免許だったためAT車の180SXを探していたんですけど、中古車市場に出回っているのはマニュアル車ばかりで。2年がかりで旦那が中古車情報サイトに載っているのを見つけてくれました。写真が3枚だけで不安だったんですけど、走行距離7万7000kmくらいで、見た目が超極上だったんですよ。場所が長野だったので『埼玉に住んでいる友達に現物を見に行ってもらおうか?』なんてことも考えたんですけど、その間に誰かに買われるくらいなら買ってしまおうってことになって、そのクルマ屋さんに旦那が電話をして、その日のうちに入金まで済ませたんです」

理砂さんによれば、情報を出していたのは外車専門のお店で、180SXは下取りしたクルマだったという。
「自分たちも180SXに乗っていて必要な整備はすべてできることを伝えたところ、点検整備費用などを引いてくれくれたこともあって、沖縄までの輸送費や車検費用を含めても100万円くらいで買うことができました。この頃の沖縄での180SXの相場は10万kmオーバーでも200万は超えていたので、すごくお得な価格で手に入れられたと思います。2年待った甲斐がありました!」

こうして2年前の2020年5月に理砂さんが購入したのが、1991年式の180SX(RPS13)。
「購入当初は旦那と同じオレンジにオールペンしようとしていたんですけど、車両全体がとても綺麗だったので、あまりイジらないようにと方針を変えました。ちなみにワンオーナー車で、ディーラーで車検やメンテナンスをやっていたようで整備記録はもちろんガソリンの領収書の綴りまできっちりと残っていたんです。乗りはじめるにあたって整備面では燃料漏れしていた燃料ポンプのホースを交換したくらいでしたね」

過去の整備状況までしっかり把握できて安心して乗れる理想的な180SXを愛車にした理砂さんは、チャイルドシートを装着してファミリーカーとしても使える状態にし、毎日の通勤はもちろん、街乗りもほぼ180SXで出かけるようになる。
「このクルマに乗るのは本当に楽しいです。仕事は薬剤師の助手をしているんですけど、ちゃんと通勤許可証もいただいて通っています。たまにスポーツカーを見て追いかけてきた人がチャイルドシートを見てびっくりしていたり、よく外人さんにも声をかけられますね。『いくらで買ったの?』『どこで買ったの?』『ドリフトをするの?』って。子供の眼科にこれで行った時には、診察は5分なのに眼科の先生とクルマの話を20分もしていたこともありました(笑)」
180SXに乗るようになってからの数々の楽しいエピソードを話してくれる理砂さんは終始笑顔。その表情からも、この180SXとのカーライフを心の底から楽しみ、とても大切に想っていることが伝わってきた。

そんな彼女に、180SXの特にお気に入りな部分を尋ねてみた。
「一番のお気に入りは、やっぱりニスモのホイールかな。一度傷つけてしまったけれど、修繕して装着しています。キャップもエアバルブもすべてニスモに統一しているんですよ」
そのほかにも、マフラーや車高調もアフターパーツに交換されていた。

「シートも最初は純正だったんですが、ちょうど肘が当たるところが破れていてボロボロだったので、バケットシートに交換したんです。ミニバンなどと比べると雨が降っている時に子供を乗せたり降ろしたりするのがちょっと大変ですけどね(笑)。あとは子供のために旦那のハイエースから外したDVDも取り付けたんですが、シフトレバーとの距離が近すぎてDVDを出し入れする時にパーキングだと交換できないので、いちどドライブにしないといけないのがちょっと大変です(笑)」

そう笑顔で話してくれる理砂さんのお子様は、現在2才と5才の男の子。この日の取材にも旦那さんと共に参加してくれて、撮影中も180SXと戯れている様子がとても可愛いかった。

「ふたりも家の全部のクルマのエンジン音を聞き分けるぐらい180SXが大好きなんです。旦那が自宅でタイヤ交換などの作業をしているのを見て、マネして工具を持ち出していじったりしていますよ」
ちなみにご自宅には部品取りの180SXが2台、さらに旦那さん所有のハイエースもあるそうで、家族で買い物に出かける時はハイエース、ドライブに行く時は180SXなのだそうだ。ハイエースがあってもドライブの時は180SXというあたりは、さすクルマ好きファミリーといったところ。

また理砂さんが180SXに乗るきっかけをくれたクルマ好きの旦那様についても「結婚するまではこんなにもクルマが好きだと思わなかったけれど、旦那はお家でお酒も飲まないし、変なことにのめり込んで散財するよりは、形として残るクルマにお金をかけたほうがましかなって。いざという時は売ったらお金にもなりますしね(笑)」と前向きに(!?)理解を示しているようす。

自分でもドリフトをしてみようとは思わないのか?という点については「AT限定ですし、一度旦那の180SXでサーキットを走ったことがあったけど、全然無理でみんなすごいなって。サーキットは走れなくても、送り迎えで180SXに乗っていくと『これに乗ってみたい』っていってくれる子もいるので、それだけで嬉しいです!」と現状に不満はないようだ。
ちなみに理砂さんが免許を取得したのは22才の頃で、最初はマニュアル免許に挑戦したものの、坂道発進ができずに諦めてAT免許を取得したという経緯があったのだとか。

そんな理砂さんには、ひとつの夢がある。
「いつか息子ふたりが免許を取って、私たちの180SXに乗ってドリフトしてくれたらいいなって思っています。そのためには旦那と私が180SXを綺麗に乗り続けないといけないですけどね(笑)」

理砂さんがAT仕様の180SXという希少なスポーツカーをファミリーカーとして大切に乗り続けるのは、彼女自身のカーライフが楽しい毎日に彩られているのはもちろん、旦那さんやご家族と共に未来予想図を描くためのツールでもあるからなのだ。
渡口さんご一家の絆は、これからも180SXと共にさらに深くなっていくことだろう。

取材協力:オリオンECO 美らSUNビーチ

(⽂:西本尚恵 / 撮影:土屋勇人 / GAZOO編集部)