興味ゼロだった親父のカローラにハマり、29年という濃密な時間を共にしてきたTE71

  • GAZOO愛車取材会の会場である香川県の『道の駅 恋人の聖地 うたづ臨海公園』で取材したトヨタ・カローラ ハードトップ 1600GT(TE71型)

    トヨタ・カローラ ハードトップ 1600GT(TE71型)


カローラの4代目として、1979年にデビューを果たしたE70系。
サスペンションは、フロントがストラットでリヤがリジッドアクスルと、初代から続く型式を保っていたが、この4代目からバンとワゴンを除いてコイルスプリングの4リンク式へと進化した。そして、その熟成型が名車AE86となったと言えば、素性の優れたシャーシであるとお分かりになるはずだ。
搭載されるエンジンは、1.3〜1.8リッター4気筒のK型、T型、A型、C型(ディーゼル)などで、レビンやGT系には1.6リッターDOHCの2T-Gが搭載された。

このように書くと、当時を知らない世代は、若者からも人気のモデルであったかのように思ってしまうかもしれないが、残念ながら現実は少し異なっていた。
レビンを除くと若者層が指名買いするようなモデルではなく、いわゆる大衆車なのである。
カローラ自体は、1974年以降、車名別世界生産台数が1位という数を記録し続けるほど、常に売れていたが、当時、10代後半〜20代の若者からすればE70系の普通のカローラは“平凡なクルマ”だった。

ここにご登場いただく『ぷくすけ』さんは、初めての愛車がE70系カローラ。もちろん、当時は自分で望んで選んだわけではなく、父上が乗っていたお下がりとして譲り受けたクルマだったという。
「ボクが小学校5年の時に、初のエアコン付きのクルマとして我が家に来たクルマなんです。それを大学4年の時にお下がりとして貰ったんです」

小学生の頃に来た家のクルマということで、家族で海やキャンプに行ったという想い出深いクルマだそうだが、ぷくすけさんにしてみると…。
「親父が喫煙者だったんで、タバコ臭いし、鉄ちんホイールのドノーマルだったんで、就職が決まったら新車に乗り換えるつもりでいました。だから、それまでの繋ぎぐらいにしか思ってなかったですね、当時は」

  • (写真提供:ご本人さま)

めでたく就職先も決まり、大学生の内に新車に乗り換えようとしたところ、ご両親から『新車は許さん!』と、猛反対され大喧嘩に。
ぷくすけさんは「オレはこのボロ・カローラに一生乗るけんなぁ」と啖呵を切ったそうで、そのままAE70セダンに乗ることになったという。

子供の頃の家族との思い出があるとは言え、当時のぷくすけさんの興味の対象は、走りを楽しめるクルマ。もしAE70カローラセダンが単なるファミリー向けのセダンだったら「一生乗るけんなぁ」という啖呵もすぐに忘れて、新車に乗り替えようと画策していたに違いない。
しかしE70系カローラは、当時から走り好きのツウが好んで乗るという、大衆車の皮を被った隠れた名車だったのである。

「理系でメカ好きなので、自分でメンテナンスをしたり、ハンドルを替えたり、ホイールや足まわりを今風に言うとカスタマイズしていくうちに、乗るのがどんどん楽しくなっていくんです。噛めば噛むほど味が出るスルメみたいなクルマで、いつの間にか病みつきになっていましたね(笑)」

そんなぷくすけさんを後押しするようなクルマ雑誌の連載が、当時2誌であったそうで「毎号その雑誌を食い入るように読んでいました。メンテナンスとか、カスタマイズはその記事を見て覚えたようなもんです」

そのように、いじるのも乗るのも楽しいAE70カローラセダンにのめり込んでいったぷくすけさんだったのだが、ただ一つ、そして大きな不満があったという。その不満の元がエンジンだった。
「1500ccエンジンであることにだんだんストレスを感じてきて、1.6リッターDOHCの2T-Gを積む“GT”に憧れるようになってきたんです」

そんな時、現在の愛車となっている1980年式のカローラハードトップ 1600GT(TE71型)と運命的な出会いを果たす。
「忘れもしません。1996年の春の夜に、このTE71カローラハードトップとたまたますれ違ったんですよ」
すれ違っただけではあったが、当時ナンバー(2桁)のフルオリジナル、状態が非常に良いということをぷくすけさんはチェックしていたそうで、「もう一目惚れでしたね」と当時を振り返る。そして、その2ヵ月後。なんと市内のガソリンスタンドに、そのTE71が停まっているのを見つけたそうだ。

「給油ついでにスタンドに入って、スタッフさんに聞いたら、なんと副所長さんのクルマで、副所長さんもかなりの旧車好き。その場で旧車談義が盛り上がって、それ以来、話しをするようになったんですよ」

その副所長さんは、TE71の他にも1980年代のトヨタ車を複数所有していたそう。この複数持ちというのが、ぷくすけさんがTE71を譲り受けるキッカケとなった。

  • (写真提供:ご本人さま)

「自動車税の納付時期に、納税額が高くなり過ぎたみたいで『TE71を買わない?』って話を持ちかけられたんです。欲しいけど、程度が極上だし高いんだろうなぁと身構えたんですが、びっくりするぐらい安く譲ってもらえたんですよ」

そんな経緯で、一目惚れしたTE71を手に入れたぷくすけさんは、以後、程度極上の状態を保ったまま、いや、正確には、よりコンディションを良くしながら現在まで所有し続けてきた。

「錆びもなくTE71としては本当に良い状態だったんですけど、何箇所か軽くぶつけたままになっていた部分があって、そこは補修しています。補修するにはサイドのストライプを剥がさねばならなかったんで、ステッカー屋さんに特注して、ノーマルの出で立ちを保っています」
そんな部分補修はあるものの、多くの部分を占める純正塗装部は、ラインオフから半世紀近い時間の経過をまったく感じさせないほどのコンディションを保っている。

  • (写真提供:ご本人さま)

「実家が桃農家で、クルマが入る倉庫があるんで、基本的にそこで保管しています。ただ収穫時期はそこに桃を保管するので、別の場所に停めなくちゃならなくなるんですけどね」
その別の保管場所に、たまたまTE71を移動していたことで、廃車の危機から逃れられたことがあったという。

「2018年の西日本豪雨の時に、ウチも浸水被害に見舞われたんです。いつもクルマを入れている倉庫から、たまたま移動させてた時だったんで、TE71は水に浸かることもなく無事だったんです」
当時の写真を見せていただくと、かなりの高さまで水が入っているので、このたまたまの移動がなかったら、本当に廃車となってしまっていたかもしれない。
こうした幸運にも助けられながら、現在まで愛車と過ごすことができているという。

TE71は現状維持をするだけではなく、オリジナルの雰囲気を崩すことなく、細かなところで進化している。例えば、ぷくすけさんこだわりのRSワタナベホイールに付くセンターキャップもそのひとつ。
「金属加工系の会社に勤めているんですが、3Dプリンターなんかもあって、それを使わせてもらって作ったワンオフのキャップなんですよ」

もちろんクルマを傷めないために“そこまでするんだ!?”と驚かされるほど、細かな注意を払っている。取材時は真夏を思わせる暑さだったのだが、ぷくすけさんは、ヘッドバンドとリストバンドをしてのご来場。聞けば「汗が車内に垂れないように、夏場はヘッドバンドとリストバンドをして乗ってます」
そういった細かな愛情なくして、このコンディションは保てないのであろう。

E70系カローラを溺愛するマニアの集まり『ナナマルカローラ保存会』のメンバーでもあり「体力が続く限り乗り続ける覚悟です」というぷくすけさん。きっと10年後にお会いしてもクルマのコンディションは変わらぬまま、いや、もしかするとますます良い状態となっているかもしれない。

(文: 坪内英樹 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:道の駅 恋人の聖地 うたづ臨海公園 (香川県綾歌郡宇多津町浜一番丁4)

[GAZOO編集部]