“誰もが幸せになるクルマ”と共に過ごす喜び。23年目の『ロードスター愛』はこれからも続く

  • GAZOO愛車取材会の会場である西京極総合運動公園で取材したマツダ・ロードスター(NB8C型)10周年記念車

    マツダ・ロードスター(NB8C型)10周年記念車


「技術屋だった親父は、学生時代に自動車部に所属していたほどのクルマ好き。自宅には自動車に関する書籍などが沢山ありました」
マツダロードスターに惚れ込み、20年以上に渡って人生を共にしてきたオーナーの『てんりみ@0008』(以降:てんりみ)さん。クルマに興味を持ったのは父の影響が大きかったという。そんな環境で育った彼にとって、クルマは日常に溶け込んだ存在であった。

幼い頃の記憶に残っているのは、家族でのお盆の帰省。京都から母方の実家がある山形県鶴岡市まで、毎年車で長距離ドライブをしていたそうだ。およそ700〜800kmという距離を一日かけて走る旅は、当時の彼にとって「クルマで走ることの楽しさ」を肌で感じる原点だったという。

そんな彼が初めて手に入れた愛車は、20歳の頃。社会人になって収入が安定し始めたタイミングで、父の職場の知人から譲ってもらったマツダ・ファミリアXGだった。のちに故障してしまい、2台目として選んだのはファミリアセダンGT-X。ブルーバードSSSへの憧れもあったものの、縁があったのは4WDターボのスポーツセダン。ちょうどディーラーで特売されていたのも決め手だったそうだ。
「トランクが付いているセダンが欲しかったんですよ。実用性もあって見た目も好みでしたから」

振り返ると、てんりみさんは常に自分のライフスタイルに合ったクルマを選んできた。
ファミリアの次に乗ったのは、家族が増えたことをきっかけに実用性を重視して選んだマツダ・ボンゴフレンディ。中でも、屋根がポップアップしてテントのように使える『オートフリートップ』仕様を選んだのは、夏に毎年出かけていた鈴鹿8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)観戦のためだったという。
「鈴鹿サーキットまでのロングドライブも、現地での車中泊も快適でした。屋根を開けると風が通って、本当に気持ちよかったです」

時が流れて家族構成も変化する。方向転換を図ったてんりみさんが次に選んだのが、それまでとは真逆ともいえるオープンカー、マツダ・ロードスター(NB8C型)だった。
「ボンゴフレンディの“屋根が開く”という体験がどこか心に残っていたのかもしれません。今度は、ひとりで気持ちよく走れるクルマにしようと思ったんです」

ボンゴフレンディとロードスター。真逆のようなクルマ選びだが、どちらもてんりみさんにとっては、その時の暮らしに寄り添った選択。『その時欲しいと思ったクルマが、たまたまマツダ車だっただけ』と話すが、マツダ車の持つ個性に魅了されている様子が伺える。

初めて手に入れたロードスターは、シルバーの新車であった。しかしその1台目は、不運な事故によって、1度目の車検を迎える前に手放すことに…。だが、彼の中にあった『まだ乗り続けたい』という思いは強く、迷うことなく次もおなじロードスターを選ぶことになる。

マツダの中古車展示場を訪れたてんりみさんの目に留まったのが、現在所有しているこのブルーのロードスターだった。そこにはもう1台、オレンジ色の個体もあったが、エキマニやマフラー、そして点火系など、自身が求めていたパーツがすでに装着されていたこのブルーのクルマを選んだそうだ。
「まさに自分がやりたかった仕様そのものでした」と振り返る。しかし、当時はそれが10周年記念車であることを知らなかった。

てんりみさんが手に入れたのは、世界で7,500台、日本国内では500台しか存在しない限定モデルだったのだ。
「フロアマットにエンブレムがあるのを見つけて、初めて10周年記念車だと気づきました」

このモデルは、1.8Lエンジンを搭載するRSグレードがベースとなっていて、重量差の少ないピストンやコンロッドを厳選して組み上げられている他、軽量フライホイールを採用するなど、吹け上がりの良さを追求した特別な仕様なのだ。
「1台目の標準車と比べると、明らかにレスポンスが良いですね」と、てんりみさん。

エクステリアもスペシャル仕立てだ。ボディカラーは、おなじマツダのスポーツカーRX-7(FD3S型)でも人気を集めた『イノセントブルーマイカ』。ソフトトップも同系色にアレンジされ、さらにバフ仕上げの専用アルミホイールを装備している。そして、フロントフェンダーにはシリアルナンバー入りのオーナメントが誇らしげに輝く。

さらにインテリアにも手が入り、ブラックを基調としつつ、外装色とおなじブルーを組み合せたツートン仕上げとするなど「現代においても例をみないほど、造り手の想いとコストが掛かった特別仕様車だと思います」と、こだわりの強いオーナーに、そう言わしめる程の仕上がりである。

「契約したオーナーさんに、10周年記念の時計やミニカー、限定バッジなどの記念品が進呈されたんです。私は中古車で手に入れたので、この記念ギフトは持っていなかったのですが、ネットオークションなどで一生懸命集めました」と、貴重なアイテムをご持参いただき、披露してくれた。

振り返ると、この10周年記念モデルを手に入れたのは2002年。それから通勤や街乗り、そしてミーティングやオフ会などフル稼働してきた“人生の相棒”であり、走行距離は20万kmを超えながらも、今も快調そのもの。

そんなロードスターは、人との繋がりを生んでくれる存在でもある。ミーティングやオフ会なども盛んに行われているため、イベントに参加しやすいという。

「このクルマがきっかけで、ロードスターの開発主査である貴島孝雄さんや山本修弘さん、商品企画を手がけた山口さんとも、お会いする機会をいただきました」

実は、10周年記念車のオーナーを対象としたミーティングが、広島のマツダ本社で行なわれ、同じ青いボディカラーの車両が8台ほど集まった。その際に貴島氏や山本氏らによる講演会も開催されたのだ。

「ロードスターの生みの親でもある皆さんに、この10周年記念車ができた経緯や苦労話などをお話しいただきました。並々ならぬ情熱や想いを込めてクルマを作ってらっしゃったことがよく分かりました。大変、貴重で有意義な時間でした」

今回の取材にあたり、応援に駆け付けてくれたせ〜ちゃんさんも、同じ10周年記念車に乗っているクルマ仲間。1年前にSNSを通じて知り合い、ミーティングに一緒に出掛けるなど交流を深めているという。
カスタムを楽しむてんりみさんに対し、せ〜ちゃんさんはオリジナル派。それぞれの楽しみ方ができるのも、ロードスターというクルマの懐の深さだろう。

「マツダはオーナーを凄く大切にしてくれるメーカーだし、ロードスター乗りはみんな心底、クルマを楽しんでいると思うんです。このクルマに出会えて本当に幸せです。初代NAロードスターのカタログに記された“だれもが、しあわせになる。”という言葉は、歴代モデルにしっかりと受け継がれていると感じますね」

時代が変わり、価値観も多様化する中でも、まったく色褪せない輝きを放ち続けるマツダ・ロードスター。その原点に惚れ込み、維持し続けるてんりみさんの姿は、クルマを“モノ”としてではなく“パートナー”として捉えるすべての人の共感を呼ぶことに違いない。
そして唯一無二の愛車と、これからの人生を共に走り続けていくことだろう。

(文: 石川大輔 / 撮影: 清水良太郎)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:西京極総合運動公園 (京都府京都市右京区西京極新明町32)

[GAZOO編集部]