ビートに魅せられて約20年。いつかは子供、そして孫へと繋いでいきたい幸せの黄色いバトン

  • GAZOO愛車取材会の会場である西京極総合運動公園で取材したホンダ・ビート(PP1型)

    ホンダ・ビート(PP1型)


1991年に登場したミッドシップ・レイアウトの軽オープンスポーツカー、ホンダビート(PP1型)。
維持費の安さに加え、オープンカーならではの開放感、キビキビとしたハンドリング、高回転型NAエンジンの爽快な走りで、多くのファンを魅了した。1996年に販売終了となった現在でも、オーナーズミーティングが開かれるなど、根強い支持を集める名車だ。

そんなビートを、20年近く大切に乗り続けているのが、京都府在住の『セブン』さん。

「どうしても開放感が味わえるオープンカーが欲しかったんです」と語るセブンさんは、スーパーカーブーム世代。若い頃からスポーツカーに憧れていたという。
初めての愛車はマツダ・ルーチェ。その後は結婚や子育てを経て、アルトワークスやワゴンR、フィット、シエンタなど、経済性や実用性を重視したクルマを乗り継いできたという。

転機が訪れたのは2007年。転職に伴う退職金を活用して『自分専用のオープンカーを手に入れよう』と決意したという。
「当初は、以前乗っていたアルトワークスと同じエンジンを積んでいたことから、カプチーノを考えていたんです。でも、なかなか良い個体が見つからなくて…」

当時、新車で手に入れられる軽オープンはダイハツ・コペンのみ。そうでなければ、中古でAZ-1、ビート、カプチーノのいずれかを購入することになる。
「コペンは高価だったし、AZ-1は荷物がほとんど積めなさそう。そうなるとビートかカプチーノのどちらかに絞られました」

そんな中で、縁を結べたのはホンダ・ビートであった。
「近所のホンダディーラーでビートが販売されているのを見つけたんです。しかも、前オーナーがそのディーラーの営業マンだと聞いて『それなら間違いないだろう』と思って購入しました」

セブンさんが購入したビートは1991年式。購入当時で約15年落ちの個体だったにも関わらず走行距離は3万5000kmという極上車で、しかも『ビートを買うのなら黄色が良かった』という希望通り、フラッグシップカラーのイエローだったのも幸運だった。

  • (写真提供:ご本人さま)

「運転が好きなので、ビートを手に入れてから通勤はもちろん、休日はオープンにして遠出するのが楽しみになりました。東京や鹿児島にも行きましたね。2009~2011年の『高速道路休日上限1000円』のときは、山口までご飯を食べに行ったり(笑)。年間で5万km走ったこともあります」
所有してから20年近く経った現在の走行距離は22万3500kmに達している。

すっかりセブンさんの大切な相棒となったビートだが、この20年近くの間に好みに合わせて少しずつ“さり気ない”カスタマイズも加えてきた。

「エアロパーツは少しだけカッコ良くしたくて、サイドステップだけ装着。ホイールは似合うかな? と思ってワタナベ製に交換しました。そして、旅行やキャンプで荷物を積めるように、キャリアも追加しました。このキャリアには、趣味でやっているドローンの機材を積むこともあるんですよ。さらに、リヤには遊び心でシビックタイプR用の『TYPE R』エンブレムを装着しています」

「その他では、マフラーも交換していて、今はFUJITSUBO製が装着されているんですが、実はこれで5本目なんです。ちなみにこれまで装着し中で一番のお気に入りは、無限のマフラーです。真ん中の2本出しというレイアウトがカッコ良かったですし、サウンドも気に入っていました」

車内でのカスタムで目を引くのが、年季の入ったMOMO製のステアリング。これは10年ほど前に、ビートのオフ会のじゃんけん大会で当たった景品だそうだ。
実用性やほんの少しの遊び心で、プラスα程度のカスタマイズが施されてきたビート。しかし、22万kmも乗っているとなると、故障時の対応やメンテナンス、劣化部分の対処なども気になるところだ。

「当初は“10万kmを超えたら各部のオーバーホール”という意識があったので、そのタイミングでディーラーさんに相談したら、『まだ大丈夫です』って言われまして…。で、14万kmの時にもう一度チェックしてもらったら『ぼちぼちですね』とのことだったので、エンジンとミッションのオーバーホールをお願いしました」

美しいイエローのボディは、5年前に大掛かりな全塗装をしたのだという。
「外装は知り合いの車屋さんで、純正カラーへの塗り直しと、ボロボロだった幌の交換をしてもらいました。結局、購入時と同じくらいのお金が掛かってしまいましたね、ハハハ。あとはリヤのスクリーンも3年前に貼り換えしていますし、サスペンションも3回交換しています。ちなみに、今装着しているカヤバ製のサスペンションは7万km乗っているけれど、ヘタっていないので優秀だなぁと感心しているんです」

「ほんま色々手間は掛かるけど、維持費も安いし、なにより乗っていてとても楽しいんですよ。だからやっぱり降りられないですよね」と、嬉しそうに話してくれた。
しかし、販売終了からすでに30年近く経過している現在、純正パーツの製廃も増えてきて部品が手に入らなくなりつつあるのが悩みだという。

モール類は代替がなく、バックランプのスイッチも純正では入手不可。他車種からの流用で賄えるという話もあるそうだが、今後はさらに同じような状況に陥るパーツが増えてくることは明白なのである。
旧車を健康体で維持していくには、誰もが向かい合わなくてはいけない“純正部品の枯渇問題”。セブンさんも日頃から必要なパーツが発掘できないかと、ネットオークションに目を光らせているそうだ。

  • (写真提供:ご本人さま)

そんなセブンさんは、実は2、3年前にもう一台の趣味車として『ケータハムスーパーセブン』を購入したそうだ。同じオープンカーではあるが、ビートとは趣が異なるスーパーセブンに乗ることで、新たにピートの良さが見えてきたこともあるのだという。

「ビートは軽自動車なので、もう少し排気量が大きいオープンカーが欲しかったことと、一度は輸入車に乗ってみたいと思っていたので増車したんです。ケータハムに乗ってみての感想は、クルマというよりは、むしろタイヤが4つ付いているオートバイみたいな感覚でした。もうすべてが別次元ですね(笑)」

「それから、これまで水温計なんて確認したことなかったんですけど、水温計の針が頻繁に上下するケータハムに乗ってからは、ビートに乗っても水温計を気にするようになりました。ビートに乗って20年近く経ちますが“キーを回せば乗れる”ということが、実は当たり前じゃなかったことに気付いたんです。それからは、常に感謝しながら乗るようになりましたよ」

  • (写真提供:ご本人さま)

現在は、ファミリカーとしてのシエンタ、そしてビートとケータハムという3台体制でカーライフを楽しまれているセブンさん。そんな中で、ビートは通勤用として、ケータハムは休日にフラッと気ままなドライブを楽しむ相棒といった感じで乗り分けているそうだ。

「今住んでいる京都市内は土地が高いので、いずれ仕事を引退したら娘が住んでいる奄美大島に移住して、ビートとケータハムとのんびりガレージライフを楽しめれば良いなと思っているんです。そのために、今はSNSでガレージライフの投稿などを見ながら、妄想を膨らませています。できれば、ビートは息子か孫かに引き継いでもらえたら嬉しいのですが、どうなることやら…?」
そう語るセブンさんの表情は、実に穏やかで優しかった。

『いつかオープンカーに乗りたい』
そんな想いを叶えてくれたビートは、長い年月を経て今ではかけがえのない生涯の相棒となっている。そしてこれからも、ワクワクする気持ちを乗せてセブンさんと共に走り続けていくだろう。

(文: 西本尚恵 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:西京極総合運動公園 (京都府京都市右京区西京極新明町32)

[GAZOO編集部]